【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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6 コルセット

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 イズモは、駆け寄った。
 久しぶりに体に力も入り、頭がすっきりしている気がする。ずいぶん乱暴な扱いをしていたから、どこか怪我をしたのではないか。
 そっと抱き上げる。あまりの軽さに息を飲んだ。こんなに細い体をコルセットで絞め上げている。何の肉も無さそうな体に、固いコルセット。何故こんなことをするのか分からないが、苦しいだろう。
 イズモはもちろん付けたことはないが、四代目花嫁のサクラもその前の三代目ヒルガオも、コルセットは大嫌い、と言って花嫁衣装を脱いだ後は二度と付けなかった。 
 花嫁用のベッドへ寝かせ、ドレスを脱がせる。塔の守り人であるカナメヅカ家の当主が、自身の寿命をけずって塔の中へ入り、掃除や洗濯をしてくれていたお陰で、長い間使われていなかったベッドも清潔だった。
 コルセットの外し方が分からずに難儀していると、扉が開けられる音がした。

「イズモ様。ご無事ですか。外に不審な者が。」
 
 カナメヅカ家の当主ミカゲが、扉の外から声をかけてきた。塔の出入りは、イズモ以外の人間には自由にできる。出入りの際に軽い違和感はあるが、ただそれだけだった。けれど、塔の中へ入った途端、薄皮を剥ぐように生命力が削られていく。イズモと約束の花嫁以外は、五日と持たずに干からびて死んでしまうだろう。
 そんな危険な場所に、ミカゲと妻のヌイはしょっちゅう入ってきては、掃除や洗濯をしてくれている。だが、むやみやたらと入ったりはしなかった。少しでも長くイズモ様のお世話をしたいから、寿命を無駄に削ったりしない、というのが理由であると知ったときは、久々に泣いたものだ。力を失いつつある身では、加護をかけてやることもできず、歯痒い思いをしていた。
 イズモは、コルセット姿の花嫁をもう一度抱き上げて、ミカゲに渡そうと思った。この子が気を失っている理由が分からないし、酷く顔色が悪い。外で手当てしてもらった方が良いだろう。
 だが、長い間寝たきりだった体は、すでに限界だったらしい。こんなに軽い子どもを持ち上げることができず、疲労感にさいなまれ始めていた。

「放り込まれた花嫁らしき者が、気を失っている。苦しそうなコルセットが外せない。」

 とりあえず出入り口に向かって声を上げる。体の状態を自覚すると、立っていることも難しくなってきた。

「イズモ様はご無事ですね。花嫁なら、妻をそちらへやります。」

 ベッドの横に座り込んでしまっていると、ヌイがやってきた。ベッドの上の花嫁を見て、目を見開く。
 
「すまない。外へ出そうと思ったのだが、運べなくて。」
「いえ。イズモ様も動けるうちに、ご自分のベッドへお戻りください。ヌイには、イズモ様は運べません。」

 気遣わしげにイズモを見たヌイは、イズモにベッドへ戻るよう指示を出した。イズモのことも心配で仕方ないが、時間をかけてはいられない。塔の中にいられる時間は限られているのだ。
 すぐに、花嫁と思われる子どもをうつ伏せにしてコルセットを外していく。あまりに細い体と、か細い呼吸に、はらはらする。
 手早くコルセットを外してみると、小さな体はコルセットの形に鬱血して、背中には鞭打ちの折檻の後が無数にあった。

「何てこと……。」

 思わず呟いて、思案する。コルセットを絞めすぎたせいで、あばら骨も傷んでいるようだった。下着一枚の子どもをシーツでくるみ、抱き上げる。
 ヌイは、何とかベッドへ這い上がったイズモを確認すると、子どもを抱いて寝室を出た。
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