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9 天国か地獄か
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たぶん、天国だと思う。何故なら、ふかふかと肌触りのいい布団に寝ている。きついコルセットも外してある。なのに、天国でもこんなにあちこちが痛いなんて予想外だった。お腹も空いたままだ。喉も渇いて痛い。
死んだら、これらのことから解放されると思っていたのに。死んでも痛いなんて最悪だ。それなら、どうしたら俺はこの苦しい体から逃れることができるのだろう。
もう、他に手がない。
死こそが、最後の手段だったのに。
ひー、ひー、と喉から音が漏れた。
「起きたのか?」
男の人の声がして、覗き込む人影が見えた。びくっと体が揺れる。もう何年も、あまり人に会っていなかった。人に会うと、何か酷いことをされる。優しかったのは、声しか覚えていない、食べ物をくれるあの子だけだ。
もう一度目を閉じて開いてみた。
やはりこちらを見ている。
死んでない?
「何か食べられそうかな?スープがあるんだ。」
スープ!きゅう、とお腹がないた。飲む、飲みます。たくさん飲みます。
先ほど感じた恐怖も忘れて、彼ははくはくと口を動かす。
その動きだけでも、胸がずきずきと痛んで眉をしかめた。
「落ち着いて。僕はイズモ。今ね、先に蜜もあげるからね。」
蜜ってなに?
食べ物?食べ物なの?
美味しい?
俺、何でも食べるから。
声を出したくて口を動かすけれど、ひゅっ、ひゅっと空気が漏れるだけだった。
彼は必死で身を起こした。寝た姿勢では食べられない。痛い、痛い。涙が滲む。
イズモは、水で薄めていた蜜をベッド脇のテーブルに置いて、慌てて手を差し出した。
「起こしてあげるのに。無理をしたら駄目だ。胸のところの骨が傷んでいるのだからね。」
そう言いながら、枕やクッションを背中にあてがって体勢を整える。彼はもう、それどころではなかった。ベッド脇の入れ物から甘い匂いがする。よだれがあふれて、口の端から垂れてくる。
骨が痛むのを無視して、涙を滲ませながら手を伸ばそうとしたら、やんわりと止められる。
「落ち着いて。飲ませてあげる。」
イズモは、そっとスプーンで薄めた蜜をすくって口に運んでくれた。がぶりとスプーンに噛みつく。ごくりと喉を通る蜜は、甘くて滑らかでいつものように喉が痛くならなかった。
これ、美味しい。痛くない。
もっと。
早くちょうだい。全部ちょうだい。
でも、イズモはとてものんびりと次を口に運んでくる。器に手を伸ばすと、なだめるようにぽんぽんと叩かれて、かわされてしまう。
急いで飲み込んでいないから、余計に喉が痛くならないとは分からずに、彼はうーうーと不満の声を上げた。
イズモは気にした様子もなく、スープを別の大きな器に入れてくる。そしてまた、ゆっくりと口にスプーンで運んでくれようとしている。
彼は、口に運ばれたスプーンを、がっと噛んで動きを止めると、それを引ったくった。あ然とするイズモに構わず、器をよこせと要求する。
仕方なくイズモが渡すと、からりとスプーンを投げ捨てて器をあおった。口いっぱいに少し薄味のコンソメスープの味が広がる。野菜が溶け込んでトロリとしていた。少し熱かったが、口を離す気はない。
んっんっんっと、ほとんど息もつかずに飲んでいく。美味しかった。とんでもなく美味しかった。喉も、いつもほど痛くならない。
嬉しくて泣きながら飲み干した後は、疲れて果ててぐったりとしてしまった。
「熱かっただろう?もう少し冷ましてやれば良かったな。ごめんね。」
そう言いながら、水まで持ってきてくれたイズモに、ここは痛いけど天国で、この人は神様に違いない、と思った。
死んだら、これらのことから解放されると思っていたのに。死んでも痛いなんて最悪だ。それなら、どうしたら俺はこの苦しい体から逃れることができるのだろう。
もう、他に手がない。
死こそが、最後の手段だったのに。
ひー、ひー、と喉から音が漏れた。
「起きたのか?」
男の人の声がして、覗き込む人影が見えた。びくっと体が揺れる。もう何年も、あまり人に会っていなかった。人に会うと、何か酷いことをされる。優しかったのは、声しか覚えていない、食べ物をくれるあの子だけだ。
もう一度目を閉じて開いてみた。
やはりこちらを見ている。
死んでない?
「何か食べられそうかな?スープがあるんだ。」
スープ!きゅう、とお腹がないた。飲む、飲みます。たくさん飲みます。
先ほど感じた恐怖も忘れて、彼ははくはくと口を動かす。
その動きだけでも、胸がずきずきと痛んで眉をしかめた。
「落ち着いて。僕はイズモ。今ね、先に蜜もあげるからね。」
蜜ってなに?
食べ物?食べ物なの?
美味しい?
俺、何でも食べるから。
声を出したくて口を動かすけれど、ひゅっ、ひゅっと空気が漏れるだけだった。
彼は必死で身を起こした。寝た姿勢では食べられない。痛い、痛い。涙が滲む。
イズモは、水で薄めていた蜜をベッド脇のテーブルに置いて、慌てて手を差し出した。
「起こしてあげるのに。無理をしたら駄目だ。胸のところの骨が傷んでいるのだからね。」
そう言いながら、枕やクッションを背中にあてがって体勢を整える。彼はもう、それどころではなかった。ベッド脇の入れ物から甘い匂いがする。よだれがあふれて、口の端から垂れてくる。
骨が痛むのを無視して、涙を滲ませながら手を伸ばそうとしたら、やんわりと止められる。
「落ち着いて。飲ませてあげる。」
イズモは、そっとスプーンで薄めた蜜をすくって口に運んでくれた。がぶりとスプーンに噛みつく。ごくりと喉を通る蜜は、甘くて滑らかでいつものように喉が痛くならなかった。
これ、美味しい。痛くない。
もっと。
早くちょうだい。全部ちょうだい。
でも、イズモはとてものんびりと次を口に運んでくる。器に手を伸ばすと、なだめるようにぽんぽんと叩かれて、かわされてしまう。
急いで飲み込んでいないから、余計に喉が痛くならないとは分からずに、彼はうーうーと不満の声を上げた。
イズモは気にした様子もなく、スープを別の大きな器に入れてくる。そしてまた、ゆっくりと口にスプーンで運んでくれようとしている。
彼は、口に運ばれたスプーンを、がっと噛んで動きを止めると、それを引ったくった。あ然とするイズモに構わず、器をよこせと要求する。
仕方なくイズモが渡すと、からりとスプーンを投げ捨てて器をあおった。口いっぱいに少し薄味のコンソメスープの味が広がる。野菜が溶け込んでトロリとしていた。少し熱かったが、口を離す気はない。
んっんっんっと、ほとんど息もつかずに飲んでいく。美味しかった。とんでもなく美味しかった。喉も、いつもほど痛くならない。
嬉しくて泣きながら飲み干した後は、疲れて果ててぐったりとしてしまった。
「熱かっただろう?もう少し冷ましてやれば良かったな。ごめんね。」
そう言いながら、水まで持ってきてくれたイズモに、ここは痛いけど天国で、この人は神様に違いない、と思った。
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