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46 書記官の記録
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部屋の外にいた書記官の記録は、速やかにマクシムが回収し、自ら近衛騎士隊長である父の元へ届けた。
ざっと目を通したアドルスは、暫く絶句した後、よくやった、と息子を褒めた。後は、こちらで預かろう、と息子を帰し、忙しいのを承知で宰相府へと赴く。
宰相補佐官を何とか捕まえて、記録を見せた。そんな暇はない、と睨んでくるモーリスは、目の下に濃い隈を作っている。
「忙しいのは分かっている。だが、頼む。読んでくれ。」
歳上の近衛隊長に頭を下げられては断れない。溜め息をついて、忙しい部屋の隅で立ったまま読み始める。そしてすぐに、もともと悪かった顔色は更に酷いこととなった。
「……これを、子ども達が聞いたのですか。」
「ああ。」
ふらり、とモーリスは目眩をおこして倒れそうになった。アドルスのたくましい腕が支える。
「すみません。どこかで座りましょう。」
モーリスはふらふらとどこかへ行こうとする。
「おい。」
アドルスが付いていった先は、宰相執務室であった。宰相が、椅子に座って何やら考え事をしている。書類は幾らか机に置いてあったが、手が動いている様子は無かった。
補佐官用の机には書類が山積みである。その隣の机では、ジュストがせっせと書類の仕分けをしていた。
もうひとつある補佐官用の机にも人がいて、やつれた顔で書類に何やら書き込んでいる。
「デュラン、この忙しい時にどこへ行っていたのだ。」
「私はいつも仕事をしております。」
「言い訳はよい。私は少し席を外すゆえ、お前はここにおるがよい。」
「はい。」
宰相は、アドルスのことは一瞥しただけであった。アドルスもただ頭をさげてやり過ごす。
静かに頭を下げていたモーリスは、宰相が部屋を出ると必死でソファにたどり着き、崩れるように座り込んだ。
「大丈夫か。そのまま横になれ。」
アドルスの言葉に頷き、素直に横になった。部屋にいた二人が驚いて目を向ける。
「デュラン様。あの。」
ジュストが、そっと声をかけてくる。
「すまない、ジュスト、レミ。君たちも休んでくれ。限界だ。」
モーリスの言葉に、補佐官補佐の二人が顔を見合わせる。
アドルスが立ち上がって頭を下げた。
「すまない、私が面倒な事を持ち込んだのだ。」
「ベルナール様?」
レミと呼ばれた補佐官補佐が慌てて立ち上がる。モーリスの信用できる数少ない文官の一人だった。まだ若い顔が、すっかりやつれている。
「そちらの子どもは?」
「ジュスト・クレマンと言います。父は子爵です。学園が休みの間の仕事を紹介してもらって手伝いをしています。」
「ほう。この仕事は、誰の紹介で?」
「シリル殿下の紹介です。」
へえ、とアドルスはジュストを眺めた。ちら、とモーリスの方を見たが、目を閉じてしまっていた。
「本当にすまない。」
ソファに座ったアドルスが言うと、いや、とモーリスの声が返ってくる。
「子どもにこんな話を聞かせてしまったことが、悔しい。情けない。早々に処理をするから、預けてくれて大丈夫だ。陛下にも、お伝えする。」
「すまない。任せる。」
何度も頭を下げて、アドルスは出ていった。
ざっと目を通したアドルスは、暫く絶句した後、よくやった、と息子を褒めた。後は、こちらで預かろう、と息子を帰し、忙しいのを承知で宰相府へと赴く。
宰相補佐官を何とか捕まえて、記録を見せた。そんな暇はない、と睨んでくるモーリスは、目の下に濃い隈を作っている。
「忙しいのは分かっている。だが、頼む。読んでくれ。」
歳上の近衛隊長に頭を下げられては断れない。溜め息をついて、忙しい部屋の隅で立ったまま読み始める。そしてすぐに、もともと悪かった顔色は更に酷いこととなった。
「……これを、子ども達が聞いたのですか。」
「ああ。」
ふらり、とモーリスは目眩をおこして倒れそうになった。アドルスのたくましい腕が支える。
「すみません。どこかで座りましょう。」
モーリスはふらふらとどこかへ行こうとする。
「おい。」
アドルスが付いていった先は、宰相執務室であった。宰相が、椅子に座って何やら考え事をしている。書類は幾らか机に置いてあったが、手が動いている様子は無かった。
補佐官用の机には書類が山積みである。その隣の机では、ジュストがせっせと書類の仕分けをしていた。
もうひとつある補佐官用の机にも人がいて、やつれた顔で書類に何やら書き込んでいる。
「デュラン、この忙しい時にどこへ行っていたのだ。」
「私はいつも仕事をしております。」
「言い訳はよい。私は少し席を外すゆえ、お前はここにおるがよい。」
「はい。」
宰相は、アドルスのことは一瞥しただけであった。アドルスもただ頭をさげてやり過ごす。
静かに頭を下げていたモーリスは、宰相が部屋を出ると必死でソファにたどり着き、崩れるように座り込んだ。
「大丈夫か。そのまま横になれ。」
アドルスの言葉に頷き、素直に横になった。部屋にいた二人が驚いて目を向ける。
「デュラン様。あの。」
ジュストが、そっと声をかけてくる。
「すまない、ジュスト、レミ。君たちも休んでくれ。限界だ。」
モーリスの言葉に、補佐官補佐の二人が顔を見合わせる。
アドルスが立ち上がって頭を下げた。
「すまない、私が面倒な事を持ち込んだのだ。」
「ベルナール様?」
レミと呼ばれた補佐官補佐が慌てて立ち上がる。モーリスの信用できる数少ない文官の一人だった。まだ若い顔が、すっかりやつれている。
「そちらの子どもは?」
「ジュスト・クレマンと言います。父は子爵です。学園が休みの間の仕事を紹介してもらって手伝いをしています。」
「ほう。この仕事は、誰の紹介で?」
「シリル殿下の紹介です。」
へえ、とアドルスはジュストを眺めた。ちら、とモーリスの方を見たが、目を閉じてしまっていた。
「本当にすまない。」
ソファに座ったアドルスが言うと、いや、とモーリスの声が返ってくる。
「子どもにこんな話を聞かせてしまったことが、悔しい。情けない。早々に処理をするから、預けてくれて大丈夫だ。陛下にも、お伝えする。」
「すまない。任せる。」
何度も頭を下げて、アドルスは出ていった。
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