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39 お茶会という名の

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 お茶会の会場は、恐慌状態になっていた。シリルはいつも通りリュシルと護衛のマクシムと、招待された中庭を訪れただけである。

「死神。死神が。」

「何てこと。ああ、恐ろしい。」

「シリル殿下。何故。」

 腰を抜かしてしまっている侍女もいる。

「王妃殿下。お逃げくださいませ。」

 震える侍女の声。茶会の会場へ近寄ろうとすると、護衛騎士に阻まれた。マクシムがシリルの前に出る。

「招待されたから参りましたのに、これはどういう扱いか。」

 シリルは、離れた場所に立つ王妃に声を張り上げる。

「し、死神を伴って来られるなど、なんという暴挙であられますか。」

 少し近くにいた侍女が答えた。

「誰が、発言を許したか。」

 シリルが厳しく睨み付ける。

「無礼な、躾もなっていない侍女を配し、私を怒らせるのが目的であられるか。」

 これは話にならないと踵を返すと、シャルルがこちらへ歩いてくるところだった。

「シリル殿下。」

 シャルルは早足で近寄り、シリルに臣下の礼を取る。周りが、ざわつく。
 シリルが何かを言いかける前にシャルルの護衛騎士が二人の間に立った。

「下がれ、無礼者!」

 頭を上げたシャルルが厳しい声を飛ばす。

「王太子殿下に対し、なんという不敬か。」

「シャルル殿下。あそこにいるのは死神リュカです。危険と判断致しました。」
 
 見たこともないシャルルの剣幕に驚きながらも、護衛騎士はそのままけもせず答える。

「下がれ。どこにそのような者がいるか。これ以上の不敬、許せぬ。私の護衛騎士を解任する。この場から立ち去れ。」

 護衛騎士は、呆然とシャルルを振り返った。シャルルは見向きもせず、シリルに近寄ると、また頭を下げる。

「シリル殿下、私の監督不行き届きです。誠に申し訳ありません。」

「ああ。今、処分は聞いた。シャルルは許す。共に部屋へ帰ってお茶にせぬか。招待された茶会へ来たのだが、中へれぬと不可解なことを言われるので、帰る所だ。まったく訳が分からぬ。帰って、バジルに焼いてもらった手土産の菓子を一緒に食べよう。」

「ありがたきお言葉。よろこんでお受け致します。しかし、招待しておいて入れぬとは、王妃殿下は何をお考えなのでしょうね。私も、その茶会へ参ったのですが、そのような事情であるならこのまま、殿下にお供致します。」

 二人揃って歩き出した所へ、シャルルの侍従も行く手を阻む。頭を下げながらも前へ進めない位置で立っている。

「シャルル殿下。王妃殿下のお茶会はどうされるおつもりですか。」

「欠席すると伝えてくれ。」

「もうそちらに王妃殿下が見えていらっしゃいます。ご挨拶を。」

 くるりとシャルルは振り返った。

「王妃殿下、この度はお茶の席へのお招き、誠にありがとうございます。シリル殿下とお会いしてお話するのを楽しみに参りましたが、どうやらそちらのお茶会にシリル殿下が入れないとのこと。私は、シリル殿下とお茶を飲みたいと思っていましたので、シリル殿下のお誘いをお受けします。王妃殿下のお茶会を欠席することをお許しください。」

 離れた場所に立つ王妃に聞こえるようにと大きな声で述べ、頭を下げる。

「シリル殿下、お待たせ致しました。」

「よし、行こう。」

「シャルル殿下。一体、何をお考えか。」

「下がれ、無礼者。」

 まだ邪魔をする侍従に、シャルルの厳しい声が飛んだ。

「シャルル。」

 ついに、王妃の声が上がる。聞こえてはいるが、扇で口許を隠し離れたままなので、シリルとシャルルは聞こえないふりで振り返らなかった。

「お前も解任する。もう、私の側に寄らないでくれ。」

「シャルル殿下。」

「警備兵を呼ぶぞ。」

「シャルル。シリルから離れなさい。」

 少し近寄った王妃の声がして、仕方なくシャルルは振り返った。

「シリル。何故、そこの侍従を連れてきたのです。それは、大勢の人間を殺した殺人者でしょう。そのような恐ろしい者を側に置き、私との茶会に伴うなど、私への害意があるとしか思えませぬ。皆が近くへ寄ることなどできぬも道理。私の大切なシャルルの側へ近付けないで頂戴。」

「王妃殿下。リュカは、学園での私の友人です。そして、人を守ったことは多々あれど、殺したことなど一度もない。根も葉もない話を広げないで頂きたい。」

 シャルルが答え、シリルは振り向きもせず、リュシルを側に寄せた。

「シャルル。私は貴方を守ろうと手を尽くしているのに、一体何を言っているのです?それと、シリルは王太子などではありません。」

「王妃殿下は、ご存知ないのですか?シリル殿下が王太子となられるのですよ。私には、陛下自らお教え頂きましたが。立太子の儀は一月後です。ああ、広く公示されるのは、二日後でしたね。」

「そのようなことにはなりません。貴方が、貴方こそが王太子に相応しい。」

「いいえ、王妃殿下。私にその資格が無いことを、貴女が誰よりもご存知の筈です。」
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