【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

文字の大きさ
上 下
36 / 61

36 来てくれた

しおりを挟む
 色々と納得のいかないことだらけだが、シャルルの様子は気になる。仕方なくジュストは提案に乗った。

「かつらがないと、私たちがこの部屋から出られませんが?」

「仕事をトリスタンに持ってきてもらって、ここでしててください。リュカに紅茶も淹れてもらえばいい。」

「……シリル殿下。変わられましたね。」

 モーリスのため息混じりの言葉に首を傾げる。

「変わったつもりは無い。」

「もとからこんな感じだぞ。」

 国王が口を出すと、モーリスは諦めたように紅茶を啜った。


 学園の制服だったのが功を奏したらしい。シャルルの部屋に疑われることもなく辿り着いた。扉の前では護衛騎士や侍従が、シャルル殿下は体調不良で会えないの一点張りであったが、表の様子に気付いたシャルルが家庭教師を振り切って出てきて、ようやく入り込むことができた。
 中に留まろうとする侍従も、シャルルが命令を使って追い出す。
 三人はソファでやっと息をついた。

「ああ、会いたかったです。」

 兄上、という言葉は、声に出さずにシャルルは言った。侍従は、追い出したとはいえ、聞き耳を立てていることだろう。声は震えていた。

「遅くなってすまなかった。」

 シャルルはすっかり痩せて、目の下に濃い隈を作っている。ここに閉じ込められて五日か。間に合って良かった。

「シャルル殿下。ジャン様に手紙などは出せなかったのですか。」

「……始めのうちは、それも考えていたのだが。巻き込んでいいのか悩んでいるうちに、頭が働かなくなってきて。」

「王妃様には会っているのか。」

「はい。頻繁に様子を見に来ます。」

「何も言わないのか。」

「医師を手配して帰っていきます。食事を一緒に、というのはずっと断っていて。体調が悪いと言っているのに、家庭教師をずっと送り込んでくるんです。習ったことのあるようなことをずっと言ってるみたいですが、もう何だかぼーっとしてしまって。」

 一目見て明らかに調子がおかしいのに、何を考えているのだろうか。

「ジュストはどうして王宮へ?」

「呼ばれたから。」

「手紙を出したのですか、あに、あ、いえ。」

 兄上と言いかけて口をつぐむ。

「シャルル殿下は、ジャン様を巻き込まないように手紙を出さなかったんですよね。」

 ジュストは、シリルを睨んでみた。シリルは表情ひとつ変えない。

「巻き込むさ。友人だろ。お陰でシャルルに会えた。三日間、打つ手が無かったんだ。感謝してるよ、ジュスト。」

「う、いや、まあ、それなら良かったですけど。」

「そうか……、そうだな。私も頼れば良かったんだ。もしかして、届かなかったかもしれないけれど、手紙を出そうとしてみれば良かった。」

「まあ、たぶん、ジャン様は喜ばれると思います。本当に、心配されていたから。」

「うん。うん……。」

 ついに泣き出したシャルルの横に二人で座って背中を擦る。

「国王陛下も、呼び出しするって言っていた。大切な話があるから。何としてでも聞きに行け。」

 コンコン、と扉がノックされた。

「王妃殿下が、来られます。」

 シリルとジュストは、大急ぎで立ち上がる。扉を出る前に、

「シャルル。私のこと、好きか。」

 唐突に、シリルが言った。

「はい。小さいときからずっと。」

「そうか。私もだ。忘れるな。」

 ほとんど小走りで出ていった二人を見送って、シャルルはすっきりした気分でソファに座った。
 来てくれた。兄上は、来てくれた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...