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35 友人の家
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学園が休みになるのを待たずに実家に帰った友人から、手紙が届いた。うちに遊びに来て、と書いてある。ついでに仕事もあるから、お金も稼げるらしい。
ジュストは思う。ありがたい誘いだ。長い休みに、自分の実家へ帰るお金はないし、毎日の昼ごはん代も無い。仕事探しも、勉強優先にして出遅れている。成績が良いことと友人がお金持ちだから、と貧乏仲間からは爪弾きにされて、仕事の情報も貰えていない。
とてもありがたい。是非行きたい。……場所が王宮で無ければ。
ジュストは頭を抱えた。シリル殿下、シャルル殿下が夜の間に王宮に連れ戻されたことを心配して、様子を見に帰ったのではなかったのか。その前には、何とか王宮に帰らなくてすむ方法を考えていたのではなかったっけ?そんな場所に、遊びに来いって……。
結局、背に腹は代えられず王宮にいる。にこやかな第一王子様の部屋に招かれている。どんな格好をしたら良いのかも分からず、学園の制服で来た。それは正解だったらしく、すぐに部屋に案内してもらえたのは良かった。
「ジュスト、久しぶり。」
「と、言うほどでもない。」
「痩せたんじゃない?」
シリルはそう言いながら、お茶菓子にサンドイッチを出した。もちろん、甘い焼き菓子も幾つか置いてある。リュシルが紅茶を淹れて机に置いた。
「そりゃ、痩せますよ。一日二食なんですから。」
「宰相府でさ、事務仕事の手伝いをしてくれる人を募集してて。お給料がきっちり貰える上に、食事付き。部屋も、私の部屋の近くの客室を貸してあげるという厚待遇。」
「できすぎた話には裏がある、と本で読んだことがあります。」
サンドイッチをもりもり食べながら、ジュストは慎重に答えた。
「お、美味しい。うわ、王宮のサンドイッチ、凄い。すでに一生の思い出作れてる。王宮に来れるだけでも驚きなのに。リュカの紅茶も美味しいなあ。」
リュシルはにっこり笑って礼をした。
「侍従だったんだよな、リュカ。学園にいたら、すっかり忘れていたよ。リュカも痩せたんじゃない?」
その言葉にはシリルが悔しそうな顔をした。
「そうなんだよ、せっかく私ががんばって食べさせていたのに、ここに来てから、なかなか一緒に食事ができなくてね。一人でもちゃんと食べろと言っているんだけど、なかなか。」
「シリル殿下は、お変わりないようですね。」
「体調なら、大丈夫。シャルルにはまだ、会えていない。でも、今から……。」
シリルが何か言いかけたところへ、部屋の扉がノックされた。
「はい。」
と、返事をしてリュシルが扉を開くと、近衛騎士が立っている。今日は、文官も一人連れていた。
「……父上、暇なんですか。」
「ものすごく、忙しい。手伝ってくれて、助かっている。友人を連れ込んでるって聞いたから、会いに来た。」
「連れ込んでるって言い方、おかしいですよね?招いている、ですよね。」
「仕事をしてくれるんだろ?モーリスも連れてきた。」
文官は、宰相補佐官であるらしい。こちらもかつらを被っているので分からなかった。
二人をソファへ案内すると、ジュストが固まってしまっている。
「シ、シ、シリル殿下。こ、こ、こちらは?」
シリルは、ジュストの隣に座って紹介した。
「父だ。シビリアン・シュバリエ。隣は宰相補佐官のモーリス・デュラン。」
ジュストは、慌てて立ち上がり貴族の礼を取る。
「ご無礼を致しました。申し訳ございません。私はジュスト・クレマン、父は子爵でございます。」
「ああ、気にしなくて良い。私が突然来たのだ。息子と仲良くしてくれてありがとう。」
友人の家に来たのだから、家族と顔を合わせる可能性もあるだろう、普通の家ならば。父だ、じゃねえよ、国王陛下だよ。心の中でジュストは、シリルに悪態をついた。来たことを後悔した。
「いやー、本当にシリルに友人がいたよ、モーリス。」
「いるでしょうよ。そんなことより、クレマン君。」
シリルに王宮まで訪ねてくれる友人がいたことに感動している国王は放っておいて、モーリスは早速話し始めた。
「仕事の手伝いをしてくれるんだよね。宰相府で、私付きになって手伝ってほしいんだ。今から騒動が起こるし、信頼できる人手が欲しかった。学園の成績も調べさせてもらったよ。家庭教師無しで、仕事もこなしながら試験二回とも二位なのだろう?期待しているよ。」
「は、はい。えーと。」
「シリル殿下に紹介して貰えるということは、そういうことなんですよね。」
モーリスは嬉しそうに、シリルの方を向く。シリルは、滅多に見せない良い笑顔で頷いた。
ジュストは、背筋に冷や汗が流れてきている。
「あの、そういうこと、というのは?」
「約束したからな。」
「だから、何のこと?」
「ま、それより。」
「それより?!」
「父上、かつらを貸して頂きたい。モーリスも。制服を着てジュストと二人で、学友が訪ねてきたと言ってシャルルの部屋に入り込もうと思う。」
ジュストは思う。ありがたい誘いだ。長い休みに、自分の実家へ帰るお金はないし、毎日の昼ごはん代も無い。仕事探しも、勉強優先にして出遅れている。成績が良いことと友人がお金持ちだから、と貧乏仲間からは爪弾きにされて、仕事の情報も貰えていない。
とてもありがたい。是非行きたい。……場所が王宮で無ければ。
ジュストは頭を抱えた。シリル殿下、シャルル殿下が夜の間に王宮に連れ戻されたことを心配して、様子を見に帰ったのではなかったのか。その前には、何とか王宮に帰らなくてすむ方法を考えていたのではなかったっけ?そんな場所に、遊びに来いって……。
結局、背に腹は代えられず王宮にいる。にこやかな第一王子様の部屋に招かれている。どんな格好をしたら良いのかも分からず、学園の制服で来た。それは正解だったらしく、すぐに部屋に案内してもらえたのは良かった。
「ジュスト、久しぶり。」
「と、言うほどでもない。」
「痩せたんじゃない?」
シリルはそう言いながら、お茶菓子にサンドイッチを出した。もちろん、甘い焼き菓子も幾つか置いてある。リュシルが紅茶を淹れて机に置いた。
「そりゃ、痩せますよ。一日二食なんですから。」
「宰相府でさ、事務仕事の手伝いをしてくれる人を募集してて。お給料がきっちり貰える上に、食事付き。部屋も、私の部屋の近くの客室を貸してあげるという厚待遇。」
「できすぎた話には裏がある、と本で読んだことがあります。」
サンドイッチをもりもり食べながら、ジュストは慎重に答えた。
「お、美味しい。うわ、王宮のサンドイッチ、凄い。すでに一生の思い出作れてる。王宮に来れるだけでも驚きなのに。リュカの紅茶も美味しいなあ。」
リュシルはにっこり笑って礼をした。
「侍従だったんだよな、リュカ。学園にいたら、すっかり忘れていたよ。リュカも痩せたんじゃない?」
その言葉にはシリルが悔しそうな顔をした。
「そうなんだよ、せっかく私ががんばって食べさせていたのに、ここに来てから、なかなか一緒に食事ができなくてね。一人でもちゃんと食べろと言っているんだけど、なかなか。」
「シリル殿下は、お変わりないようですね。」
「体調なら、大丈夫。シャルルにはまだ、会えていない。でも、今から……。」
シリルが何か言いかけたところへ、部屋の扉がノックされた。
「はい。」
と、返事をしてリュシルが扉を開くと、近衛騎士が立っている。今日は、文官も一人連れていた。
「……父上、暇なんですか。」
「ものすごく、忙しい。手伝ってくれて、助かっている。友人を連れ込んでるって聞いたから、会いに来た。」
「連れ込んでるって言い方、おかしいですよね?招いている、ですよね。」
「仕事をしてくれるんだろ?モーリスも連れてきた。」
文官は、宰相補佐官であるらしい。こちらもかつらを被っているので分からなかった。
二人をソファへ案内すると、ジュストが固まってしまっている。
「シ、シ、シリル殿下。こ、こ、こちらは?」
シリルは、ジュストの隣に座って紹介した。
「父だ。シビリアン・シュバリエ。隣は宰相補佐官のモーリス・デュラン。」
ジュストは、慌てて立ち上がり貴族の礼を取る。
「ご無礼を致しました。申し訳ございません。私はジュスト・クレマン、父は子爵でございます。」
「ああ、気にしなくて良い。私が突然来たのだ。息子と仲良くしてくれてありがとう。」
友人の家に来たのだから、家族と顔を合わせる可能性もあるだろう、普通の家ならば。父だ、じゃねえよ、国王陛下だよ。心の中でジュストは、シリルに悪態をついた。来たことを後悔した。
「いやー、本当にシリルに友人がいたよ、モーリス。」
「いるでしょうよ。そんなことより、クレマン君。」
シリルに王宮まで訪ねてくれる友人がいたことに感動している国王は放っておいて、モーリスは早速話し始めた。
「仕事の手伝いをしてくれるんだよね。宰相府で、私付きになって手伝ってほしいんだ。今から騒動が起こるし、信頼できる人手が欲しかった。学園の成績も調べさせてもらったよ。家庭教師無しで、仕事もこなしながら試験二回とも二位なのだろう?期待しているよ。」
「は、はい。えーと。」
「シリル殿下に紹介して貰えるということは、そういうことなんですよね。」
モーリスは嬉しそうに、シリルの方を向く。シリルは、滅多に見せない良い笑顔で頷いた。
ジュストは、背筋に冷や汗が流れてきている。
「あの、そういうこと、というのは?」
「約束したからな。」
「だから、何のこと?」
「ま、それより。」
「それより?!」
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