【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

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32 文官かな

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「働けるようになったら……か。ジュストは、どんな仕事をするつもりなんだ?」

 シリルの言葉に、ジュストがうーん、と唸る。

「長男だから、父の仕事を継ぐつもりです。ですが、父はまだまだ元気ですし、引き継ぎまでの間に王宮で、文官でもできないかと考えています。そうすれば、食い扶持が一人分助かるでしょうし、もし、文官の稼ぎが良ければ、仕送りもできる。そちらが軌道にのって稼げるなら、弟に領地を任せても良いかとも考えています。」

「……しっかり計画してあるんだな。」

「そりゃ、ねえ。お金をどうにかして稼がないと、学園の間にも、命に関わりますからね。」

「大袈裟な。」

「いえ、大袈裟ではありませんよ。私は、実際に、学園に入学してから、飢え死にしかけていたのをシリル殿下に救って頂きましたから。」

 ジャンの言葉に、リュシルが返す。

「……仕送りの無い学生のための、何らかの制度を整える必要がありますね。」

 コンスタンがしみじみ呟いた。

「コンスタン様は、宰相ができそうですね。」

「シャルル殿下の学友になってからは、勉強がつまらなくて、父の後を継いで、領地を治めるくらいでいいかと思っていたのだが。……試験で一位を取った今なら、シャルル殿下をお助けするために宰相を目指すのも悪くないなと思っている。」

「それ、なんだけ
ど……。」

 シャルルが何か言いかけたところで、ドアがノックされた。

「そろそろ昼休みが終わります。」

「……午後は休む。伝えてきてほしい。ここにいる全員だ。」

「……シャルル殿下?」

「話したいことがあるんだ。時間がほしい。」
 
 そうして、少し口を閉じてから、意を決したようにまた話し始めた。

「最近、気付いたんだけれど。……さっき、コンスタンが言っていた、私を助けるために宰相を目指すって話、おかしくないか?」

「え?」

「何故、兄上じゃなく、私が王になる前提なんだ?」

「……!」

「ずっと、貴方は次の王様になるのだと周りから言われて育ってきて、そうなんだろうと思っていた。その扱いを受けてきた。でも、私は弟だ。次男だ。コンスタンも、ジュストも、長男だから家を継ぐつもりって話していたのに、なんで、私は次男なのに継ぐことになってるんだ?」

「王妃様の子どもだから……とか?」

 ジャンがおずおずと口を挟む。

「王妃の子どもが次の王になるなんて決まりは無いのに、皆そう思わされている。このことについて、兄上のお考えをお聞きしたかった。」

「……その日を生きるのに必死で、先の事など考えたことも無かった。」

 シリルは、シャルルの目を真っ直ぐに見て言った。

「何か一手間違えば、死ぬ。疲れて、もういいかと思っていた頃もあった。」

「……同じ家に暮らしていながら、兄上がそこまで追い詰められていたことに私は気付いていなかった。話しかけないでほしいと言われたのを寂しく思っていました。本当に、すみません。」

「将来何をしたいか、か。騎士には向いてなさそうだし、私も文官かな。今、言えるのはその程度だ。」

 はあ、とシャルルはため息を吐いた。

「……俺は。」

 今日、初めてこの部屋へ連れてこられて、ずっと戸惑ったままそこにいたエクトルが、ぽつりと溢した。

「騎士になって、シャルル殿下を守るのだと、言われて。父は団長だし、俺もそうなりたいと頑張って。」

 俯いて、机の上で握りしめた両手を見つめながら、話す。

「でも、シャルル殿下に勝ってはいけない、と言われて。手合わせしていて楽しかったシリル殿下は、本気を出してくれなくなって。どんどん、体が弱くなられて。俺には、分からなくなって。」

 しん、と室内が静まり返る。

「……父上に、二人で話をしに行きましょう、兄上。私に勝ってはいけないルールとか、私にも迷惑です。今日、私は、試験でリュカに勝って本当に嬉しかった。兄上たちにも、いつか追いつけるように頑張ろう、とも思えました。」

「この話は、俺は聞いても良かったの?」

 唐突に、ジュストが声を上げる。

「なんだか高位の方々の、重要な話だったけど、知りすぎたから始末する、とかないよね?」

「友人だろ、ジュスト。付き合ってもらう。」

「シリル殿下が王様するなら、俺が宰相しようか?」

「ははっ、それもいいな。」

 張りつめた空気が、少し解れた。

「私は、リュカが側にいれば、そうそう死ぬことはない。シャルル、大丈夫だよ。」

「兄上……。はい、分かりました。」

「リュカがいれば?」

 エクトルが疑問の声を上げるのへ、コンスタンは曖昧な笑みを返した。今は、聞くなということか、と長い付き合いのエクトルが察して口をつぐむ。

「授業を休ませてすまなかった。長期休みの逃げ場所は、また考えよう。今日は、ありがとう。」

 その日は、シャルルのその言葉で解散となった。
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