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28 答えは出てしまった
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試験の後は、大変だった。7位という、母に言わせればとんでもない下位。シャルルは自分では、そんなものじゃないかと思っていた通りだったので、そこまで逆鱗に触れたことに驚いた。だいたい、一度すでに終わっている授業をもう一度聞くというのが退屈で仕方ないのに、試験のために更に勉強とか、もう嫌になっても仕方ないのでは、と思う。母には分からないだろうけど。
試験の結果発表の後で、寮の食堂で事件があり、一週間学園が休みだった。その間、王宮に閉じ込められて、家庭教師の授業を受け続けた。退屈だった。
シリルが一位だったのは、驚いた。授業を退屈そうに受けていたのは見たことがあるので、同じだと思っていたのに。そして、家庭教師の試験は、異母兄もシャルルより下の成績になるように受けていたのか、と思い当たった。
神童コンスタンが四位だったのは、シャルルより下の成績を取ろうとして失敗したのだろう。何故、そんなことをするのかを真剣に考えてこなかった気がする。子どもなのだから仕方ないのだが。
シャルルが、負けたからと相手に何かを言うことはない。そんなこともあるか、と思う程度である。もともと、負けず嫌いな性質ではないのだろう。だというのに皆、負けてくれようとする。何故なのか。身分どうこうと言うのなら、シリルは?
シャルルではない誰かが、何かを言う、ということに気付いて、ああ、母か、と分かった。
寮の食堂での事件については、散々王宮で聞かされた。また、シリルが危険な目に合ったのだと思う。何故、兄上ばかりこんな目に?学園に戻ったら、話を聞いてみよう。侍従が事件を起こしたのなら、また、侍従がいなくなっただろうか。昼間はいつもリュカしか連れていなかったから、他にいるのかもよく分からない。
学園に戻ったら、リュカは変わらずシリルの隣にいた。何故、死神と?
尋ねると、シリルはリュカを守り神だと言う。新聞は、王宮で読む暇が無かったため、慌てて読んでみた。王宮で、散々聞かされた話と全然違う。
シリルは、リュカを守り神だと言った。王宮の人々は、死神だと言う。どちらかが違うのだ。
答えは、出た。出てしまった。シリルに会いたい。あんなに我が儘を言ったのは初めてかもしれない。侍従すら追い出した貴賓室の、なんと楽しかったことか。
母からの呼び出し状は、積み上がっていく。
ある日、シャルルは、貴賓室でコンスタンと二人で話をした。
「他には誰もいない。聞きたいことがあって。」
緊張しているコンスタンに笑いかけてみる。
「勉強の成績で私に勝つと、誰に怒られるの?今回も、何か言われた?」
「そんなことは、ありません。」
「教えてほしいだけなんだ。誰にも言わないし、次からは、実力を発揮してほしいから。兄上とジュストと真剣勝負したくない?」
「……それは、したいですが。」
「私も、見てみたいよ。ジュストも、今回はわざと間違えたりしてたらしいし。」
「え?」
「兄上は、うっかり普通に受けたとか言ってたし。」
「やる気が出るお話ですね。楽しくなってきました。」
「一位を目指すと、ひどい目にあったりする?」
「いえ、私は、命に関わるものではありませんので、大丈夫です。やってみます。」
「……命に関わる人も、いるってこと?」
「…………。」
長い沈黙のあと、思いきったように、コンスタンの口が開かれる。
「いらっしゃるでしょう。うっかりしてらしたんですよね?らしくもない。」
「やっぱり、そうか……。」
目を伏せたシャルルは、ありがとう、と呟いた。
答えは、出てしまった。
試験の結果発表の後で、寮の食堂で事件があり、一週間学園が休みだった。その間、王宮に閉じ込められて、家庭教師の授業を受け続けた。退屈だった。
シリルが一位だったのは、驚いた。授業を退屈そうに受けていたのは見たことがあるので、同じだと思っていたのに。そして、家庭教師の試験は、異母兄もシャルルより下の成績になるように受けていたのか、と思い当たった。
神童コンスタンが四位だったのは、シャルルより下の成績を取ろうとして失敗したのだろう。何故、そんなことをするのかを真剣に考えてこなかった気がする。子どもなのだから仕方ないのだが。
シャルルが、負けたからと相手に何かを言うことはない。そんなこともあるか、と思う程度である。もともと、負けず嫌いな性質ではないのだろう。だというのに皆、負けてくれようとする。何故なのか。身分どうこうと言うのなら、シリルは?
シャルルではない誰かが、何かを言う、ということに気付いて、ああ、母か、と分かった。
寮の食堂での事件については、散々王宮で聞かされた。また、シリルが危険な目に合ったのだと思う。何故、兄上ばかりこんな目に?学園に戻ったら、話を聞いてみよう。侍従が事件を起こしたのなら、また、侍従がいなくなっただろうか。昼間はいつもリュカしか連れていなかったから、他にいるのかもよく分からない。
学園に戻ったら、リュカは変わらずシリルの隣にいた。何故、死神と?
尋ねると、シリルはリュカを守り神だと言う。新聞は、王宮で読む暇が無かったため、慌てて読んでみた。王宮で、散々聞かされた話と全然違う。
シリルは、リュカを守り神だと言った。王宮の人々は、死神だと言う。どちらかが違うのだ。
答えは、出た。出てしまった。シリルに会いたい。あんなに我が儘を言ったのは初めてかもしれない。侍従すら追い出した貴賓室の、なんと楽しかったことか。
母からの呼び出し状は、積み上がっていく。
ある日、シャルルは、貴賓室でコンスタンと二人で話をした。
「他には誰もいない。聞きたいことがあって。」
緊張しているコンスタンに笑いかけてみる。
「勉強の成績で私に勝つと、誰に怒られるの?今回も、何か言われた?」
「そんなことは、ありません。」
「教えてほしいだけなんだ。誰にも言わないし、次からは、実力を発揮してほしいから。兄上とジュストと真剣勝負したくない?」
「……それは、したいですが。」
「私も、見てみたいよ。ジュストも、今回はわざと間違えたりしてたらしいし。」
「え?」
「兄上は、うっかり普通に受けたとか言ってたし。」
「やる気が出るお話ですね。楽しくなってきました。」
「一位を目指すと、ひどい目にあったりする?」
「いえ、私は、命に関わるものではありませんので、大丈夫です。やってみます。」
「……命に関わる人も、いるってこと?」
「…………。」
長い沈黙のあと、思いきったように、コンスタンの口が開かれる。
「いらっしゃるでしょう。うっかりしてらしたんですよね?らしくもない。」
「やっぱり、そうか……。」
目を伏せたシャルルは、ありがとう、と呟いた。
答えは、出てしまった。
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