上 下
23 / 61

23 手を抜きました

しおりを挟む
 シリルは、遠巻きにされることは慣れているので、そのことは気にしていなかった。むしろ、最近の、近寄って来られる状態の方に戸惑っていたくらいである。

「シリル殿下。」

 警戒を解いていたので、声を掛けられて驚いた。

「お話、よろしいでしょうか。俺は、先日の試験で二位だったジュスト・クレマンと申します。実家は貧乏な子爵家です。」

「試験……。」

 あれで首席を取ったばかりにあんな事件が、と忌々しく思い出す。シャルルも、王宮で一緒に一度は勉強して終わっている内容なのだから、もう少し頑張れば良いものを。せめて、リュシルには勝て。

「シリル殿下?」

「あ、いや、何だったかな?」

「いえ、あの、あの試験、俺、手を抜きました。幾つかわざと間違えたんです。本気を出したら駄目だ、上の方々に勝たないようにしなさいって言われてて。でも、どのくらい手を抜けばいいか分からなくて。子爵家からしたら、ほとんど上の方々なんで。でも、成績悪くて後々の仕事に差し支えても困るし。」

「……。」

「でも、二位だったから、もう次は、わざと何かしても、今さらだから、本気出します。シリル殿下とだったら、本気でやっても勝てるか分からないし、楽しそうなんで。リュカにも、負けたくないし。」

「それで?」

「俺を、お側に置いてください。そして、守ってほしいです。」

「……。」

 ずいぶんとストレートな物言いに、びっくりする。 

「今、私の側にいることが、よい結果を生むとは思えないが。」

「いいんです。俺は、シリル殿下とリュカと勉強で勝負したい。俺は図書室で毎日、新聞を読んでいます。今回の事件の噂は、おかしい。誰かが作為的に嘘を広めている。あの噂は、少し考えたらおかしいことくらい分かります。」

「好きにすればいい。」

「ありがとうございます。リュカ。侍従の仕事もして、勉強も頑張ってるなんてすごいな。俺、尊敬してる。」

 ジュストは、屈託無く笑うと、すぐにリュシルの方を向いて話しかけた。
 静かに控えていたリュシルは驚いて、目を瞬く。

「は、あの、いえ……。」

「ジュストと呼んで。よろしく。」

 差し出された手に、思わず、といった感じでリュシルが手を乗せる。きゅっと握手したジュストが、うわっ、と声を上げた。

「指、細い。」
 
 慌てて引こうとするも、きゅっと握られて繋いだままになる。
 
「あ、あのジュスト様。」

 パンッと、握手した手のジュスト側が叩かれた。

「離せ。」

 シリルの隠しきれない不機嫌な声が響いて、ジュストは慌てて手を離す。ひょい、とそのリュシルの手を掴んだシリルは、自分でもよく分からない不快感のまま、

「リュカに構うな。」

 とだけ告げた。

「すみません。でも、シリル殿下ともリュカとも仲良くしたいです。よろしくお願いします。」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑 side story

岡暁舟
恋愛
本編に登場する主人公マリアの婚約相手、王子スミスの物語。スミス視点で生い立ちから描いていきます。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...