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23 手を抜きました
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シリルは、遠巻きにされることは慣れているので、そのことは気にしていなかった。むしろ、最近の、近寄って来られる状態の方に戸惑っていたくらいである。
「シリル殿下。」
警戒を解いていたので、声を掛けられて驚いた。
「お話、よろしいでしょうか。俺は、先日の試験で二位だったジュスト・クレマンと申します。実家は貧乏な子爵家です。」
「試験……。」
あれで首席を取ったばかりにあんな事件が、と忌々しく思い出す。シャルルも、王宮で一緒に一度は勉強して終わっている内容なのだから、もう少し頑張れば良いものを。せめて、リュシルには勝て。
「シリル殿下?」
「あ、いや、何だったかな?」
「いえ、あの、あの試験、俺、手を抜きました。幾つかわざと間違えたんです。本気を出したら駄目だ、上の方々に勝たないようにしなさいって言われてて。でも、どのくらい手を抜けばいいか分からなくて。子爵家からしたら、ほとんど上の方々なんで。でも、成績悪くて後々の仕事に差し支えても困るし。」
「……。」
「でも、二位だったから、もう次は、わざと何かしても、今さらだから、本気出します。シリル殿下とだったら、本気でやっても勝てるか分からないし、楽しそうなんで。リュカにも、負けたくないし。」
「それで?」
「俺を、お側に置いてください。そして、守ってほしいです。」
「……。」
ずいぶんとストレートな物言いに、びっくりする。
「今、私の側にいることが、よい結果を生むとは思えないが。」
「いいんです。俺は、シリル殿下とリュカと勉強で勝負したい。俺は図書室で毎日、新聞を読んでいます。今回の事件の噂は、おかしい。誰かが作為的に嘘を広めている。あの噂は、少し考えたらおかしいことくらい分かります。」
「好きにすればいい。」
「ありがとうございます。リュカ。侍従の仕事もして、勉強も頑張ってるなんてすごいな。俺、尊敬してる。」
ジュストは、屈託無く笑うと、すぐにリュシルの方を向いて話しかけた。
静かに控えていたリュシルは驚いて、目を瞬く。
「は、あの、いえ……。」
「ジュストと呼んで。よろしく。」
差し出された手に、思わず、といった感じでリュシルが手を乗せる。きゅっと握手したジュストが、うわっ、と声を上げた。
「指、細い。」
慌てて引こうとするも、きゅっと握られて繋いだままになる。
「あ、あのジュスト様。」
パンッと、握手した手のジュスト側が叩かれた。
「離せ。」
シリルの隠しきれない不機嫌な声が響いて、ジュストは慌てて手を離す。ひょい、とそのリュシルの手を掴んだシリルは、自分でもよく分からない不快感のまま、
「リュカに構うな。」
とだけ告げた。
「すみません。でも、シリル殿下ともリュカとも仲良くしたいです。よろしくお願いします。」
「シリル殿下。」
警戒を解いていたので、声を掛けられて驚いた。
「お話、よろしいでしょうか。俺は、先日の試験で二位だったジュスト・クレマンと申します。実家は貧乏な子爵家です。」
「試験……。」
あれで首席を取ったばかりにあんな事件が、と忌々しく思い出す。シャルルも、王宮で一緒に一度は勉強して終わっている内容なのだから、もう少し頑張れば良いものを。せめて、リュシルには勝て。
「シリル殿下?」
「あ、いや、何だったかな?」
「いえ、あの、あの試験、俺、手を抜きました。幾つかわざと間違えたんです。本気を出したら駄目だ、上の方々に勝たないようにしなさいって言われてて。でも、どのくらい手を抜けばいいか分からなくて。子爵家からしたら、ほとんど上の方々なんで。でも、成績悪くて後々の仕事に差し支えても困るし。」
「……。」
「でも、二位だったから、もう次は、わざと何かしても、今さらだから、本気出します。シリル殿下とだったら、本気でやっても勝てるか分からないし、楽しそうなんで。リュカにも、負けたくないし。」
「それで?」
「俺を、お側に置いてください。そして、守ってほしいです。」
「……。」
ずいぶんとストレートな物言いに、びっくりする。
「今、私の側にいることが、よい結果を生むとは思えないが。」
「いいんです。俺は、シリル殿下とリュカと勉強で勝負したい。俺は図書室で毎日、新聞を読んでいます。今回の事件の噂は、おかしい。誰かが作為的に嘘を広めている。あの噂は、少し考えたらおかしいことくらい分かります。」
「好きにすればいい。」
「ありがとうございます。リュカ。侍従の仕事もして、勉強も頑張ってるなんてすごいな。俺、尊敬してる。」
ジュストは、屈託無く笑うと、すぐにリュシルの方を向いて話しかけた。
静かに控えていたリュシルは驚いて、目を瞬く。
「は、あの、いえ……。」
「ジュストと呼んで。よろしく。」
差し出された手に、思わず、といった感じでリュシルが手を乗せる。きゅっと握手したジュストが、うわっ、と声を上げた。
「指、細い。」
慌てて引こうとするも、きゅっと握られて繋いだままになる。
「あ、あのジュスト様。」
パンッと、握手した手のジュスト側が叩かれた。
「離せ。」
シリルの隠しきれない不機嫌な声が響いて、ジュストは慌てて手を離す。ひょい、とそのリュシルの手を掴んだシリルは、自分でもよく分からない不快感のまま、
「リュカに構うな。」
とだけ告げた。
「すみません。でも、シリル殿下ともリュカとも仲良くしたいです。よろしくお願いします。」
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