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22 死神
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ベルナール家は、とても居心地が良かった。シリル、マクシム、トマ、ドミニクは、思う存分、鍛練をして過ごし、余計なことを考えなくて済んだ。バジルは厨房を手伝って、料理人として過ごし、すこぶるご機嫌だった。
セリーヌは、リュシルに女の子の服を着せて、なるべく側に置き、頭を撫でたり抱き締めたり、食事を食べさせたりと甘やかした。ほとんど喋ろうとしないのが気にはなったけれど、徐々に気持ちを落ち着けている様子は分かった。
事件から五日後、どうしても断れずに参加したお茶会で、セリーヌが聞いたのは前回のお茶会と同じ話だった。
第一王子の侍従が、毒を食堂の職員に食べさせ、皆死んだ。
その前日の新聞に、事件のことが載っていたにも関わらず、である。
新聞には、食堂の下働きの青年が、ある瓶の液体を第一王子の食事にかけてくれと頼まれた。病気の母親の薬代に困っていた青年が、報酬につられてやったのだが、それが毒とは知らなかった。第一王子の侍従が毒が入っていることに気付き、食事を替えるように頼んだが、何も入っていないことを証明すると言って、職員が勝手に食べてしまった。一人死亡、二人意識不明、一人半身不随。治療院で治療中である。犯人の青年は、事件の翌日、牢で死亡していたため、彼にお金を渡して頼んだ人物は分からないままである。と書いてあったのだ。
「新聞をお読みになりました?」
セリーヌは、声を上げて新聞の内容を説明したが、第一王子の関わるスキャンダルであるから、新聞が誤魔化したのであろう、という意見が大半であった。
「そんなわけ、ありませんわ。調べた第三騎士団の沽券にも関わります。新聞は、いつでもしっかり情報を伝えてくれております。」
「けれどね、セリーヌ様。わたくし、その場にいたという方からお話をお聞きした、という貴族の方から聞きましたのよ。」
広げた扇子の向こうで、伯爵夫人が笑う。まあ、それは、間違いございませんね、と何人かが言った。
「第三騎士団の方も、その場の方からお話を伺っておりますし、調べてもございますとも。」
セリーヌは、ため息をこらえてにっこり笑う。
「そして、私は、その場にいた当事者の護衛騎士の母です。もちろん、新聞が真実だということをその場にいたという方から直接、聞いております。」
伯爵夫人が扇子の向こうで顔を歪めるのが分かった。隠せていないわよ、と思いながら、尚もいい募る。
「又聞きの貴女より、私の方が正しい情報ではないかしら?被害者が、皆死んだとおっしゃるのなら、まだ生きている証拠に治療院へと案内して差し上げてもよろしくてよ?」
しん、と静まり返った場をよそに、優雅に紅茶を飲む。
わざと、間違った情報を世間に流そうとしている者がいるのだろう。又聞き、ではなく、そう言えと頼まれたのだろうか。そう、本当の犯人に。
これは、厄介だ。この調子では、学園でもこちらの話で流れていくことだろう。
私一人が、こうして訂正して回ったとて……。
セリーヌは、憂鬱な気分で帰宅した。
休み明けの学園は、セリーヌの予想通りであった。貴族の間で広げた噂話通りに、事件は語られていく。新聞を見ていた筈の者も、いつの間にか、第一王子の侍従が、毒を食べさせ、皆死んだという話の方へ取り込まれていく。
ひそひそと語られる声は、まるで真実のように、シリルとリュシルを取り囲んだ。
死神リュカ、と。
セリーヌは、リュシルに女の子の服を着せて、なるべく側に置き、頭を撫でたり抱き締めたり、食事を食べさせたりと甘やかした。ほとんど喋ろうとしないのが気にはなったけれど、徐々に気持ちを落ち着けている様子は分かった。
事件から五日後、どうしても断れずに参加したお茶会で、セリーヌが聞いたのは前回のお茶会と同じ話だった。
第一王子の侍従が、毒を食堂の職員に食べさせ、皆死んだ。
その前日の新聞に、事件のことが載っていたにも関わらず、である。
新聞には、食堂の下働きの青年が、ある瓶の液体を第一王子の食事にかけてくれと頼まれた。病気の母親の薬代に困っていた青年が、報酬につられてやったのだが、それが毒とは知らなかった。第一王子の侍従が毒が入っていることに気付き、食事を替えるように頼んだが、何も入っていないことを証明すると言って、職員が勝手に食べてしまった。一人死亡、二人意識不明、一人半身不随。治療院で治療中である。犯人の青年は、事件の翌日、牢で死亡していたため、彼にお金を渡して頼んだ人物は分からないままである。と書いてあったのだ。
「新聞をお読みになりました?」
セリーヌは、声を上げて新聞の内容を説明したが、第一王子の関わるスキャンダルであるから、新聞が誤魔化したのであろう、という意見が大半であった。
「そんなわけ、ありませんわ。調べた第三騎士団の沽券にも関わります。新聞は、いつでもしっかり情報を伝えてくれております。」
「けれどね、セリーヌ様。わたくし、その場にいたという方からお話をお聞きした、という貴族の方から聞きましたのよ。」
広げた扇子の向こうで、伯爵夫人が笑う。まあ、それは、間違いございませんね、と何人かが言った。
「第三騎士団の方も、その場の方からお話を伺っておりますし、調べてもございますとも。」
セリーヌは、ため息をこらえてにっこり笑う。
「そして、私は、その場にいた当事者の護衛騎士の母です。もちろん、新聞が真実だということをその場にいたという方から直接、聞いております。」
伯爵夫人が扇子の向こうで顔を歪めるのが分かった。隠せていないわよ、と思いながら、尚もいい募る。
「又聞きの貴女より、私の方が正しい情報ではないかしら?被害者が、皆死んだとおっしゃるのなら、まだ生きている証拠に治療院へと案内して差し上げてもよろしくてよ?」
しん、と静まり返った場をよそに、優雅に紅茶を飲む。
わざと、間違った情報を世間に流そうとしている者がいるのだろう。又聞き、ではなく、そう言えと頼まれたのだろうか。そう、本当の犯人に。
これは、厄介だ。この調子では、学園でもこちらの話で流れていくことだろう。
私一人が、こうして訂正して回ったとて……。
セリーヌは、憂鬱な気分で帰宅した。
休み明けの学園は、セリーヌの予想通りであった。貴族の間で広げた噂話通りに、事件は語られていく。新聞を見ていた筈の者も、いつの間にか、第一王子の侍従が、毒を食べさせ、皆死んだという話の方へ取り込まれていく。
ひそひそと語られる声は、まるで真実のように、シリルとリュシルを取り囲んだ。
死神リュカ、と。
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