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トマがリュシルを抱き上げて、警備騎士二人も連れ、寮のシリルの部屋に戻る。
シリルとリュシルが並んでソファに腰を下ろし、対面に警備騎士二人が腰を下ろした。
「侍従どのに、食堂での出来事の説明をして頂きたい。」
「……。」
リュシルは、声を出そうとしてできず、喉をひきつらせる。はっ、はっ、と呼吸が乱れ始めた。
隣に座っていたシリルが、慌てて背中をさする。トマの声がした。
「リュカ。落ち着け。息を吸え。ゆっくり、ゆっくり。」
ソファの後ろに立っていたトマがリュシルの横にしゃがんで、目を合わせる。リュシルの膝を、一定のリズムでぽん、ぽん、と叩いた。
「ほら、これに合わせて、息を吐いてー、吸ってー。」
警備騎士は、無表情で騒ぎもせずに食堂の惨状を眺めていた侍従を怪しんでいたのだが、この様子を見て少し、警戒を解いた。目の前にいつの間にか置かれていた紅茶を飲む。トリスタンは、紅茶を出した後は静かにドア前に控えていた。
「申し訳ないが、どうしても事情を聞かねばなりません。」
つい先程までは、犯人を問い詰めるつもりで話をする予定だったが、小さな子どもが過呼吸を起こして話もできずにいるのだと思うと、いつしか優しい口調になっていた。
「私は……。」
荒い息をようやく整えて、リュシルは説明する。
「殿下の食事を受け取りに行きました。けれど、準備されていた食事は、とても食べられるものではありませんでした。だから、替えてほしいとお願いしたのです。しかし、替えてもらえないばかりか、食べられることを証明すると言って、食堂の方々は、スープを飲んでしまわれた……。」
「食べられるものではない、というのは、どういう意味でしょう?」
警備騎士の疑問はもっともである。しかし、リュシルにはそうとしか言いようがなく、シリル達は、リュシルの能力が明るみに出て、リュシルが危険に晒されることを恐れた。
少しの沈黙。やがて、意を決してシリルが話し始める。
「リュカには、それが分かる。だから、私の侍従をしてもらっている。」
「それ、とは?」
「食べられるものか食べられないものかを知ることができる。」
「……。」
「詳しく説明することはできない。このことが知られてしまえば、リュカの身に危険が及ぶ。たまたまいつもと違う匂いがしたとか、色味がおかしかったので気付いたということにしてはもらえないだろうか?」
「それは……。」
「すべてのことは、私を守るためである。」
「だいたい、おかしいだろう?リュカが、厨房の人達に毒を食べさせて、何をどうしたいんだ?殿下に何かするのなら、毒を入れてから替えてくれというのも意味が分からない。」
トマの言葉に、警備騎士たちは、はっとする。確かに。この侍従が犯人だとしたら、行動のつじつまが合わない。
「確かに。下働きの青年が自分がやったというようなことも言っておりましたし。では、料理長は何故あんなことを言っていたのか
……。」
彼は、ずっと声を張り上げていた。第一王子の侍従が毒を食べさせた、と。
「怪しいのは、その料理長だ。毒入りの食事を口にしなかったのは、知ってたからだろう?」
「……とりあえず、我々は一度戻ります。ご協力頂き、ありがとうございました。」
トマの言葉に考え込みながら、警備騎士二人は立ち上がった。侍従の仕事を思い出して立ち上がろうとしたリュシルは、盛大にふらつく。
「リュカ、よい。座っていろ。目も、閉じよ。」
シリルが素早く抱き止めてソファへと戻す。
「何かまた聞きたいことがあれば、私を通せ。」
警備騎士たちは、丁寧に頭を下げて出ていった。
「しばらく寮の食堂は使えまい。また、食事の心配をしなければならぬな。」
シリルは、抱きしめたリュシルの背中をさすりながら、深く深くため息をついた。
シリルとリュシルが並んでソファに腰を下ろし、対面に警備騎士二人が腰を下ろした。
「侍従どのに、食堂での出来事の説明をして頂きたい。」
「……。」
リュシルは、声を出そうとしてできず、喉をひきつらせる。はっ、はっ、と呼吸が乱れ始めた。
隣に座っていたシリルが、慌てて背中をさする。トマの声がした。
「リュカ。落ち着け。息を吸え。ゆっくり、ゆっくり。」
ソファの後ろに立っていたトマがリュシルの横にしゃがんで、目を合わせる。リュシルの膝を、一定のリズムでぽん、ぽん、と叩いた。
「ほら、これに合わせて、息を吐いてー、吸ってー。」
警備騎士は、無表情で騒ぎもせずに食堂の惨状を眺めていた侍従を怪しんでいたのだが、この様子を見て少し、警戒を解いた。目の前にいつの間にか置かれていた紅茶を飲む。トリスタンは、紅茶を出した後は静かにドア前に控えていた。
「申し訳ないが、どうしても事情を聞かねばなりません。」
つい先程までは、犯人を問い詰めるつもりで話をする予定だったが、小さな子どもが過呼吸を起こして話もできずにいるのだと思うと、いつしか優しい口調になっていた。
「私は……。」
荒い息をようやく整えて、リュシルは説明する。
「殿下の食事を受け取りに行きました。けれど、準備されていた食事は、とても食べられるものではありませんでした。だから、替えてほしいとお願いしたのです。しかし、替えてもらえないばかりか、食べられることを証明すると言って、食堂の方々は、スープを飲んでしまわれた……。」
「食べられるものではない、というのは、どういう意味でしょう?」
警備騎士の疑問はもっともである。しかし、リュシルにはそうとしか言いようがなく、シリル達は、リュシルの能力が明るみに出て、リュシルが危険に晒されることを恐れた。
少しの沈黙。やがて、意を決してシリルが話し始める。
「リュカには、それが分かる。だから、私の侍従をしてもらっている。」
「それ、とは?」
「食べられるものか食べられないものかを知ることができる。」
「……。」
「詳しく説明することはできない。このことが知られてしまえば、リュカの身に危険が及ぶ。たまたまいつもと違う匂いがしたとか、色味がおかしかったので気付いたということにしてはもらえないだろうか?」
「それは……。」
「すべてのことは、私を守るためである。」
「だいたい、おかしいだろう?リュカが、厨房の人達に毒を食べさせて、何をどうしたいんだ?殿下に何かするのなら、毒を入れてから替えてくれというのも意味が分からない。」
トマの言葉に、警備騎士たちは、はっとする。確かに。この侍従が犯人だとしたら、行動のつじつまが合わない。
「確かに。下働きの青年が自分がやったというようなことも言っておりましたし。では、料理長は何故あんなことを言っていたのか
……。」
彼は、ずっと声を張り上げていた。第一王子の侍従が毒を食べさせた、と。
「怪しいのは、その料理長だ。毒入りの食事を口にしなかったのは、知ってたからだろう?」
「……とりあえず、我々は一度戻ります。ご協力頂き、ありがとうございました。」
トマの言葉に考え込みながら、警備騎士二人は立ち上がった。侍従の仕事を思い出して立ち上がろうとしたリュシルは、盛大にふらつく。
「リュカ、よい。座っていろ。目も、閉じよ。」
シリルが素早く抱き止めてソファへと戻す。
「何かまた聞きたいことがあれば、私を通せ。」
警備騎士たちは、丁寧に頭を下げて出ていった。
「しばらく寮の食堂は使えまい。また、食事の心配をしなければならぬな。」
シリルは、抱きしめたリュシルの背中をさすりながら、深く深くため息をついた。
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