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11 心強い味方

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 アドルスとマクシムが起きてきたのは、昼頃だった。午前の勤務を終えて戻ってきたアルベリクは、二人の若い騎士を連れていた。食堂へと集まり、話をすることにする。

 まずは、マクシムが昨日と同じように学園での七日間の説明をし、アルベリクが、連れてきた騎士二人に、この事情を聞いた上で、第一王子の護衛騎士を引き受けてくれないかと問いかけた。二人とも平民で、年は20歳、一人は裕福な商人の三男、一人は孤児院の出身であった。給料も身分も上がるのなら喜んで、と孤児院出身の男は言い、トマと名乗った。

「ドミニク・モレルです。礼儀とか貴族の常識とか、そんなのは分からないので、不敬で処分される恐れがあるのなら、俺は考えさせてほしい。」

 商人の息子であるドミニクは、慎重に言葉を選んで言った。実家は、貴族とも取り引きのある商会を経営しているため、主に貴族ばかりの学園に三年間通わせられて、散々、平民蔑視の洗礼を受け、卒業してから逃げ込んだ騎士学校でも、学園ほどでは無かったが嫌な思いはしてきた。街の警備隊といった雰囲気の第四騎士団に所属して、ようやくのびのびと仕事できている所である。上官命令とはいえ、うっかりと話を聞いてしまった自分が恨めしい。

「慎重で頭の良いところが気に入っているんだ。」

 アルベリクは、にっこり笑ってドミニクをアドルスに紹介した。

「軽く返事した俺は、くびっすか?」

 トマがそれを聞いて、慌てて声を上げる。あはは、とアルベリクが笑い、それにつられてその場の空気が和らいだ。

「トマは、そのままでいいんだよ。本当に必要なことだけ、少しづつ覚えていって。学園に通っている間は、パーティーや公務などに出席することはほとんど無いし、殿下が卒業されるまでの、学園の中だけ、という契約でもいい。」

 むう、とドミニクが眉を寄せた。平民も貴族も区別しない、敬愛する第四騎士団長の頼みである。気に入っている、とまで言われてとても嬉しい。でも、しかし……。

 視線の先に、王子様がいた。とても、王子様とは思えない、頬はこけて、目の下に隈のある小柄な子どもだ。整った顔なのだろうに、ちっともそうは思えない。トマの孤児院に差し入れした時の、孤児院の子どもたちの方がよっぽど元気だった。

「……殿下が。」

 長い睫毛を伏せてため息をつくと、声を絞り出す。

「殿下が、レミよりましな体になるまで……なら。」

「レミ?」

「孤児院で一番痩せっぽちの子どもですよ、団長。」

 アルベリクの問いに、トマが元気に答えた。愛嬌のある顔でケラケラ笑う。王族の護衛騎士や近衛騎士は、人目に付くことが多いため、見た目にもこだわって選ばれる。ドミニクとトマも、美丈夫であった。代々、近衛騎士を勤めるベルナール家の面々もまた然り。

「それじゃ、しっかりご飯を食べましょう!」

 話が、柔らかい雰囲気でまとまったとみて、セリーヌの元気な声が響き、昼食が運ばれてきた。新鮮なサラダ、温かいスープ、焼いた肉とたくさんの焼き立てパンが運ばれて机に並ぶのを見て、トマが歓声を上げた。

「団長、俺、頑張りますー!」

 そんな中、食べ物を見たシリルとマクシムが表情を強ばらせてリュシルを見た。リュシルは、ずっと目元の魔法を発動していたようである。大きな目がきらきらと潤むように机を見渡した。一通り見渡すと、微かに笑んで力強く頷く。その動作に、ようやくシリルとマクシムの緊張が解けた。それらの一連の様子を、アドルスとセリーヌ、アルベリクが息を飲んで見守っていた。


 食べ終わると、すっかり元気になったようなマクシムが、ドミニクとトマに手合わせを申し込み、アルベリクに、今日から勤務は殿下の護衛なのだから、騎士団に戻らなくていい、と言われた二人と、見学希望のシリルとリュシルを連れて中庭に出て行った。トマが賑やかに何かを話している声を聞きながら、残ったベルナール家の三人はため息をついた。

「重症ですわね。」

「殿下だけでなく、マクシムまでとは……。たったの七日で……。」

「二人とも、よく生き延びてくれた……。」

「護衛騎士は、捩じ込めますが、侍従はどうしたものか……。父上、あの様子では、殿下とマクシムは、リュシル嬢がいないと食べることもできますまい。」

「リュシル嬢を侍女として殿下のお側に置きたいところだが、それはどうしてもできぬ。どうしたものか。」

「リュシルちゃんも、色々とおかしいですわ。」

 昨日から世話を焼いているセリーヌが言い切る。学園を卒業後、男爵令嬢でありながら、貧乏な実家には頼れないと騎士学校に入り、騎士団で活躍していた女丈夫である。

「髪の毛は、ほとんど櫛を通したりしていないようで、洗ってもとかしてもなかなか絡んだ毛がほどけませんし、お風呂に入れたらびっくりしておりましたの。経験の無いことをされた子どものように。食事のマナーは、何となく覚えていることを一生懸命なぞる様子ですが、お皿が並ぶと戸惑っています。歩き方も覚束ない。体が弱っているからだと思っていましたが、もしかして、あの子は……」

「実家では監禁されていた可能性があるな。」
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