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4 温かいスープ

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 厨房は、しん、としていた。昼食と夕食の間の束の間の休憩時間なのだろう。マクシムは、タイミングが悪かったか、と思いつつ、部屋で食べる生徒の分を運び出すための扉を開ける。がっちりとした体格の男と目が合った。

「おう、どうかしましたか?」

 もともとは騎士学校に通っていたが、野営のための料理の授業で楽しくなってしまい、卒業後に料理人になったという伯爵家の三男が、学園の寮の料理長であった。まだ鍛えているのか、細身のマクシムなどより、よほど騎士っぽい体型をしている。

「このような時間に申し訳ない。第一王子の護衛騎士、マクシム・ベルナールです。」

 姿勢を正して挨拶をする。

「朝や昼の残りで構わないのだが、スープを今、頂くことはできるだろうか?少し多めに。」

 驚いた顔の料理長が、ああ、と置いてあった大鍋を一つ火にかける。

「ありますけど、いいんですか?残り物で。王子殿下に出せるようなものじゃないですぜ。」

「いえ。いつもシリル殿下は、皆と同じものを、と注文している筈ですが…。」

「え?」

「え?」

 二人は顔を見合わせたが、これまでは、侍従がそれらの取り次ぎをして運んだりしていたため、詳しいことが分からず、黙ってしまう。

「器に入れますかい?」

「いえ、鍋のままでも大丈夫です。器は部屋にもありますので。」

 料理長は、鍋の中身を小皿に取って飲んだ後、小鍋に移した。その一連の動作に、マクシムはほっと息を吐く。このスープは、食べられそうだ。

「大丈夫、まだ旨い。」

 にやっと笑って渡されたスープをありがたく受け取り、マクシムは頭を下げた。

「休憩時間に、お手間を取らせました。夕食も、こちらに取りに伺います。皆と同じメニューで三人分、よろしくお願い致します。」

「おお。ご丁寧にどうも。無駄にならなくて、スープも喜んでると思いますよ。」


 部屋に戻ったマクシムは、興奮気味だった。絶対安全な温かいスープ!何日ぶりだろう。

「殿下も食べましょう!」

 返事も聞かず、侍従部屋の食器棚にある器を三つとスプーンを三つ、一度洗って布巾で拭い、スープをよそう。ベッド脇のテーブルの横に椅子を2つ並べて器を置いた。リュシルをそっとベッドの上で起こして、背中に枕を置いてもたれさせる。鼻歌も歌いそうな勢いで準備するのを、シリルは呆然と眺めていた。

「料理長が、温め直して、味見して、旨いって渡してくれたんです!ああ、温かいスープ!旨いスープ!」

 シリルの前に一つ置き、リュシルの手に器とスプーンを持たせると、待ちきれないように食べ始めた。はぁ、と感動するような息を吐く。

「旨いです。」

 あっという間に平らげて、まだ渡されたままだったリュシルの器とスプーンをひょいと取り上げると、掬って口元に持っていった。

「さ、どうぞ。」

 腕を上げるのも難しかったリュシルは、その好意を甘んじて受けることにした。一口食べて、ほう、と息を吐く。

「美味しいです。」

 自然と笑みがこぼれた。そのまま、ゆっくりと口に運ばれるスープを夢中で平らげ、幸せに浸った。

 シリルもまた、無言でひたすら食べていた。今までの人生で一番、一生懸命食べたに違いない。空っぽの器を眺めて、気持ちのいい疲れのようなものを感じていた。



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