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十四 求婚
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「それは、償いとなるのか?」
松木は首を傾げた。
「え?」
「某には、褒美としか」
「そ、そんなわけがございません。私の傍らにずっといらっしゃるということは、帰れという家の命に逆らうということになられるのですよ」
「で、あるな」
「勘当されてもおかしくありません。そんな、そんな恐ろしいことを私は願っているのですよ?」
「某は、このところ考えていたのだが」
焦るかよに対して、松木は淡々としたものであった。
「家督を継ぐには、何処ぞの娘を娶らねばならぬ」
「ええ。はい」
当然のことだ。家督を継いだ後のお役目の一つに、血を繋ぐことがある。次の代へと家を存続させねばならないのは武士の勤め。
「その相手と、だな。その、触れ合う、のか?」
「はい?」
「その、見も知らぬ娘と、何をどう話す?」
「はあ……」
「…………」
さよが、ぽかんと間抜けな声を上げたが、松木は真剣である。
さよ以外の娘と、親しく話したことなどない。いや、相手が男でも女でも、松木がこんなに上手く口を開ける相手は他にいやしないのだ。
「娶るとなれば、その、触れ合わぬ訳にいかぬか、と……」
「うむ」
さよは、首を傾げながらもきちんと松木に答えている。
く、くくく、と堪えきれない笑い声が聞こえた。おかしくて堪らぬというように、おこうが口を押さえて笑っている。
辺りを見渡すと、ほかの者も、先ほどまでと違って何だかおかしそうに松木とかよを注視していた。長屋の者たちまで、ちらほらと姿を見せている。
松木は、二人だけで話していたのでは無かったと、頭をかいた。
「話の続きは隣でやってきておくれ。さ、稽古を始めるよ」
「へ?」
「えええ、大師匠。私はこのまま、お二人のお話の行方を見守りたいですわ」
おつのが、真剣におこうに訴えた。
「かよ師匠の求婚、素敵でしたわ。この先のお話もこのままお聞きしたいです」
おそめも、祈るように手を組みあわせて訴える。
「松木様は、武家ではないかよ師匠を選ばれるのですよね?その、勘当されても構わないとお思いなのですよね?ああ、素敵です」
二人の言葉に、かよが暫し呆然とする。
それから、真っ赤になって口をぱくぱくとさせた。
「き、求婚……」
「む。そうであったのか?」
「いえ。いいえ。そんな、そんなつもりは微塵も」
「え、でもずっと傍らにいて欲しいって」
おつのの言葉に、ひえと言ったかよは真っ赤になってうずくまる。
「かよは、大胆なのだか初心なのだか、よく分からないねえ」
おこうは、稽古をする気があるのだかないのだかよく分からない。
「私たちは稽古をして待っていましょう?」
おみつが、至極もっともなことを言ってようやくその場が収まったのだった。
松木は首を傾げた。
「え?」
「某には、褒美としか」
「そ、そんなわけがございません。私の傍らにずっといらっしゃるということは、帰れという家の命に逆らうということになられるのですよ」
「で、あるな」
「勘当されてもおかしくありません。そんな、そんな恐ろしいことを私は願っているのですよ?」
「某は、このところ考えていたのだが」
焦るかよに対して、松木は淡々としたものであった。
「家督を継ぐには、何処ぞの娘を娶らねばならぬ」
「ええ。はい」
当然のことだ。家督を継いだ後のお役目の一つに、血を繋ぐことがある。次の代へと家を存続させねばならないのは武士の勤め。
「その相手と、だな。その、触れ合う、のか?」
「はい?」
「その、見も知らぬ娘と、何をどう話す?」
「はあ……」
「…………」
さよが、ぽかんと間抜けな声を上げたが、松木は真剣である。
さよ以外の娘と、親しく話したことなどない。いや、相手が男でも女でも、松木がこんなに上手く口を開ける相手は他にいやしないのだ。
「娶るとなれば、その、触れ合わぬ訳にいかぬか、と……」
「うむ」
さよは、首を傾げながらもきちんと松木に答えている。
く、くくく、と堪えきれない笑い声が聞こえた。おかしくて堪らぬというように、おこうが口を押さえて笑っている。
辺りを見渡すと、ほかの者も、先ほどまでと違って何だかおかしそうに松木とかよを注視していた。長屋の者たちまで、ちらほらと姿を見せている。
松木は、二人だけで話していたのでは無かったと、頭をかいた。
「話の続きは隣でやってきておくれ。さ、稽古を始めるよ」
「へ?」
「えええ、大師匠。私はこのまま、お二人のお話の行方を見守りたいですわ」
おつのが、真剣におこうに訴えた。
「かよ師匠の求婚、素敵でしたわ。この先のお話もこのままお聞きしたいです」
おそめも、祈るように手を組みあわせて訴える。
「松木様は、武家ではないかよ師匠を選ばれるのですよね?その、勘当されても構わないとお思いなのですよね?ああ、素敵です」
二人の言葉に、かよが暫し呆然とする。
それから、真っ赤になって口をぱくぱくとさせた。
「き、求婚……」
「む。そうであったのか?」
「いえ。いいえ。そんな、そんなつもりは微塵も」
「え、でもずっと傍らにいて欲しいって」
おつのの言葉に、ひえと言ったかよは真っ赤になってうずくまる。
「かよは、大胆なのだか初心なのだか、よく分からないねえ」
おこうは、稽古をする気があるのだかないのだかよく分からない。
「私たちは稽古をして待っていましょう?」
おみつが、至極もっともなことを言ってようやくその場が収まったのだった。
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