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387 かわいそうな人
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病室の中にいた看護士は、一太を迎えるとすぐに出ていった。何かあればこちらのボタンを押してください、と病人の枕元のボタンを示して。
もう本当に、これ以上回復のためにできることはないのだろう。この人に、危篤と聞いて駆けつける家族がいなかったから、側についていてくれたのだ。
一太はベッドを見下ろした。
痩せた女に繋がれた色んな機械だけが、ピッピッピッと音を出していた。回復の見込みがないのならそれは、命を繋ぐものではなく命の終わりを告げるためのもの。音に変化があったら、きっと女の命は終わりなのだ。
かわいそうに、と一太は思った。
かわいそうに。
今際の際、そばに居るのは、この人が避けて避けて嫌がってきた人間だ。仕方ない。どうしても、一太に連絡が来るのだ。
かわいそうに。
この人は、一太から、逃げても逃げても逃げきれなくて、かわいそうだ。
お前がいなければ幸せだった、といつも言っていたものなあ。三人で、望と望の父親と仲良く暮らせたんだろう、きっと。今思い返しても、子どもの世話をするのが下手な人だったから、小さな望の世話をちゃんとできたかどうかは怪しいけれど。
しばらくそうして女の顔を眺めていたら、病室の扉がノックされ、けれど一太が答える前に開いた。
案内の看護士が止める間もなく中に入ってきたのは。
「あ? 家族しか入れないんじゃなかったのかよ?」
「望」
「なんだ、その格好? 七五三か」
学校の制服に見える服を着た望は、ずかずかとベッド横に来て女を見下ろした。家族しか入れないんじゃなかったのかよ、と言いながら望は、一太に出て行けとは言わなかった。
一太は、後ろに下がって望と距離を取った。すぐには手が届かない距離を。案内の看護士はすぐに出ていった。病室はあっという間に三人だけだ。ここにいるのが、家族という事なのか。世間で言うところの、家族。その三人がどう暮らしていたのかとか関係なく、最後の時に近くにいられる人。例えばこの女に、実はとても親しくしていた人間がいたとしても、結婚したりして同じ戸籍に入っていなければ、ここには入れない。
おかしなものだ。
でも、望が来た。良かったね、と一太は望ともう少し距離を取りながら思う。
「本当に死にかけてやんの」
しばらく黙って女を見下ろしていた望が、ぽつりと言った。
今まで来なかったのは、体調が悪いという話が、この人が望を呼ぶための嘘だとでも思っていたのだろうか。
よく似た二人だな、と一太は思った。
「昔のお前にそっくりだな、この顔」
今は違うのなら、嬉しい。
もう本当に、これ以上回復のためにできることはないのだろう。この人に、危篤と聞いて駆けつける家族がいなかったから、側についていてくれたのだ。
一太はベッドを見下ろした。
痩せた女に繋がれた色んな機械だけが、ピッピッピッと音を出していた。回復の見込みがないのならそれは、命を繋ぐものではなく命の終わりを告げるためのもの。音に変化があったら、きっと女の命は終わりなのだ。
かわいそうに、と一太は思った。
かわいそうに。
今際の際、そばに居るのは、この人が避けて避けて嫌がってきた人間だ。仕方ない。どうしても、一太に連絡が来るのだ。
かわいそうに。
この人は、一太から、逃げても逃げても逃げきれなくて、かわいそうだ。
お前がいなければ幸せだった、といつも言っていたものなあ。三人で、望と望の父親と仲良く暮らせたんだろう、きっと。今思い返しても、子どもの世話をするのが下手な人だったから、小さな望の世話をちゃんとできたかどうかは怪しいけれど。
しばらくそうして女の顔を眺めていたら、病室の扉がノックされ、けれど一太が答える前に開いた。
案内の看護士が止める間もなく中に入ってきたのは。
「あ? 家族しか入れないんじゃなかったのかよ?」
「望」
「なんだ、その格好? 七五三か」
学校の制服に見える服を着た望は、ずかずかとベッド横に来て女を見下ろした。家族しか入れないんじゃなかったのかよ、と言いながら望は、一太に出て行けとは言わなかった。
一太は、後ろに下がって望と距離を取った。すぐには手が届かない距離を。案内の看護士はすぐに出ていった。病室はあっという間に三人だけだ。ここにいるのが、家族という事なのか。世間で言うところの、家族。その三人がどう暮らしていたのかとか関係なく、最後の時に近くにいられる人。例えばこの女に、実はとても親しくしていた人間がいたとしても、結婚したりして同じ戸籍に入っていなければ、ここには入れない。
おかしなものだ。
でも、望が来た。良かったね、と一太は望ともう少し距離を取りながら思う。
「本当に死にかけてやんの」
しばらく黙って女を見下ろしていた望が、ぽつりと言った。
今まで来なかったのは、体調が悪いという話が、この人が望を呼ぶための嘘だとでも思っていたのだろうか。
よく似た二人だな、と一太は思った。
「昔のお前にそっくりだな、この顔」
今は違うのなら、嬉しい。
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