【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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381 卒業式 3 これまでとこれから

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 卒業式は恙無く行われた。学長の長い挨拶も、これで最後かと真剣に聞いているうちに、一太は鼻の奥がつんとしてきてしまった。卒業するのだ、と実感が湧いてくる。
 免許も無事に、取れるだけ取った。幼稚園教諭、保育士資格、社会福祉主事任用資格。免許があるというのは、なんて素晴らしいことだろう。
 できた。できたんだ。
 昼間の大学に通って、勉強することができた。一太は、授業を受けるのがもともととても好きだったのだ。落ち着いて、勉強のことだけを考えて勉強できるというのは幸せなことだった。
 学食でご飯を食べるのは、すごく美味しかったなあ。安くて栄養満点で、大好きだった小学校の給食と同じくらい美味しかった。
 ピアノが弾けるようになった。ちっとも上手ではなく、いつも必死に楽譜とにらめっこしているけれど、それでも右手と左手はちゃんと別々に動くようになった。
 一太は、潤んだ瞳で隣の席に座る晃を見上げる。
 一人じゃできなかった。晃や安倍、岸田が一緒にいてくれたからできたことだ。例えばお金があっても、一太は、一人なら学食で食べようとはしなかった。連れて行ってくれた温かい手があったから、美味しいご飯を毎日食べることができたのだ。
 ピアノも。ピアノも、頑張れば、頑張って練習すればできるようになると、一太はやり始める前は思っていた。何でも、自分が努力さえすれば何とかなってきた。何とかしてきた。何とかしなければ生きてはこられなかった。けれど、どうにもならないこともあるかもしれない、とピアノの練習を始めて、初めて一太は思った。センスがなければ、またはやり方を知らなければ、どうしてもできるようにはならない、それがピアノだったのだ。一太には、センスが無かった。
 ピアノ室を貸してほしい、と晃に頼んだあの日。予約を取るのが難しいピアノ室を、後から行って貸してほしいなんて言った一太の無茶なお願いを、晃は聞いてくれた。その上、ピアノの弾き方を教えてくれた。単位を落とさず済むかもしれない、と希望が見えたあの日。
 あの日から、一太はひとりぼっちじゃなくなった。
 晃は、今もこうして隣にいてくれる。あの時は、本当に切羽詰まっていたのも良かったのだ、たぶん。無我夢中だったから、あんな無茶なお願いをすることができた。
 色んな運の良い偶然が重なって、そうしてこんなに幸せな日々を一太は謳歌している。この先もまた、未来は希望に満ち溢れていて、そして、大好きな人はずっと側にいてくれると誓ってくれた。
 俺はなんて幸せ者なんだろう。
 流れ始めた卒業の歌を聞きながら、一太の目から涙は止まらなかった。
 
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