【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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380 卒業式 2 お金の使い所

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「学校斡旋でそれだった。着付けと髪の毛を結うのとメイクと、写真も一枚撮ってくれるのがセットなんだって。一応、レンタル試着会をやってたから見に行ったんだけどね。九月頃だったかな。二社来てて、もう一つの会社は八万六千円だった」

 無理無理無理、と一太は首を横に振る。女性用の、卒業式の袴レンタルの斡旋広告が掲示板に貼られていたことは何となく覚えているが、確かそこに値段は書いてなかったように思う。そんな値段が書いてあったら、きっと忘れない。

「でしょ? だから、入学式の時と同じスーツでいいことにしちゃった」
「言ってくれたら、半分出したのに」

 安倍が、ちょっと眉を下げて口を挟む。

「駄目だよ。高過ぎ。だいたいそのお金を出してたら旅行に行けなかったよ、私たち。私は旅行の方が良かったから、これで良かった」
「そりゃそうだけど」

 入学式の一太のように、スーツすら無い状態ではない。ちゃんと出席できるんだからこれでいい、と胸を張れる岸田は格好良いな、と一太は思った。そうやって、お金の使い所を選んで皆生きているのだ。自分も、そうできる人でありたいと思う。

「それにね」

 そう言って、岸田は携帯電話に保存されている写真を見せてくれた。

「試着、とか言って色々着せてもらって、写真も撮ってもらったんだ」
「わ。可愛い」

 そこには、着物と袴を着た岸田がにっこりと笑って立っていた。色んな柄の着物、袴を試着したらしく、何枚も写真がある。

「一人で選べないので、後で帰って親と選ぶから写真撮ってくださいって言ったら、髪の毛に飾りまで付けてくれてさ」

 ね、いいでしょ? と岸田は笑う。

「すごくいい」

 一太の言葉に岸田は、ふふんと胸を張った。覗き込んだ安倍が、その写真、もらってないと言った。

「え? いるの?」
「いるに決まってる」
「試着だよ?」
「本番と何にも違わねえじゃん」
「あはは。そうかも。後で送るね」
「全部な」
「え? 一番似合うって言われたこれだけでよくない? ほら、これ」
「全部な」
「えー? そう?」

 そりゃ全部欲しいに決まってる。そこは一太は安倍に賛成だった。どの柄の着物も、それぞれ岸田に似合っていたのだから。
 看板の順番が来たあとは、一人ずつの写真を撮り、二人ずつの写真を撮り、四人でも撮って家族でも撮って、最後に後ろに並んでいた人に頼んで全員でも撮ってもらった。卒業式の看板が隠れそうなほどに詰めて並んで、大笑いした。時間に余裕があったからできたことだ。

「ほら、早く来て良かった」

 陽子が満足気に笑って言った。
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