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373 卒業旅行 22 城

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「おおお」

 見上げて、思わずそう言ってしまったのは仕方ない。一太は、お城を目の前で見たのは初めてだった。一太が行ってみたかった場所の一つ。小学校の修学旅行の行き先に書いてあったものだ。もちろん、一太の通っていた小学校が修学旅行で行ったお城とは違うお城なのだが、とにかくお城には違いない。
 修学旅行前には授業で詳しく習って、それから実際に訪れていた。修学旅行から帰ってきて、修学旅行の思い出を描きましょうという美術の授業で、お城の絵を描いている人が多かった。それだけ、印象に残った人が多かったのだろう。上手な子のお城の絵は、見上げた構図になかなか迫力があって、お城って格好良いなあと一太は思ったものだ。お金が払えなくて修学旅行には行けず、何を描くこともできなかった一太は、他の子が描いている様子をしばらく眺めていた。教師に気付かれて、外の風景でも描きなさいと窓際に置かれてしまったが。
 
「お、村瀬も城好き?」

 一太の、思わずの感嘆に反応して、安倍が言った。

「あ、うん。お城に来てみたかったから嬉しい」
「あー。修学旅行な」
「そう」
「いいよな、城。俺、結構好き」
「私も」

 岸田が携帯電話を構えて、お城を写真に収めながら言う。

「俺ら趣味があって良かったよなー。城とかさ、何が面白いのか分かんないって言ってる奴も結構いてさ。修学旅行ん時」
「いたねー。駆け上がって上に着いたらすぐ降りようぜって同じ班の男子に言われて、はあ? ってなった」
「色々見たいとこあるし、説明の看板も読みたいってのにさ。安倍くんおそーいって同じ班の女子に言われて、はあ? ってなった」

 何だか二人で似たようなことを言っている。ふふふ、と一太が笑うと、あ、悪ぃと安倍が言った。

「村瀬、修学旅行行ってないんだよな。こういう話、大丈夫か?」
「ううん。聞きたい。面白いよ」
「そっか。なら良かった」

 安倍に気を使わせてしまった、という気持ちと、気にしてくれて嬉しい気持ちが入り交じって困ってしまい、一太は晃を見上げた。

「ん?」

 黙って三人の側に立っていた晃が、反射的に一太の頭を撫でる。安倍が、そういえばと聞いた。

「松島は? 城は?」
「行ったよ。修学旅行で」
「違う。好きかって聞いてんの」

 晃は、薄く笑っただけだった。

「ま、いいか。入るぞ」
「待って。お城の前で写真撮る」
「おう、撮ろう撮ろう」

 二人ずつ、お城を背に写真を撮って、入場券を買って城の中へ足を踏み入れた。
 新しく作り直されたものだと分かってはいても、石落としから下を眺めたりすると、うわあと一太は感動した。授業で習ったものを実際に見られるのは、何だかすごい体験だった。ルートは全部巡り、説明の看板でいちいち立ち止まって読んで、と長い時間城を堪能した。この班には、駆け上がる人もおそーいと文句を言う人もいなかったから、楽しいばかりだった。

「また、どっかの城に一緒に行こうぜ」

 城のてっぺんからの景色を、殿様のように堪能しながら安倍が言う。

「行こう行こう」
「行きたい」

 一太は、少しだけ気になって晃を見る。一緒に回ってくれていたが、晃は楽しかっただろうか?

「晃くん、楽しい?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「なら良かった」

 そんなにお城が好きな風には見えなかったけれど。

「いっちゃんが楽しいなら、僕も楽しいよ」
「そういうもの?」
「そういうもの」

 なら良かった。
 あーはいはい、と聞こえて一太が横を向くと、安倍と岸田が何とも表現のしようのない顔で晃を見ていた。
 
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