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371 卒業旅行 20 好きな人の思い出話は特別
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「お風呂、他にも人はいた?」
「あ、ううん。二人で貸し切りだった」
「そう」
「男湯と女湯が昨日と反対になってたけど、そんなに違わなかった」
「あ、そうなんだ」
「うん」
一太は、晃の質問につらつらと答えながら食堂へ向かう。安倍と一太が二人でお風呂に行ったことを嫌がっている晃が、どうしてこんなに色々聞いてくるんだろうと思いながら、一生懸命答えていた。
「ねえ、二人で何話してたの?」
「え? 何って、なんだろ」
岸田の質問には、うーんと考え込んでしまった。安倍も、なんだっけと首を傾げている。何だかんだと話していたけれど、何と言われるとはっきり思い出せない。
「あ、そうだ。あれだ。俺が俺って言うのなんでか、とか」
「ん? どういうこと?」
「ああ。村瀬って、僕って言うのが似合いそうなのに、自分のこと俺って言うんだな、とか言ったな」
会話内容を思い出して一太と安倍が笑いあっていると、それで? と晃の低い声がした。
「え? 僕って言うのが似合うってどういう感じ? とか言ってて」
「そうそう。松島が俺って言うの想像できないから、僕って言う人のイメージは松島だな、とか言って」
「晃くん、僕って言うのが似合うよね」
「似合う似合う」
「それで?」
「ん? ああ、村瀬が自分のことを俺って言う理由?」
晃くんは、そんなこと聞きたかったのだろうか。大したことじゃないのに。
「児童養護施設でさ。格好良いお兄ちゃんがいて。高校生だったのかなあ。顔も覚えてないんだけど、大きくて格好良いなあっていつも思ってて。その人が、自分のことを俺って言ってたから真似した。それだけ」
「へえ……」
「な、大した話じゃねえだろ? 良くあるやつじゃん? 憧れのお兄ちゃん、とかさ」
「……」
「大した話じゃなくてもさ、松島くんは聞きたかったんじゃないの?」
晃が返事をしないので一太と安倍が首を傾げていたら、岸田の呆れた声がした。
「好きな人の思い出話とか、私だったら超聞きたいんだけど」
あ、そうか。この話は、思い出話になるのか。
一太は、ぽかんと口を開けた。
自分にも、何だか普通に話せる感じの思い出話があったのか、と思ってしまった。
「ああ! そうか! うん、そうかも。悪ぃ、松島。そうだな。俺も早織の小さい頃の話とか、俺が知らなくて松島が知ってたら嫌かも。ごめんな」
「ごめん、晃くん」
だからさっきから、何を喋ったのかってずっと聞いてたのか。
好きな人の思い出話。一太の思い出話は、晃にとって特別なものなのだ。そう思うと、何だか嬉しかった。確かに一太も、晃の思い出話ならどんなことも聞きたいと思う。
そこから食堂まで、二人は一生懸命、話した内容を思い出そうと頑張った。給食で好きなおかずベストスリーとか、卵の食べ方は何が一番美味しいかとかそんなとりとめもない話。晃と岸田も乗ってきて、もう一度盛り上がった。
晃に笑顔が戻って、一太は密かにほっとした。
「あ、ううん。二人で貸し切りだった」
「そう」
「男湯と女湯が昨日と反対になってたけど、そんなに違わなかった」
「あ、そうなんだ」
「うん」
一太は、晃の質問につらつらと答えながら食堂へ向かう。安倍と一太が二人でお風呂に行ったことを嫌がっている晃が、どうしてこんなに色々聞いてくるんだろうと思いながら、一生懸命答えていた。
「ねえ、二人で何話してたの?」
「え? 何って、なんだろ」
岸田の質問には、うーんと考え込んでしまった。安倍も、なんだっけと首を傾げている。何だかんだと話していたけれど、何と言われるとはっきり思い出せない。
「あ、そうだ。あれだ。俺が俺って言うのなんでか、とか」
「ん? どういうこと?」
「ああ。村瀬って、僕って言うのが似合いそうなのに、自分のこと俺って言うんだな、とか言ったな」
会話内容を思い出して一太と安倍が笑いあっていると、それで? と晃の低い声がした。
「え? 僕って言うのが似合うってどういう感じ? とか言ってて」
「そうそう。松島が俺って言うの想像できないから、僕って言う人のイメージは松島だな、とか言って」
「晃くん、僕って言うのが似合うよね」
「似合う似合う」
「それで?」
「ん? ああ、村瀬が自分のことを俺って言う理由?」
晃くんは、そんなこと聞きたかったのだろうか。大したことじゃないのに。
「児童養護施設でさ。格好良いお兄ちゃんがいて。高校生だったのかなあ。顔も覚えてないんだけど、大きくて格好良いなあっていつも思ってて。その人が、自分のことを俺って言ってたから真似した。それだけ」
「へえ……」
「な、大した話じゃねえだろ? 良くあるやつじゃん? 憧れのお兄ちゃん、とかさ」
「……」
「大した話じゃなくてもさ、松島くんは聞きたかったんじゃないの?」
晃が返事をしないので一太と安倍が首を傾げていたら、岸田の呆れた声がした。
「好きな人の思い出話とか、私だったら超聞きたいんだけど」
あ、そうか。この話は、思い出話になるのか。
一太は、ぽかんと口を開けた。
自分にも、何だか普通に話せる感じの思い出話があったのか、と思ってしまった。
「ああ! そうか! うん、そうかも。悪ぃ、松島。そうだな。俺も早織の小さい頃の話とか、俺が知らなくて松島が知ってたら嫌かも。ごめんな」
「ごめん、晃くん」
だからさっきから、何を喋ったのかってずっと聞いてたのか。
好きな人の思い出話。一太の思い出話は、晃にとって特別なものなのだ。そう思うと、何だか嬉しかった。確かに一太も、晃の思い出話ならどんなことも聞きたいと思う。
そこから食堂まで、二人は一生懸命、話した内容を思い出そうと頑張った。給食で好きなおかずベストスリーとか、卵の食べ方は何が一番美味しいかとかそんなとりとめもない話。晃と岸田も乗ってきて、もう一度盛り上がった。
晃に笑顔が戻って、一太は密かにほっとした。
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