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369 卒業旅行 18 トランプは無限に遊べる魔法の玩具
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まくら投げの後は、トランプもした。ババ抜きも神経衰弱も七並べも知らない一太に、三人は、遊びながら丁寧にルールを教えてくれた。少々、丁寧過ぎるくらいだったのは、全員が幼児教育過程を履修しているからだろうか。
誰も、そんな事も知らないのかよなんて言わない。一太が、誰もが知っているはずのことを知らない事が多いと分かって、接してくれている。でも、知らないんだよなとわざわざ確認してきたりもしない。
なんて居心地が良いんだろう、と一太は自然と笑顔になった。
おやつもジュースと紙コップも、自由にどうぞと開けて置かれていて、何だかわくわくした。
トランプのゲームはどれも、今日初めて知った一太でも勝てるものだった。ババ抜きは、ババを最後に手に持っていた者の負け。だというのに岸田は、ババが手元にきたり手元から抜けていったりした時に、あ、と言ったり嬉しそうに笑ったりする。そんなことしたら、ババの在り処が丸分かりになるんだけどなあ、と一太は思った。分かると不利なのでは?
安倍も、手元にババがあると、相手に取らせる前に何回もシャッフルするから、持っているなと分かってしまう。晃は、手札を引いても特に様子が変わらないから一番分かりにくく、強かった。じっと三人を観察した一太は、晃の真似をして、何を引いても様子を変えないことにした。心の中では、うわあババ引いちゃったとか、やった、ババを引いてもらえた、とか大騒ぎだったけれど。
「ババ抜き、初めてなんだよね、村瀬くん」
「うん」
「ええー? 強いんだけど? なんで、私たちばかり最弱決定戦やってんの、剛くん?」
「今日は運が無かったんだ。きっとそうだ」
「運は、あんまり関係ない気がする」
運ばかりじゃないと思うけどなあ、と一太が思っていたら、晃もぼそりと呟いた。
「ババ抜きなんて運だろ」
「いやあ。そうでもないよ」
「え? 何? 何が違うの?」
「あのー。岸田さんと安倍くん、ババ持ってるなとかババが移動したなとか分かるから、その、取らないようにしやすいというか、何というか」
一太は、言っていいのかなと思いつつ、気付いたことを言ってみた。
「え? そうなの?」
「いや。俺は早織ほど表に出てないはずだ」
「え? 剛くんも私のに気付いてたの? 言ってよ!」
「言わねえよ。早織は全部顔に出てるとして、村瀬、俺のは? 俺のは何で分かった?」
「むかー。次は、絶対無表情でやってやる」
「あ、ええっと、安倍くんは、ババがあると何回もシャッフルする」
「ぐわー。してる。俺してるわ、シャッフル」
「いっちゃん、教えなくていいのに」
「松島、次こそ勝ってやる」
「あー、はいはい」
その後、全員がものすごく無表情で静かなババ抜きが開催された。が、岸田の思う無表情なのだろう表情がちっとも無表情でなく、やっぱり一太にはババの在り処は分かってしまった。たぶん、晃と安倍も気付いているだろうと思っていると、安倍が何故か笑い出した。その笑いが伝染して、一太もおかしくてたまらなくなってしまう。晃も、無表情でやるんじゃ無かったのと言いながら笑い出して、結局、大笑いの中、また岸田と安倍の最弱決定戦が行われることになった。
神経衰弱は、記憶力に自信のある一太と岸田の一騎討ちとなった。
七並べは、手持ちの札の運と戦略を練ることが必要で、かなり真剣にやり合った。どれも、何度やっても面白かった。
「明日は朝風呂行くから早起きだし、そろそろ寝るか」
「ほんとに行くんだ? 何時?」
「六時」
「はやっ」
「朝食七時からだからさー」
「朝食七時に行かなくても大丈夫だよ。七時半にしよう」
「ん? そうか? じゃ、風呂は六時半な」
「やっぱり一時間入るんだ……」
そんなやり取りをして、おやすみと言い合って、二人は隣の部屋へ戻って行った。
「楽しかった」
「うん、楽しかったね」
「ねえ、晃くん。トランプってどこに売ってる? おもちゃ屋さん? 高い?」
一太は、少々高くても欲しいなと思ってしまった。晃と二人でいれば、どの遊びも遊ぶことができる。一太にしては珍しく、欲しいものができてしまった。
「たぶん、百円均一ショップでも売ってるよ?」
絶対、買いに行こう!
誰も、そんな事も知らないのかよなんて言わない。一太が、誰もが知っているはずのことを知らない事が多いと分かって、接してくれている。でも、知らないんだよなとわざわざ確認してきたりもしない。
なんて居心地が良いんだろう、と一太は自然と笑顔になった。
おやつもジュースと紙コップも、自由にどうぞと開けて置かれていて、何だかわくわくした。
トランプのゲームはどれも、今日初めて知った一太でも勝てるものだった。ババ抜きは、ババを最後に手に持っていた者の負け。だというのに岸田は、ババが手元にきたり手元から抜けていったりした時に、あ、と言ったり嬉しそうに笑ったりする。そんなことしたら、ババの在り処が丸分かりになるんだけどなあ、と一太は思った。分かると不利なのでは?
安倍も、手元にババがあると、相手に取らせる前に何回もシャッフルするから、持っているなと分かってしまう。晃は、手札を引いても特に様子が変わらないから一番分かりにくく、強かった。じっと三人を観察した一太は、晃の真似をして、何を引いても様子を変えないことにした。心の中では、うわあババ引いちゃったとか、やった、ババを引いてもらえた、とか大騒ぎだったけれど。
「ババ抜き、初めてなんだよね、村瀬くん」
「うん」
「ええー? 強いんだけど? なんで、私たちばかり最弱決定戦やってんの、剛くん?」
「今日は運が無かったんだ。きっとそうだ」
「運は、あんまり関係ない気がする」
運ばかりじゃないと思うけどなあ、と一太が思っていたら、晃もぼそりと呟いた。
「ババ抜きなんて運だろ」
「いやあ。そうでもないよ」
「え? 何? 何が違うの?」
「あのー。岸田さんと安倍くん、ババ持ってるなとかババが移動したなとか分かるから、その、取らないようにしやすいというか、何というか」
一太は、言っていいのかなと思いつつ、気付いたことを言ってみた。
「え? そうなの?」
「いや。俺は早織ほど表に出てないはずだ」
「え? 剛くんも私のに気付いてたの? 言ってよ!」
「言わねえよ。早織は全部顔に出てるとして、村瀬、俺のは? 俺のは何で分かった?」
「むかー。次は、絶対無表情でやってやる」
「あ、ええっと、安倍くんは、ババがあると何回もシャッフルする」
「ぐわー。してる。俺してるわ、シャッフル」
「いっちゃん、教えなくていいのに」
「松島、次こそ勝ってやる」
「あー、はいはい」
その後、全員がものすごく無表情で静かなババ抜きが開催された。が、岸田の思う無表情なのだろう表情がちっとも無表情でなく、やっぱり一太にはババの在り処は分かってしまった。たぶん、晃と安倍も気付いているだろうと思っていると、安倍が何故か笑い出した。その笑いが伝染して、一太もおかしくてたまらなくなってしまう。晃も、無表情でやるんじゃ無かったのと言いながら笑い出して、結局、大笑いの中、また岸田と安倍の最弱決定戦が行われることになった。
神経衰弱は、記憶力に自信のある一太と岸田の一騎討ちとなった。
七並べは、手持ちの札の運と戦略を練ることが必要で、かなり真剣にやり合った。どれも、何度やっても面白かった。
「明日は朝風呂行くから早起きだし、そろそろ寝るか」
「ほんとに行くんだ? 何時?」
「六時」
「はやっ」
「朝食七時からだからさー」
「朝食七時に行かなくても大丈夫だよ。七時半にしよう」
「ん? そうか? じゃ、風呂は六時半な」
「やっぱり一時間入るんだ……」
そんなやり取りをして、おやすみと言い合って、二人は隣の部屋へ戻って行った。
「楽しかった」
「うん、楽しかったね」
「ねえ、晃くん。トランプってどこに売ってる? おもちゃ屋さん? 高い?」
一太は、少々高くても欲しいなと思ってしまった。晃と二人でいれば、どの遊びも遊ぶことができる。一太にしては珍しく、欲しいものができてしまった。
「たぶん、百円均一ショップでも売ってるよ?」
絶対、買いに行こう!
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