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366 卒業旅行 15 痒いところはなくなった
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結局、一太と晃は半分くらいは浴槽から飛び出しながら頭も洗って、一時間も経たずに風呂場から飛び出した。これ以上はのぼせてしまう、と二人の降参宣言を聞いた安倍は、笑いながら、まだもう少し入ると言う。二人で脱衣所へ逃げ出して、
「あ、涼しい」
と、一太は息を吐いた。
「あー、こんなに風呂に入ったの、初めてかも」
晃も、備え付けの、飲み水と書かれた機械から水を汲みながら言う。一太にも紙コップを渡してくれたので、有り難く受け取った。一杯では足りずに、もう一度汲みにいってしまう。
あまり汗をかかない自分でもこんなに喉が渇いているのだから、よく汗をかく安倍くんは、すっかり干からびてしまわないだろうか、と一太は心配になった。
「安倍くん、すごいね。あんな熱いのによく入ってられるね」
全く長く浸かれなかった一太が感心して言うと、
「あんなの慣れだよ、慣れ」
と、水を何杯も飲みながら晃が言った。
「慣れ?」
「そう。僕たちは二人とも、お風呂に長く入る習慣が無かったから慣れてないんだ。慣れれば、もう少し長く熱いお湯にも浸かれるはず」
「そう?」
何故か一生懸命言う晃が可笑しくて一太は笑った。
「確かに。お風呂にゆっくり入ったのって……」
家を出てからだなあ、という言葉は飲み込んだ。晃に、お風呂にもろくろく入れなかったことを話したことは無いような気がするが、僕たちは二人ともと晃が言っているので何となく察しているんだろう。なら、それでいい。晃も、お風呂に長く浸かる習慣がなかったとは知らなかったが。
先ほど、安倍が言っていたことに関係あるのだろうか。
頑張って生きて、偉えな。
そうだな、晃くんの胸の手術痕は、本当に頑張った証だから偉いなと思ったが、安倍が、お前らと言ったことが気になっていた。
自分の体など、痒くなければ痛くなければそれでいいと気にしたことがあまり無かったが、自分の体はもしかして、何か人と違うおかしいところがあるのだろうか。
一太はそう思って、自分の体を見下ろしてみる。貧相な肉の少ない体にはすっかり肉が付いてきて、昔よく言われた、骸骨みたいという悪口はもう当てはまらないような気がする。晃や安倍に比べたらまだまだ細いが、まあその、少しはマシになったのではないだろうか。
晃が薬を塗ってくれるから、赤くなってぶつぶつしたり乾燥してかさかさする所もあまりなくなった。体中に細かくたくさんの傷痕はあるが、そんなのは皆、大なり小なりあるだろう。
風呂場での安倍と晃の会話には分からないことが多かったが、そのうち分かる日がくるだろうと、一太は今聞くのはやめた。
「いっちゃん、どうかした?」
「ん? うん? いや。俺、痒いとこなくなったなって思って」
水を飲み終えた晃が、慣れた手つきで一太の髪を拭く。
「そりゃ、僕が頑張って薬塗ってるからね」
「いつもありがとう」
一太はもう、そうしてもらうことを申し訳ないと思って謝ったりしない。お礼を言うのが正しいと知ったから。
こうして髪を拭いてもらうことも、気持ちいいからずっとして欲しい。
嬉しくて顔を上げると、鏡越しににこにこ笑っている晃の顔が見えた。一太の髪を拭きながら、にこにこ、にこにこと笑っている。
「ふふ。後で俺が拭く」
「あ、うん。よろしく」
少しして風呂場から出てきた安倍に、イチャイチャすんなと言われたけれど、頭を拭きあうことの何がイチャイチャなのか一太には分からなかった。
「あ、涼しい」
と、一太は息を吐いた。
「あー、こんなに風呂に入ったの、初めてかも」
晃も、備え付けの、飲み水と書かれた機械から水を汲みながら言う。一太にも紙コップを渡してくれたので、有り難く受け取った。一杯では足りずに、もう一度汲みにいってしまう。
あまり汗をかかない自分でもこんなに喉が渇いているのだから、よく汗をかく安倍くんは、すっかり干からびてしまわないだろうか、と一太は心配になった。
「安倍くん、すごいね。あんな熱いのによく入ってられるね」
全く長く浸かれなかった一太が感心して言うと、
「あんなの慣れだよ、慣れ」
と、水を何杯も飲みながら晃が言った。
「慣れ?」
「そう。僕たちは二人とも、お風呂に長く入る習慣が無かったから慣れてないんだ。慣れれば、もう少し長く熱いお湯にも浸かれるはず」
「そう?」
何故か一生懸命言う晃が可笑しくて一太は笑った。
「確かに。お風呂にゆっくり入ったのって……」
家を出てからだなあ、という言葉は飲み込んだ。晃に、お風呂にもろくろく入れなかったことを話したことは無いような気がするが、僕たちは二人ともと晃が言っているので何となく察しているんだろう。なら、それでいい。晃も、お風呂に長く浸かる習慣がなかったとは知らなかったが。
先ほど、安倍が言っていたことに関係あるのだろうか。
頑張って生きて、偉えな。
そうだな、晃くんの胸の手術痕は、本当に頑張った証だから偉いなと思ったが、安倍が、お前らと言ったことが気になっていた。
自分の体など、痒くなければ痛くなければそれでいいと気にしたことがあまり無かったが、自分の体はもしかして、何か人と違うおかしいところがあるのだろうか。
一太はそう思って、自分の体を見下ろしてみる。貧相な肉の少ない体にはすっかり肉が付いてきて、昔よく言われた、骸骨みたいという悪口はもう当てはまらないような気がする。晃や安倍に比べたらまだまだ細いが、まあその、少しはマシになったのではないだろうか。
晃が薬を塗ってくれるから、赤くなってぶつぶつしたり乾燥してかさかさする所もあまりなくなった。体中に細かくたくさんの傷痕はあるが、そんなのは皆、大なり小なりあるだろう。
風呂場での安倍と晃の会話には分からないことが多かったが、そのうち分かる日がくるだろうと、一太は今聞くのはやめた。
「いっちゃん、どうかした?」
「ん? うん? いや。俺、痒いとこなくなったなって思って」
水を飲み終えた晃が、慣れた手つきで一太の髪を拭く。
「そりゃ、僕が頑張って薬塗ってるからね」
「いつもありがとう」
一太はもう、そうしてもらうことを申し訳ないと思って謝ったりしない。お礼を言うのが正しいと知ったから。
こうして髪を拭いてもらうことも、気持ちいいからずっとして欲しい。
嬉しくて顔を上げると、鏡越しににこにこ笑っている晃の顔が見えた。一太の髪を拭きながら、にこにこ、にこにこと笑っている。
「ふふ。後で俺が拭く」
「あ、うん。よろしく」
少しして風呂場から出てきた安倍に、イチャイチャすんなと言われたけれど、頭を拭きあうことの何がイチャイチャなのか一太には分からなかった。
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