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359 卒業旅行 8 いくつになってからやっても大丈夫

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「いっちゃん。今日さ、すごーく子どもっぽいものに片っ端から乗ってみない?」
「子どもっぽいもの?」
「そ。あんなのとか」

 晃が指差した先には、馬が上下しながらゆっくり回っている乗り物がある。馬と馬の間には、上下することもない座るだけの馬車もあった。小さな子どもを抱いた男の人が座って、乗り物の外でカメラを構えている女の人に手を振っていた。

「大人も乗っていいの?」
「乗ってるじゃん」

 確かに。子ども連れの大人が一緒に乗っている。
 でも。

「俺たち、大人だけなんだけど」
「大人だけで乗ったら駄目って書いてなければ、全部乗っちゃおう」
「……」

 そうか。駄目って書いてないなら、駄目じゃないってことだもんな。でも。

「僕もさ、小さい頃に遊園地で遊んだ覚えがあんまりないんだよね。一から全部乗ってみたいんだけど、駄目かな?」

 ね、付き合って、と晃は笑う。
 口車に乗せられてるなあと思いつつ、うんと一太は頷いた。病気を持っていた晃が、遊園地で大はしゃぎすることはできなかっただろう。連れてきてもらったことがあったとしても乗れる乗り物は限られていて、興奮すれば体が悲鳴を上げた。病気が治ってから、修学旅行や遠足で遊園地に行っても何の乗り物にも乗っていなかったことは、去年初めて四人で遊園地に出かけた時に聞いている。
 あの時に乗ったジェットコースターは、晃にとっても一太と同じで初めてだった。
 他の乗り物も、ほとんどがそうだった。
 あの時の遊園地はとても混んでいて、安倍の乗りたい乗り物を大急ぎで回った後は、園内を歩き回ってパレードを見たり観覧車に乗ったりしたくらいだ。
 二人には、初めてやることがたくさん残っている。

「あ。でも安倍くんたちは?」
「メールしとけばいいよ」

 ちょうど出口から出てきた二人が、こちらに手を振っていた。

「もう一回行ってくる!」
「はいよ」

 晃は笑って手を振り返した。一太はびっくりと目を見開く。

「えええ?」
「写真がまた、上手く撮れなかったんじゃない?」
「そ、そっか……」
「ふふっ」

 晃が笑う。

「安倍くんは、楽しいことを見つける天才だね」

 本当だ、と一太は思った。ジェットコースター好きはジェットコースターに乗るだけで楽しいのに、更にもっと楽しいことを見つけて遊んでいる。

「僕たちも、僕たちの楽しいことを見つけに行こう」

 ベンチから立ち上がった晃が、一太に手を差し出した。あまり激しい動きをしない乗り物から順に、遊園地を楽しんでいけばいい。小さい子どもが、保護者と一緒に少しずつ楽しむように。遊園地初心者の二人が楽しめることを探して楽しめばいいのだ。
 
「行く!」

 一太は、晴れやかな笑顔で晃の手を取った。
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