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351 どこか違ってどこかが一緒
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卒業旅行は二月に、と話していたが二月にも最後の実習があって忙しく、三月の初めに行くことになった。
飛行機に乗ってみたいとか新幹線でとか船はどうだろうとか、安倍の話は移動手段だけで夢がいっぱいだ。一太はどれも乗ったことがないので、どれでもいいなとわくわくした。
色々なパンフレットを集めてきて見てみたり、どの方面に何日行くかとか話しているだけで楽しい。どこに行くことになっても一太には初めてなので、どこでも良かった。
「村瀬も意見言え、意見」
「え? ええっと」
「ねえの? こんなとこ行ってみたいなーとか、そういうの」
「んー、んーと、ええっと」
「いっちゃん、何でもいいよ。今みんな適当なこと言ってるから」
「適当? 俺はいたって大まじめだぞ」
「海外は現実的じゃないよ。誰もパスポート持ってないし、今から手続きするんじゃ間に合わないんじゃないかな?」
「くっ。やっぱりそうか」
「予算的にも無理。安倍くんの予算が一番少ないんだからね」
「これでも俺は、爪に火を灯すように旅行費用を貯めてだなあ」
「分かってるって。だから、もっと予算に合った行き先を決めようって言ってんの」
「はい! 私、サファリパーク的なとこ行ってみたい」
「サファリパーク?」
岸田の提案に一太は思わず声を出した。知らない言葉だった。
「うん。サファリパーク。放し飼いになってる動物の間を車で走ったりして、餌をあげれるってやつ」
「おお」
放し飼い。動物を? 危険じゃない動物ってこと? 放し飼いしても大丈夫そうな動物って何だろ。羊とかうさぎとか? うさぎなんて小さくて見つけられないかも。
「ライオンに生肉あげたい」
「うーん。あげたいか、それ?」
「あげたい。目の前でこうガバって口を開けて生肉食べるんでしょ。うーん、どきどきする」
「へ? ライオン?」
「うん。ライオン」
「……」
ライオンって危険じゃない? 肉食だよ、肉食……。
「いっちゃん、バスが檻で囲まれてるから大丈夫だよ」
「バスが檻で……」
まるで自分たちの方が閉じ込められてる動物みたいだ!
「松島、行ったことあんの?」
「ある。父さんの運転する車で回ったみたい。動物がすごい近くに寄ってきて僕は固まってたらしいんだけど、実はそんなに覚えてない。写真見せられて、こんなことがあった、あんな事があったって家族が言うから、そう覚えてるだけ」
「ああ。ちっちゃい頃に連れて行ってもらって、あんまり覚えてないパターンか。あるある」
「あ、やっぱり? 安倍くんもお兄さんいるんだっけ?」
「そ。兄貴や両親は覚えてて、連れて行ってやったって言うんだけど、俺は覚えてないっての」
「そういうの、よくあるよねえ」
「え? そうなんだ」
「早織はお姉ちゃんだから、覚えてんだろ?」
「え? 岸田さん、お姉ちゃんなの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 私、弟いるよ、二人。だから、こうして大学来ることもかなり悩んだんだよねえ。弟二人いるんだから女の大学にかける金なんてない、無理だってお父さんに言われて諦めかけたし」
「ふーん」
「でも、夢を諦めきれなくて、奨学金をもらってアルバイトして行くから、大学に行かせてくださいって頭下げた。最初だけ親に借りたお金も働いて返すつもり。生活苦しかったし、ピアノの練習大変だったけど、楽しい大学生活だったなあ。来て良かった。本当に良かった」
「そっか」
一太は自分も同じだ、と笑った。
「あ、なんかごめんね、村瀬くん。その、家族の話とか」
「あ、そうだな。俺もつい」
「ううん。皆の色んな話聞きたい。楽しい。俺、今岸田さんに共感したし。弟いるの一緒だし。俺も、大変だったけど大学来て良かったってしみじみ思ってたし」
「そっか。一緒か」
「うん」
一緒だ。一太は、そう思えることが嬉しかった。ずっと、自分はどこか皆と違うと怯えていたのに。皆、どこか違ってどこか一緒なんだ。
「サファリパーク、俺も行きたい」
晃も安倍も行ってても覚えてないなら、皆初めてみたいなもんだ。皆一緒に初めてのことをしよう!
飛行機に乗ってみたいとか新幹線でとか船はどうだろうとか、安倍の話は移動手段だけで夢がいっぱいだ。一太はどれも乗ったことがないので、どれでもいいなとわくわくした。
色々なパンフレットを集めてきて見てみたり、どの方面に何日行くかとか話しているだけで楽しい。どこに行くことになっても一太には初めてなので、どこでも良かった。
「村瀬も意見言え、意見」
「え? ええっと」
「ねえの? こんなとこ行ってみたいなーとか、そういうの」
「んー、んーと、ええっと」
「いっちゃん、何でもいいよ。今みんな適当なこと言ってるから」
「適当? 俺はいたって大まじめだぞ」
「海外は現実的じゃないよ。誰もパスポート持ってないし、今から手続きするんじゃ間に合わないんじゃないかな?」
「くっ。やっぱりそうか」
「予算的にも無理。安倍くんの予算が一番少ないんだからね」
「これでも俺は、爪に火を灯すように旅行費用を貯めてだなあ」
「分かってるって。だから、もっと予算に合った行き先を決めようって言ってんの」
「はい! 私、サファリパーク的なとこ行ってみたい」
「サファリパーク?」
岸田の提案に一太は思わず声を出した。知らない言葉だった。
「うん。サファリパーク。放し飼いになってる動物の間を車で走ったりして、餌をあげれるってやつ」
「おお」
放し飼い。動物を? 危険じゃない動物ってこと? 放し飼いしても大丈夫そうな動物って何だろ。羊とかうさぎとか? うさぎなんて小さくて見つけられないかも。
「ライオンに生肉あげたい」
「うーん。あげたいか、それ?」
「あげたい。目の前でこうガバって口を開けて生肉食べるんでしょ。うーん、どきどきする」
「へ? ライオン?」
「うん。ライオン」
「……」
ライオンって危険じゃない? 肉食だよ、肉食……。
「いっちゃん、バスが檻で囲まれてるから大丈夫だよ」
「バスが檻で……」
まるで自分たちの方が閉じ込められてる動物みたいだ!
「松島、行ったことあんの?」
「ある。父さんの運転する車で回ったみたい。動物がすごい近くに寄ってきて僕は固まってたらしいんだけど、実はそんなに覚えてない。写真見せられて、こんなことがあった、あんな事があったって家族が言うから、そう覚えてるだけ」
「ああ。ちっちゃい頃に連れて行ってもらって、あんまり覚えてないパターンか。あるある」
「あ、やっぱり? 安倍くんもお兄さんいるんだっけ?」
「そ。兄貴や両親は覚えてて、連れて行ってやったって言うんだけど、俺は覚えてないっての」
「そういうの、よくあるよねえ」
「え? そうなんだ」
「早織はお姉ちゃんだから、覚えてんだろ?」
「え? 岸田さん、お姉ちゃんなの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 私、弟いるよ、二人。だから、こうして大学来ることもかなり悩んだんだよねえ。弟二人いるんだから女の大学にかける金なんてない、無理だってお父さんに言われて諦めかけたし」
「ふーん」
「でも、夢を諦めきれなくて、奨学金をもらってアルバイトして行くから、大学に行かせてくださいって頭下げた。最初だけ親に借りたお金も働いて返すつもり。生活苦しかったし、ピアノの練習大変だったけど、楽しい大学生活だったなあ。来て良かった。本当に良かった」
「そっか」
一太は自分も同じだ、と笑った。
「あ、なんかごめんね、村瀬くん。その、家族の話とか」
「あ、そうだな。俺もつい」
「ううん。皆の色んな話聞きたい。楽しい。俺、今岸田さんに共感したし。弟いるの一緒だし。俺も、大変だったけど大学来て良かったってしみじみ思ってたし」
「そっか。一緒か」
「うん」
一緒だ。一太は、そう思えることが嬉しかった。ずっと、自分はどこか皆と違うと怯えていたのに。皆、どこか違ってどこか一緒なんだ。
「サファリパーク、俺も行きたい」
晃も安倍も行ってても覚えてないなら、皆初めてみたいなもんだ。皆一緒に初めてのことをしよう!
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