349 / 398
349 お酒を飲んでみようの会 2
しおりを挟む
「酒の強い弱いってさ」
「ん?」
安倍と二人で残りのお酒をちまちま飲んで、料理をちまちま食べる。たまにそれぞれの膝の上にある、大好きな人の頭を撫でる。
一太は、によによと笑った。
何だこれ。
すっごく楽しい。
「全部、遺伝なんだって。アルコールを分解する何かが体にたくさんあれば、お酒をたくさん飲んでも分解してくれて酔いにくいし、体にあんまり無かったらアルコールを分解できないからすぐ酔っちゃうらしい。それか、体からアルコールを出そうとして吐いちゃうって」
「ふーん」
「その、アルコールを分解する何かをたくさん持っているか持っていないかってのが遺伝で決まってるから、酒に強いか弱いかはもう生まれつき決まってるんだってさ」
「そっか」
「うちはどっちも飲めるから、俺は飲めるんじゃないかなって思ってた」
「どっちも?」
「そ。父親も母親も。早織んちは、父親が美味しそうにビール飲んでたってさっき言ってたから、母親がお酒に弱いんだろうな。早織が弱いってことはさ」
「あ、うん」
「松島んちってどう?」
晃くんのうち?
あまり食卓で、お酒を見たことが無いかもしれない。いや、でもそうだな。誠さんは、たまに飲んでいた。温めた日本酒で、お正月の挨拶に来た学さんと乾杯していた。お姉さんたちも飲んでいた。一太と晃は、安倍と岸田と四人で初めて飲もうと約束があったから、その日はお酒は飲まないと断った。陽子さんは、どうだったっけ? 楽しそうにおつまみを運んで、それで?
「誠さんは飲んでた。じゃあ陽子さんが、あんまり……」
ああ。遺伝。……遺伝か。親から受け継ぐもの。
あの人は、たまに夜の仕事に出てお酒の匂いをぷんぷんさせて帰ってきた。そんな時も、いつも通り一太に冷たく望に甘かった。
「あ。あー」
口を噤んだ一太に、安倍が急に真顔になって言った。
「ええっと、ごめん」
「え?」
「父親とか母親とか、その、お前にする話じゃなかった」
「ああ」
確かに、ちょっと思い出してはいたけれども。その思い出はあまり気分のいいものでは無かったけれども。でも、遺伝、遺伝か……。
「あの人はたぶん、お酒に強かったと思うよ? たぶん」
「そうか……」
「顔もよく似てるってずっと言われてた。……こんなとこも似てるのか。かわいそうだな」
「かわいそう?」
「うん。いらなくて捨てて、自分の子じゃない、いらないってずっと言ってる子が自分にそっくりでさ。検査しなくても親子って分かるとか言われて、捨てても捨てても手元に戻されてさ。大事にしてるもう一人の子どもが全然あの人には似てなくて、かわいそうだなって」
「それって、かわいそうなのか?」
「かわいそうじゃない?」
「かわいそうじゃないだろ」
「そっか」
かわいそうではないのか。そういうのが、あの人が俺に苛立つ原因の一つでもあったと思うんだけど。
「お前はもうさ、その人とは縁切ったんだろ」
「あ、うん、そう」
正確には切れていないらしいが、戸籍は別にしてもらった。先日久しぶりに会って、改めて自分の事をあの人がどう思っているのか確認したばかりだ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ悲しかったんだと思う。
でもまあ、それだけ。
あの人との色んな繋がりをみつけても、まあ、仕方ないなと思うだけ。もう二度とこちらから繋がりたいなんて思わない。もう、本当に、欠片も。
「じゃあまあ、そうだな。松島んちの父ちゃんが飲めるんなら、そっちと一緒だとか思っとけばいいんじゃね? ほら、お前の帰るとこって、これからは松島んちなんだからさ」
「ええー。何それ」
一太は、ふわふわとした気分のままに笑った。頬に冷たいものが流れて、何だこれと思った。
「酒を飲むと、意味もなく泣きたくなることあるらしいぜ」
じゃあ仕方ないか。この涙に意味はない。お酒を飲んだせいで勝手に涙が出てきているんだから意味はないんだ。
一太は、たくさん泣いた。少しして起きた晃が狼狽えながら抱きしめてくれて、もっと泣いた。泣いて泣いて、疲れて寝てしまった。
「ん?」
安倍と二人で残りのお酒をちまちま飲んで、料理をちまちま食べる。たまにそれぞれの膝の上にある、大好きな人の頭を撫でる。
一太は、によによと笑った。
何だこれ。
すっごく楽しい。
「全部、遺伝なんだって。アルコールを分解する何かが体にたくさんあれば、お酒をたくさん飲んでも分解してくれて酔いにくいし、体にあんまり無かったらアルコールを分解できないからすぐ酔っちゃうらしい。それか、体からアルコールを出そうとして吐いちゃうって」
「ふーん」
「その、アルコールを分解する何かをたくさん持っているか持っていないかってのが遺伝で決まってるから、酒に強いか弱いかはもう生まれつき決まってるんだってさ」
「そっか」
「うちはどっちも飲めるから、俺は飲めるんじゃないかなって思ってた」
「どっちも?」
「そ。父親も母親も。早織んちは、父親が美味しそうにビール飲んでたってさっき言ってたから、母親がお酒に弱いんだろうな。早織が弱いってことはさ」
「あ、うん」
「松島んちってどう?」
晃くんのうち?
あまり食卓で、お酒を見たことが無いかもしれない。いや、でもそうだな。誠さんは、たまに飲んでいた。温めた日本酒で、お正月の挨拶に来た学さんと乾杯していた。お姉さんたちも飲んでいた。一太と晃は、安倍と岸田と四人で初めて飲もうと約束があったから、その日はお酒は飲まないと断った。陽子さんは、どうだったっけ? 楽しそうにおつまみを運んで、それで?
「誠さんは飲んでた。じゃあ陽子さんが、あんまり……」
ああ。遺伝。……遺伝か。親から受け継ぐもの。
あの人は、たまに夜の仕事に出てお酒の匂いをぷんぷんさせて帰ってきた。そんな時も、いつも通り一太に冷たく望に甘かった。
「あ。あー」
口を噤んだ一太に、安倍が急に真顔になって言った。
「ええっと、ごめん」
「え?」
「父親とか母親とか、その、お前にする話じゃなかった」
「ああ」
確かに、ちょっと思い出してはいたけれども。その思い出はあまり気分のいいものでは無かったけれども。でも、遺伝、遺伝か……。
「あの人はたぶん、お酒に強かったと思うよ? たぶん」
「そうか……」
「顔もよく似てるってずっと言われてた。……こんなとこも似てるのか。かわいそうだな」
「かわいそう?」
「うん。いらなくて捨てて、自分の子じゃない、いらないってずっと言ってる子が自分にそっくりでさ。検査しなくても親子って分かるとか言われて、捨てても捨てても手元に戻されてさ。大事にしてるもう一人の子どもが全然あの人には似てなくて、かわいそうだなって」
「それって、かわいそうなのか?」
「かわいそうじゃない?」
「かわいそうじゃないだろ」
「そっか」
かわいそうではないのか。そういうのが、あの人が俺に苛立つ原因の一つでもあったと思うんだけど。
「お前はもうさ、その人とは縁切ったんだろ」
「あ、うん、そう」
正確には切れていないらしいが、戸籍は別にしてもらった。先日久しぶりに会って、改めて自分の事をあの人がどう思っているのか確認したばかりだ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ悲しかったんだと思う。
でもまあ、それだけ。
あの人との色んな繋がりをみつけても、まあ、仕方ないなと思うだけ。もう二度とこちらから繋がりたいなんて思わない。もう、本当に、欠片も。
「じゃあまあ、そうだな。松島んちの父ちゃんが飲めるんなら、そっちと一緒だとか思っとけばいいんじゃね? ほら、お前の帰るとこって、これからは松島んちなんだからさ」
「ええー。何それ」
一太は、ふわふわとした気分のままに笑った。頬に冷たいものが流れて、何だこれと思った。
「酒を飲むと、意味もなく泣きたくなることあるらしいぜ」
じゃあ仕方ないか。この涙に意味はない。お酒を飲んだせいで勝手に涙が出てきているんだから意味はないんだ。
一太は、たくさん泣いた。少しして起きた晃が狼狽えながら抱きしめてくれて、もっと泣いた。泣いて泣いて、疲れて寝てしまった。
239
お気に入りに追加
1,887
あなたにおすすめの小説
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる