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349 お酒を飲んでみようの会 2

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「酒の強い弱いってさ」
「ん?」

 安倍と二人で残りのお酒をちまちま飲んで、料理をちまちま食べる。たまにそれぞれの膝の上にある、大好きな人の頭を撫でる。
 一太は、によによと笑った。
 何だこれ。
 すっごく楽しい。

「全部、遺伝なんだって。アルコールを分解する何かが体にたくさんあれば、お酒をたくさん飲んでも分解してくれて酔いにくいし、体にあんまり無かったらアルコールを分解できないからすぐ酔っちゃうらしい。それか、体からアルコールを出そうとして吐いちゃうって」
「ふーん」
「その、アルコールを分解する何かをたくさん持っているか持っていないかってのが遺伝で決まってるから、酒に強いか弱いかはもう生まれつき決まってるんだってさ」
「そっか」
「うちはどっちも飲めるから、俺は飲めるんじゃないかなって思ってた」
「どっちも?」
「そ。父親も母親も。早織さおりんちは、父親が美味しそうにビール飲んでたってさっき言ってたから、母親がお酒に弱いんだろうな。早織さおりが弱いってことはさ」
「あ、うん」
「松島んちってどう?」

 晃くんのうち?
 あまり食卓で、お酒を見たことが無いかもしれない。いや、でもそうだな。誠さんは、たまに飲んでいた。温めた日本酒で、お正月の挨拶に来た学さんと乾杯していた。お姉さんたちも飲んでいた。一太と晃は、安倍と岸田と四人で初めて飲もうと約束があったから、その日はお酒は飲まないと断った。陽子さんは、どうだったっけ? 楽しそうにおつまみを運んで、それで?

「誠さんは飲んでた。じゃあ陽子さんが、あんまり……」

 ああ。遺伝。……遺伝か。親から受け継ぐもの。
 あの人は、たまに夜の仕事に出てお酒の匂いをぷんぷんさせて帰ってきた。そんな時も、いつも通り一太に冷たくのぞむに甘かった。

「あ。あー」

 口を噤んだ一太に、安倍が急に真顔になって言った。

「ええっと、ごめん」
「え?」
「父親とか母親とか、その、お前にする話じゃなかった」
「ああ」

 確かに、ちょっと思い出してはいたけれども。その思い出はあまり気分のいいものでは無かったけれども。でも、遺伝、遺伝か……。

「あの人はたぶん、お酒に強かったと思うよ? たぶん」
「そうか……」
「顔もよく似てるってずっと言われてた。……こんなとこも似てるのか。かわいそうだな」
「かわいそう?」
「うん。いらなくて捨てて、自分の子じゃない、いらないってずっと言ってる子が自分にそっくりでさ。検査しなくても親子って分かるとか言われて、捨てても捨てても手元に戻されてさ。大事にしてるもう一人の子どもが全然あの人には似てなくて、かわいそうだなって」
「それって、かわいそうなのか?」
「かわいそうじゃない?」
「かわいそうじゃないだろ」
「そっか」

 かわいそうではないのか。そういうのが、あの人が俺に苛立つ原因の一つでもあったと思うんだけど。

「お前はもうさ、その人とは縁切ったんだろ」
「あ、うん、そう」

 正確には切れていないらしいが、戸籍は別にしてもらった。先日久しぶりに会って、改めて自分の事をあの人がどう思っているのか確認したばかりだ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ悲しかったんだと思う。
 でもまあ、それだけ。
 あの人との色んな繋がりをみつけても、まあ、仕方ないなと思うだけ。もう二度とこちらから繋がりたいなんて思わない。もう、本当に、欠片も。

「じゃあまあ、そうだな。松島んちの父ちゃんが飲めるんなら、そっちと一緒だとか思っとけばいいんじゃね? ほら、お前の帰るとこって、これからは松島んちなんだからさ」
「ええー。何それ」

 一太は、ふわふわとした気分のままに笑った。頬に冷たいものが流れて、何だこれと思った。

「酒を飲むと、意味もなく泣きたくなることあるらしいぜ」

 じゃあ仕方ないか。この涙に意味はない。お酒を飲んだせいで勝手に涙が出てきているんだから意味はないんだ。
 一太は、たくさん泣いた。少しして起きた晃が狼狽えながら抱きしめてくれて、もっと泣いた。泣いて泣いて、疲れて寝てしまった。
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