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342 成人式 11 ◇式典も楽しかった
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式典は、恙無く終わった。町の偉い人たちが挨拶をして祝辞の紹介があるというような、式典らしい式典。その後は、新成人の代表の子が二人ほど決意の作文を読み上げた。最後に町の吹奏楽隊が演奏をして終了だ。
一人で出席していたなら、随分と退屈していたかもしれない。けれど、隣の席で、真剣に舞台上の人の話を聞いて頷き、吹奏楽の演奏に顔を綻ばせている一太を見ると、出席して良かったなと晃は思えた。
終了後は、人がまばらになってから席を立った。急ぎの用も無いし、特に会いたい友人がいる訳でもない。もともと晃は、成人式に出席すれば地元の知り合いと出会うことになる、という事すら失念していた。あちらこちらで声をかけられて驚いたくらいだ。先ほど、成人式に来るなら来るって返信しろよ、と知り合いに言われたメッセージのことも、自分に関係の無い話でメッセージが増えていくのが面倒で、読むこともしなくなっていたグループの中での話なのだろう。ああいうのも、読まないのならさっさとグループから抜けておけば良かったのだ。あまりにいい加減だった自分を反省しつつ、晃は一太と手を繋いで立ち上がる。
「あー。そういう事?」
会場の外へ出るとすぐに声を掛けられた。知り合いは、式典が終わった後で旧交を温めながら写真を撮りあう人の中へは混ざらず、晃が出てくるのを待っていたらしい。
もういらない交友関係を切ろう、と決心したばかりの晃には苦笑いが浮かんだ。
「あれだ。お前、恋愛対象が女じゃねえってやつ?」
「だから、女がどんなに寄ってきてもあんな塩対応だった訳だ」
「ああ、納得。あんだけ女に寄って来られて何の反応も無しとか、考えてみりゃおかしいもんな。じゃ、たまに女と付き合ってたのもブラフ? 本命は俺たちの誰かだったー、とか止めてくれよ」
「うわ。ヤバ。鳥肌」
何がしたいのだろう? と晃はただ首を傾げた。一太も晃を見上げて、よく分からないという顔をしている。
「指輪の相手って、そのお友だちなんだろ?」
野間たちは、にやにや笑う。周りにはたくさんの人がいて、話が聞こえる範囲から視線を感じ始めた。
「安心しろよ。俺らそういう事で差別なんてしねえから。グループメッセージで皆にも報告して、お前が困らないようにしておいてやるからさ」
ああ、そういう事。先ほどの腹いせに、僕が普通でないと、より多くの人に知らしめて貶めようとしているのか。
晃は、大丈夫だと伝える為に一太の手を更に強く握る。そのままにっこりと野間たちに笑って見せた。
「誰かと待ち合わせですか? 会場にはもうほとんど誰もいなかったですよ?」
「は?」
「何言ってんの、お前」
「随分親しげだから、誰かと間違えて話しかけてるのかと思って。だって僕たちは、そんなに親しい間柄じゃ無かったし」
「いや、は?」
「学生の頃つるんでたろ、俺ら」
「そうだっけ? 僕の周りを歩いてるなあ、とは思ってたけど、僕にそんなつもりは無かったなあ。勘違いさせていたならごめんね。そんなつもり無かったんだ。じゃ、さよなら」
頭を一つ下げた後は、振り向きもせずに歩き出した。もちろん、大切な一太の手は離さない。
式典は楽しめたし、看板横で写真も撮ったし、じゃ帰ろうか。
一人で出席していたなら、随分と退屈していたかもしれない。けれど、隣の席で、真剣に舞台上の人の話を聞いて頷き、吹奏楽の演奏に顔を綻ばせている一太を見ると、出席して良かったなと晃は思えた。
終了後は、人がまばらになってから席を立った。急ぎの用も無いし、特に会いたい友人がいる訳でもない。もともと晃は、成人式に出席すれば地元の知り合いと出会うことになる、という事すら失念していた。あちらこちらで声をかけられて驚いたくらいだ。先ほど、成人式に来るなら来るって返信しろよ、と知り合いに言われたメッセージのことも、自分に関係の無い話でメッセージが増えていくのが面倒で、読むこともしなくなっていたグループの中での話なのだろう。ああいうのも、読まないのならさっさとグループから抜けておけば良かったのだ。あまりにいい加減だった自分を反省しつつ、晃は一太と手を繋いで立ち上がる。
「あー。そういう事?」
会場の外へ出るとすぐに声を掛けられた。知り合いは、式典が終わった後で旧交を温めながら写真を撮りあう人の中へは混ざらず、晃が出てくるのを待っていたらしい。
もういらない交友関係を切ろう、と決心したばかりの晃には苦笑いが浮かんだ。
「あれだ。お前、恋愛対象が女じゃねえってやつ?」
「だから、女がどんなに寄ってきてもあんな塩対応だった訳だ」
「ああ、納得。あんだけ女に寄って来られて何の反応も無しとか、考えてみりゃおかしいもんな。じゃ、たまに女と付き合ってたのもブラフ? 本命は俺たちの誰かだったー、とか止めてくれよ」
「うわ。ヤバ。鳥肌」
何がしたいのだろう? と晃はただ首を傾げた。一太も晃を見上げて、よく分からないという顔をしている。
「指輪の相手って、そのお友だちなんだろ?」
野間たちは、にやにや笑う。周りにはたくさんの人がいて、話が聞こえる範囲から視線を感じ始めた。
「安心しろよ。俺らそういう事で差別なんてしねえから。グループメッセージで皆にも報告して、お前が困らないようにしておいてやるからさ」
ああ、そういう事。先ほどの腹いせに、僕が普通でないと、より多くの人に知らしめて貶めようとしているのか。
晃は、大丈夫だと伝える為に一太の手を更に強く握る。そのままにっこりと野間たちに笑って見せた。
「誰かと待ち合わせですか? 会場にはもうほとんど誰もいなかったですよ?」
「は?」
「何言ってんの、お前」
「随分親しげだから、誰かと間違えて話しかけてるのかと思って。だって僕たちは、そんなに親しい間柄じゃ無かったし」
「いや、は?」
「学生の頃つるんでたろ、俺ら」
「そうだっけ? 僕の周りを歩いてるなあ、とは思ってたけど、僕にそんなつもりは無かったなあ。勘違いさせていたならごめんね。そんなつもり無かったんだ。じゃ、さよなら」
頭を一つ下げた後は、振り向きもせずに歩き出した。もちろん、大切な一太の手は離さない。
式典は楽しめたし、看板横で写真も撮ったし、じゃ帰ろうか。
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