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341 成人式 10 ◇友だちというものは

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野間のまくん。高校の頃、ろくに返事もしない僕と一緒に居てくれてありがとう。あの頃は、お互いにメリットがあったから一緒に居ることができたんだと思う。でも今、僕は野間のまくん達と一緒に居るメリットが見いだせないんだ。僕の態度が許せないって言うなら見捨ててくれて構わない。わざわざ、連絡もしてくれなくていいから連絡先も破棄してほしい。じゃあ、さよなら」
「は?」
「いや、は?」

 晃は、言いたい事をぺらぺらと言うと、ぽかんとしている野間たちを置いてさっさと席を移動した。彼らを相手に、こんなに喋ったのは初めてかもしれない。いつも、何か話しかけられた事に対して返事をするだけで、晃から話すことなんて無かったから。
 真ん中付近から移動して、三人しか横並びに座れない端の席に一太と二人で並んで座ると、はあとため息が出る。
 折角、一太や母に喜んで欲しくて成人式に出席したというのに台無しだ。
 晃は、そう考えてから、はたと気付く。
 この考え方はおかしいんじゃないだろうか。一太や母が喜ぶから成人式に出席した? いや、違う。そうじゃない。晃は、一太と一緒に成人式に出席したかったのだ。節目の年齢の記念の行事を、一太と一緒に体験したかったのだ。
 いつものように母に言われたからではなく、晃は自分で二十歳はたちの記念の写真が欲しいと思った。一年遅れてしまったけれど、しっかりと成人式をした一太の写真を残しておきたい。女性のように着飾る訳ではないが、節目を迎えたという事がよく分かっていいな、と晃は思った。いつも写真を残したがる母の気持ちがよく分かった。普段から晃と一緒に写った写真を欲しがる一太も、晃と一緒に写した成人式の記念写真を欲しがるのは間違いない。何年か後に二人で見ることを想像すると、それだけで楽しみだ。
 こうして、同じ場所で一太と居られるなら、少々退屈な話が続く式典だったとしても悪くない。こんな事もきっと、あの時ってああだったね、なんて何年後かに思い出して言うんだろう。そんな何気ない思い出が同じであるのは、とても嬉しい事のように思えた。
 いや、何年後なんて日にちをおかなくても、帰ったらすぐにでも友だちと会って、そっちの式典ってどんな感じだった、とか、写真見せてとか言いたい。晃は、生真面目な顔でスーツを着ている安倍を想像した。思わず、ふっと笑ってしまう。

「晃くん、いいの? 友だち……」

 不安な顔をしてる一太に、力強く頷く。

「大丈夫。知り合いだけど友だちじゃないよ」
「そう……なの?」
「うん」

 間違いない。だって、あの人たちと久しぶりに会っても、話すことは何も無かった。今も、何か話したいとはこれっぽっちも思っていない。でも、安倍とはもう話がしたい。一太とも岸田とも、話したい事がたくさんある。
 はっきりと分かった。友だちってそういうものだ。きっと、そういうものだ。
 
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