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340 成人式 9 話が合わない人たち
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「友だち、ですけど……」
何故、この晃の友人たちが、この場にいない岸田のことを根掘り葉掘り聞いてくるのか、一太には訳が分からなかった。
「あー。ええっと、友だちさんの友だちでもあるんだ。松島の彼女なんだよね?」
「へ?」
さっきもそんなような事を言っていた気がする。ぽんぽんと話が進んでいくので、一太は聞き流してしまっていた。晃も、特に反応はしていなかった。
「違います」
驚いたが、言っている内容はしっかり把握できたので返事は一つだ。
「え? マジで? 違うの?」
「はい、違います」
「はあー? いや、有り得ないって。男女の友情なんて幻想でしょ。その子が、松島か君か選べてないだけじゃねえの?」
「へ?」
また、相手が何を言っているのか分からなくなって、一太はぽかんと口を開けた。
はあ、とため息を吐いた晃が一太の手を握ってくれた。
「その子には彼氏がいる。その彼氏も、俺たちの友人だ。これ以上話す気はない」
「うえー。相変わらず冷たい。その彼氏、よく彼女をお前に会わせたな? ま、いいや。じゃ、その指輪のお相手は?」
「言う気は一ミリもない」
「俺らに言わずに誰に言うんだよ。松島、俺ら以外につるんでた奴なんていないだろ?」
そうなのか。晃くんは大学に来るまでは、この人たちと一緒にいたのか。一太は、昔の話をこのまま聞きたいような、でも晃が嫌そうだからあんまり余計なことを言って欲しくないような、複雑な気持ちで晃と友人たちを見比べていた。
「誰かに言うために付けてる訳じゃない」
「へ? こういうのって聞いて欲しくて付けるもんなんじゃないの?」
「確かに! 彼女のこと、聞いてほしいーって言ってるような気がするよなあ」
そんなことは思ったこともなかった、と一太はびっくりした。恋人がいます、という証である、と聞いて晃とお互いに指に付けたいとは思ったが、それは証が欲しかっただけだ。恋人になってほしい、と告白されることの多い晃が証を付けていたら告白を諦めてくれる人がいる、という効果も、後から付いてきた副産物だった。
「あ。それか相手がヤキモチ妬き? 付けないなら成人式に行かないでって言われたとか」
ヤキモチ……。いや。俺、そんなことは言ってないけど。一太は心の中でこっそり呟く。
一太と晃は指輪を、付けていたくて付けている。誰かに何か言われてつけたりしない。
「うわあ。それ、今の俺の彼女」
「え? お前、指輪付けてないじゃん」
「指輪を付けて家を出て、会場に着いてから外してポケットに入れた」
「うわあ、悪う」
「いい出会いがあるかもしれないのに、指輪付けてられないだろー」
「ははっ。てかこの席だと、いい出会い無くね?」
「確かに? 松島狙いの女子たちの座るとこ、あんまりないなー。もうちょい広いとこに移動しようぜ、松島」
一太が、近くで交わされる会話内容に唖然としているうちに、晃の隣の席の人が、晃の腕を掴みながら立ち上がろうとした。
晃はその腕を振り払ってから、一太の手を引いて立ち上がる。
「いっちゃん、少し舞台が見にくくなるけど、端っこの席に移動してもいいかな」
「あ、うん」
晃の目は、会場の端の方の、席が三つだけ並んでいる辺りを向いている。そこに二人で座ってしまえば、よほど満員でない限り、一つ空いた横の席に座らせろという者はいないだろう。一太としては、そろそろこの状況にいっぱいいっぱいなので、この人たちと少し離れて晃と二人になりたいからとても助かる。けれど、晃はそれでいいのだろうか?久しぶりに会った友人なのでは?
「は? 何だよ、松島。いい加減にしろよ。普通こんな事ばっかしてたら、友だちなんて誰もいなくなるんだぞ。せっかく声を掛けてやってんのにさ。お前、普段もメールに返信もねえし、いつまでも許されると思うなよ」
ああ、やはり相手が怒り出した。
一太は、こんな状況を経験したことがないのでどうすればいいのか分からず、ただぎゅうと晃の手を握りしめた。
何故、この晃の友人たちが、この場にいない岸田のことを根掘り葉掘り聞いてくるのか、一太には訳が分からなかった。
「あー。ええっと、友だちさんの友だちでもあるんだ。松島の彼女なんだよね?」
「へ?」
さっきもそんなような事を言っていた気がする。ぽんぽんと話が進んでいくので、一太は聞き流してしまっていた。晃も、特に反応はしていなかった。
「違います」
驚いたが、言っている内容はしっかり把握できたので返事は一つだ。
「え? マジで? 違うの?」
「はい、違います」
「はあー? いや、有り得ないって。男女の友情なんて幻想でしょ。その子が、松島か君か選べてないだけじゃねえの?」
「へ?」
また、相手が何を言っているのか分からなくなって、一太はぽかんと口を開けた。
はあ、とため息を吐いた晃が一太の手を握ってくれた。
「その子には彼氏がいる。その彼氏も、俺たちの友人だ。これ以上話す気はない」
「うえー。相変わらず冷たい。その彼氏、よく彼女をお前に会わせたな? ま、いいや。じゃ、その指輪のお相手は?」
「言う気は一ミリもない」
「俺らに言わずに誰に言うんだよ。松島、俺ら以外につるんでた奴なんていないだろ?」
そうなのか。晃くんは大学に来るまでは、この人たちと一緒にいたのか。一太は、昔の話をこのまま聞きたいような、でも晃が嫌そうだからあんまり余計なことを言って欲しくないような、複雑な気持ちで晃と友人たちを見比べていた。
「誰かに言うために付けてる訳じゃない」
「へ? こういうのって聞いて欲しくて付けるもんなんじゃないの?」
「確かに! 彼女のこと、聞いてほしいーって言ってるような気がするよなあ」
そんなことは思ったこともなかった、と一太はびっくりした。恋人がいます、という証である、と聞いて晃とお互いに指に付けたいとは思ったが、それは証が欲しかっただけだ。恋人になってほしい、と告白されることの多い晃が証を付けていたら告白を諦めてくれる人がいる、という効果も、後から付いてきた副産物だった。
「あ。それか相手がヤキモチ妬き? 付けないなら成人式に行かないでって言われたとか」
ヤキモチ……。いや。俺、そんなことは言ってないけど。一太は心の中でこっそり呟く。
一太と晃は指輪を、付けていたくて付けている。誰かに何か言われてつけたりしない。
「うわあ。それ、今の俺の彼女」
「え? お前、指輪付けてないじゃん」
「指輪を付けて家を出て、会場に着いてから外してポケットに入れた」
「うわあ、悪う」
「いい出会いがあるかもしれないのに、指輪付けてられないだろー」
「ははっ。てかこの席だと、いい出会い無くね?」
「確かに? 松島狙いの女子たちの座るとこ、あんまりないなー。もうちょい広いとこに移動しようぜ、松島」
一太が、近くで交わされる会話内容に唖然としているうちに、晃の隣の席の人が、晃の腕を掴みながら立ち上がろうとした。
晃はその腕を振り払ってから、一太の手を引いて立ち上がる。
「いっちゃん、少し舞台が見にくくなるけど、端っこの席に移動してもいいかな」
「あ、うん」
晃の目は、会場の端の方の、席が三つだけ並んでいる辺りを向いている。そこに二人で座ってしまえば、よほど満員でない限り、一つ空いた横の席に座らせろという者はいないだろう。一太としては、そろそろこの状況にいっぱいいっぱいなので、この人たちと少し離れて晃と二人になりたいからとても助かる。けれど、晃はそれでいいのだろうか?久しぶりに会った友人なのでは?
「は? 何だよ、松島。いい加減にしろよ。普通こんな事ばっかしてたら、友だちなんて誰もいなくなるんだぞ。せっかく声を掛けてやってんのにさ。お前、普段もメールに返信もねえし、いつまでも許されると思うなよ」
ああ、やはり相手が怒り出した。
一太は、こんな状況を経験したことがないのでどうすればいいのか分からず、ただぎゅうと晃の手を握りしめた。
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