340 / 398
340 成人式 9 話が合わない人たち
しおりを挟む
「友だち、ですけど……」
何故、この晃の友人たちが、この場にいない岸田のことを根掘り葉掘り聞いてくるのか、一太には訳が分からなかった。
「あー。ええっと、友だちさんの友だちでもあるんだ。松島の彼女なんだよね?」
「へ?」
さっきもそんなような事を言っていた気がする。ぽんぽんと話が進んでいくので、一太は聞き流してしまっていた。晃も、特に反応はしていなかった。
「違います」
驚いたが、言っている内容はしっかり把握できたので返事は一つだ。
「え? マジで? 違うの?」
「はい、違います」
「はあー? いや、有り得ないって。男女の友情なんて幻想でしょ。その子が、松島か君か選べてないだけじゃねえの?」
「へ?」
また、相手が何を言っているのか分からなくなって、一太はぽかんと口を開けた。
はあ、とため息を吐いた晃が一太の手を握ってくれた。
「その子には彼氏がいる。その彼氏も、俺たちの友人だ。これ以上話す気はない」
「うえー。相変わらず冷たい。その彼氏、よく彼女をお前に会わせたな? ま、いいや。じゃ、その指輪のお相手は?」
「言う気は一ミリもない」
「俺らに言わずに誰に言うんだよ。松島、俺ら以外につるんでた奴なんていないだろ?」
そうなのか。晃くんは大学に来るまでは、この人たちと一緒にいたのか。一太は、昔の話をこのまま聞きたいような、でも晃が嫌そうだからあんまり余計なことを言って欲しくないような、複雑な気持ちで晃と友人たちを見比べていた。
「誰かに言うために付けてる訳じゃない」
「へ? こういうのって聞いて欲しくて付けるもんなんじゃないの?」
「確かに! 彼女のこと、聞いてほしいーって言ってるような気がするよなあ」
そんなことは思ったこともなかった、と一太はびっくりした。恋人がいます、という証である、と聞いて晃とお互いに指に付けたいとは思ったが、それは証が欲しかっただけだ。恋人になってほしい、と告白されることの多い晃が証を付けていたら告白を諦めてくれる人がいる、という効果も、後から付いてきた副産物だった。
「あ。それか相手がヤキモチ妬き? 付けないなら成人式に行かないでって言われたとか」
ヤキモチ……。いや。俺、そんなことは言ってないけど。一太は心の中でこっそり呟く。
一太と晃は指輪を、付けていたくて付けている。誰かに何か言われてつけたりしない。
「うわあ。それ、今の俺の彼女」
「え? お前、指輪付けてないじゃん」
「指輪を付けて家を出て、会場に着いてから外してポケットに入れた」
「うわあ、悪う」
「いい出会いがあるかもしれないのに、指輪付けてられないだろー」
「ははっ。てかこの席だと、いい出会い無くね?」
「確かに? 松島狙いの女子たちの座るとこ、あんまりないなー。もうちょい広いとこに移動しようぜ、松島」
一太が、近くで交わされる会話内容に唖然としているうちに、晃の隣の席の人が、晃の腕を掴みながら立ち上がろうとした。
晃はその腕を振り払ってから、一太の手を引いて立ち上がる。
「いっちゃん、少し舞台が見にくくなるけど、端っこの席に移動してもいいかな」
「あ、うん」
晃の目は、会場の端の方の、席が三つだけ並んでいる辺りを向いている。そこに二人で座ってしまえば、よほど満員でない限り、一つ空いた横の席に座らせろという者はいないだろう。一太としては、そろそろこの状況にいっぱいいっぱいなので、この人たちと少し離れて晃と二人になりたいからとても助かる。けれど、晃はそれでいいのだろうか?久しぶりに会った友人なのでは?
「は? 何だよ、松島。いい加減にしろよ。普通こんな事ばっかしてたら、友だちなんて誰もいなくなるんだぞ。せっかく声を掛けてやってんのにさ。お前、普段もメールに返信もねえし、いつまでも許されると思うなよ」
ああ、やはり相手が怒り出した。
一太は、こんな状況を経験したことがないのでどうすればいいのか分からず、ただぎゅうと晃の手を握りしめた。
何故、この晃の友人たちが、この場にいない岸田のことを根掘り葉掘り聞いてくるのか、一太には訳が分からなかった。
「あー。ええっと、友だちさんの友だちでもあるんだ。松島の彼女なんだよね?」
「へ?」
さっきもそんなような事を言っていた気がする。ぽんぽんと話が進んでいくので、一太は聞き流してしまっていた。晃も、特に反応はしていなかった。
「違います」
驚いたが、言っている内容はしっかり把握できたので返事は一つだ。
「え? マジで? 違うの?」
「はい、違います」
「はあー? いや、有り得ないって。男女の友情なんて幻想でしょ。その子が、松島か君か選べてないだけじゃねえの?」
「へ?」
また、相手が何を言っているのか分からなくなって、一太はぽかんと口を開けた。
はあ、とため息を吐いた晃が一太の手を握ってくれた。
「その子には彼氏がいる。その彼氏も、俺たちの友人だ。これ以上話す気はない」
「うえー。相変わらず冷たい。その彼氏、よく彼女をお前に会わせたな? ま、いいや。じゃ、その指輪のお相手は?」
「言う気は一ミリもない」
「俺らに言わずに誰に言うんだよ。松島、俺ら以外につるんでた奴なんていないだろ?」
そうなのか。晃くんは大学に来るまでは、この人たちと一緒にいたのか。一太は、昔の話をこのまま聞きたいような、でも晃が嫌そうだからあんまり余計なことを言って欲しくないような、複雑な気持ちで晃と友人たちを見比べていた。
「誰かに言うために付けてる訳じゃない」
「へ? こういうのって聞いて欲しくて付けるもんなんじゃないの?」
「確かに! 彼女のこと、聞いてほしいーって言ってるような気がするよなあ」
そんなことは思ったこともなかった、と一太はびっくりした。恋人がいます、という証である、と聞いて晃とお互いに指に付けたいとは思ったが、それは証が欲しかっただけだ。恋人になってほしい、と告白されることの多い晃が証を付けていたら告白を諦めてくれる人がいる、という効果も、後から付いてきた副産物だった。
「あ。それか相手がヤキモチ妬き? 付けないなら成人式に行かないでって言われたとか」
ヤキモチ……。いや。俺、そんなことは言ってないけど。一太は心の中でこっそり呟く。
一太と晃は指輪を、付けていたくて付けている。誰かに何か言われてつけたりしない。
「うわあ。それ、今の俺の彼女」
「え? お前、指輪付けてないじゃん」
「指輪を付けて家を出て、会場に着いてから外してポケットに入れた」
「うわあ、悪う」
「いい出会いがあるかもしれないのに、指輪付けてられないだろー」
「ははっ。てかこの席だと、いい出会い無くね?」
「確かに? 松島狙いの女子たちの座るとこ、あんまりないなー。もうちょい広いとこに移動しようぜ、松島」
一太が、近くで交わされる会話内容に唖然としているうちに、晃の隣の席の人が、晃の腕を掴みながら立ち上がろうとした。
晃はその腕を振り払ってから、一太の手を引いて立ち上がる。
「いっちゃん、少し舞台が見にくくなるけど、端っこの席に移動してもいいかな」
「あ、うん」
晃の目は、会場の端の方の、席が三つだけ並んでいる辺りを向いている。そこに二人で座ってしまえば、よほど満員でない限り、一つ空いた横の席に座らせろという者はいないだろう。一太としては、そろそろこの状況にいっぱいいっぱいなので、この人たちと少し離れて晃と二人になりたいからとても助かる。けれど、晃はそれでいいのだろうか?久しぶりに会った友人なのでは?
「は? 何だよ、松島。いい加減にしろよ。普通こんな事ばっかしてたら、友だちなんて誰もいなくなるんだぞ。せっかく声を掛けてやってんのにさ。お前、普段もメールに返信もねえし、いつまでも許されると思うなよ」
ああ、やはり相手が怒り出した。
一太は、こんな状況を経験したことがないのでどうすればいいのか分からず、ただぎゅうと晃の手を握りしめた。
248
お気に入りに追加
1,887
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる