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339 成人式 8 男友達
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混み合う受け付けを二人、無表情で通って、広い講堂の空いている席に座ると、晃がほーっと息を吐き出した。
「いっちゃん。巻き込んでごめんね」
「え? ううん」
別に晃が謝ることではない。晃も迷惑をかけられた側だ。何せ晃は、親しげに話しかけてきた女性が誰なのか知らない、と言っていたのだから。
「よくあるんだ。友人だと名乗る女性に声を掛けられることがさ。僕は女性の友人なんて岸田さんしかいないのに、何で勝手にそう思われてしまうんだか分からないよ」
「え? お前、女の友だちいるの? 彼女?」
急に声がして、一太はびくっと肩を揺らした。スーツ姿の男性が三人、晃の横に座る。晃と一太が、人の少ない場所を選んで座ったものだから、三人並んで横の席に座ることができた。
「いやあ、見てたぜ、松島。相変わらず女に囲まれてたな」
「メールに返事がないから、てっきり成人式に来ないんだと思ってた。来るなら来るって言えよな」
「そうしたら俺らが、いつものように女たちの相手をしてやったのに」
随分親しげな三人は、皆それぞれ整った顔をしていた。晃ほどではないが、明るく話す様子は気さくで女性たちが放っておかなそうだ。
「……久しぶり」
晃が、渋々といった様子で口を開いたので、先ほどの女性たちと違ってちゃんと知り合いだったようだ。
「おう。その無愛想、相変わらずだな。いやあ、懐かしい」
「さっきは人違いかと思ったぜ。随分と優しい口調で話してたからさ。お前、あんな話し方できたのな? 岸田さん? だっけ? 彼女が出来てちょっと変わったのか?」
「見えてるぜ、指輪。なあ、今日は一緒に来てないの? 写真は?」
話が勝手に進んでいくこの感じは、どことなく安倍の様子に似ている。安倍といる時ほど、晃が気を許している様子はなかったが、たぶん晃の友人で間違いないのだろう。挨拶をするべきか、と一太が対応を迷ってそわそわしていると、こんにちは、と一人が身を乗り出して話しかけてきた。
「こ、こんにちは」
とりあえず、挨拶が交わせてほっとする。
「松島の友だち?」
「はい、そうです」
この晃の友人は先ほどの女性とは違い、一太に、あんたなんか知らない、誰だ、とは言わなかった。まあ普通に考えて、晃と一緒に成人式に出席しているのだから親しい関係であることは分かるだろう。
「地元こっち? 松島とは大学で知り合ったん?」
「ええっと、地元……」
地元、というのは何だったっけ?
「地元は違うけど、僕が一緒に成人式に出席したくて誘ったんだよ。申請すれば出席できたから」
「へえ」
三人ともが、晃の言葉にひどく驚いている。地元、は後で調べることにして、一太は晃に会話を任せることにした。が、晃の友人の目は一太の方を向いている。
「ええっと、友だちさんは、地元で成人式に出席しなくて良かったん? ほら、こうやって昔の友だちとかに会えたりするじゃん?」
地元とは、もともと住んでいた場所のことかな、と一太は当たりをつける。普通の会話をするために知らない言葉の意味を予測するのは、慣れた作業だった。この緊張感は少し懐かしい。最近は、知らないことを聞いても誰も一太をおかしな目で見なかったから忘れていた。
「今の友だちと一緒にいたかったから」
昔の友だちなんていない、という本心を隠して、一太はにこと笑う。まあ、晃と一緒にいたいのも本心なので嘘は吐いていない。
「へええ。そうなんだ。ま、いいや。で、岸田さんってどんな子?」
「いっちゃん。巻き込んでごめんね」
「え? ううん」
別に晃が謝ることではない。晃も迷惑をかけられた側だ。何せ晃は、親しげに話しかけてきた女性が誰なのか知らない、と言っていたのだから。
「よくあるんだ。友人だと名乗る女性に声を掛けられることがさ。僕は女性の友人なんて岸田さんしかいないのに、何で勝手にそう思われてしまうんだか分からないよ」
「え? お前、女の友だちいるの? 彼女?」
急に声がして、一太はびくっと肩を揺らした。スーツ姿の男性が三人、晃の横に座る。晃と一太が、人の少ない場所を選んで座ったものだから、三人並んで横の席に座ることができた。
「いやあ、見てたぜ、松島。相変わらず女に囲まれてたな」
「メールに返事がないから、てっきり成人式に来ないんだと思ってた。来るなら来るって言えよな」
「そうしたら俺らが、いつものように女たちの相手をしてやったのに」
随分親しげな三人は、皆それぞれ整った顔をしていた。晃ほどではないが、明るく話す様子は気さくで女性たちが放っておかなそうだ。
「……久しぶり」
晃が、渋々といった様子で口を開いたので、先ほどの女性たちと違ってちゃんと知り合いだったようだ。
「おう。その無愛想、相変わらずだな。いやあ、懐かしい」
「さっきは人違いかと思ったぜ。随分と優しい口調で話してたからさ。お前、あんな話し方できたのな? 岸田さん? だっけ? 彼女が出来てちょっと変わったのか?」
「見えてるぜ、指輪。なあ、今日は一緒に来てないの? 写真は?」
話が勝手に進んでいくこの感じは、どことなく安倍の様子に似ている。安倍といる時ほど、晃が気を許している様子はなかったが、たぶん晃の友人で間違いないのだろう。挨拶をするべきか、と一太が対応を迷ってそわそわしていると、こんにちは、と一人が身を乗り出して話しかけてきた。
「こ、こんにちは」
とりあえず、挨拶が交わせてほっとする。
「松島の友だち?」
「はい、そうです」
この晃の友人は先ほどの女性とは違い、一太に、あんたなんか知らない、誰だ、とは言わなかった。まあ普通に考えて、晃と一緒に成人式に出席しているのだから親しい関係であることは分かるだろう。
「地元こっち? 松島とは大学で知り合ったん?」
「ええっと、地元……」
地元、というのは何だったっけ?
「地元は違うけど、僕が一緒に成人式に出席したくて誘ったんだよ。申請すれば出席できたから」
「へえ」
三人ともが、晃の言葉にひどく驚いている。地元、は後で調べることにして、一太は晃に会話を任せることにした。が、晃の友人の目は一太の方を向いている。
「ええっと、友だちさんは、地元で成人式に出席しなくて良かったん? ほら、こうやって昔の友だちとかに会えたりするじゃん?」
地元とは、もともと住んでいた場所のことかな、と一太は当たりをつける。普通の会話をするために知らない言葉の意味を予測するのは、慣れた作業だった。この緊張感は少し懐かしい。最近は、知らないことを聞いても誰も一太をおかしな目で見なかったから忘れていた。
「今の友だちと一緒にいたかったから」
昔の友だちなんていない、という本心を隠して、一太はにこと笑う。まあ、晃と一緒にいたいのも本心なので嘘は吐いていない。
「へええ。そうなんだ。ま、いいや。で、岸田さんってどんな子?」
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