【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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335 成人式 4 感謝

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 指示された場所に立って、隣の晃を見上げる。同じタイミングで一太を見下ろしていた晃が、ふと優しく笑った。一太もつられて笑うと、カシャとシャッターの音がした。
 あ、しまった、と一太が慌てて前を向くと、

「気にしなくていいよー。試し撮り、試し撮り」

 と、写真屋が笑う。

「後で購入する写真を選んでもらうから、撮ってる枚数は気にしないでね」

 手伝っている女の人が、何か照明のようなものを調節しながら笑った。

「じゃあ二人で真面目な顔して。いいよー。次は、笑って。あ、でも目は開いててね。よーしよし。じゃ次は、一人座って、一人は後ろから屈んで寄り添ってみようか」
「お父さん、結婚式の写真じゃないんだから」
「あ、そうだった。まあ、いいじゃないか。違うポーズも一枚撮っておこう」

 思わず笑顔になってしまう、写真屋の夫婦の軽妙な掛け合いに乗せられているうちに、二人での写真があっという間に撮り終わった。ぽんぽんと降ってくる指示に従っていたら、あっという間だった。じゃあ次は一人ずつ、と言われて、一太はほぅっとため息を吐く。

「いっちゃん、いい顔だったよ」

 晃が一人で撮っている様子を見ながら、陽子が小さな声で話しかけてきた。いい顔、がどんな顔かは分からないが、普通にできていたのなら良かったな、と一太は思う。

「あの、ありがとうございます」
「何が?」

 何が……。
 なんだろう。何だか自然と口から出た。何だかこう、胸から溢れてぽろりと。

「その、色々です。色々、全部」

 そう。色々。色んな、たくさんの、これまでの全部。

「なあに、それ?」

 ふふふ、と陽子は笑う。

「いえ。ありがとうございます。陽子さんも誠さんも。ありがとう」

 自然と頭も下がった。
 成人式ってのは、そういう日なのかもしれない。
 こんなに自分を大切にしてくれた大人へ、無事に大人になれたことを感謝する、そんな日。

「やあだ、いっちゃん。まだ何にもしてあげてないわ。うちの子になるのはこれからよ、これから」

 ありがとう。
 ぶわり、と胸の中に暖かいものが広がっていく。
 一太はこの日、生まれて初めて、心の底から、生きていて良かった、と思った。
 本当に、そう思った。
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