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327 好きなものが増えていく
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「おはよ」
晃が降りてきた。パジャマに上着を羽織っただけの格好だ。
「あら、晃、早い。おはよう。誕生日おめでとう!」
「早いな。誕生日おめでとう」
「あ、うん。ありがとう」
「二十歳からは早起き? 大人になったのねえ。お母さん、嬉しいわ」
「あー。ええっと、いっちゃんが起きる時に起こしてくれた。でも、早くてさ。もう一回寝そうだった」
「なんだ。やっぱりか」
出勤間際の誠も、座って一太と朝食を食べていた陽子も、晃の早起きに驚きながら、流れるように誕生日おめでとうと言った。
わ、と一太は胸を撫で下ろした。
二階で、晃を起こして挨拶をしてきて良かった。晃が起きたら言おうと思っていたなら、きっとおめでとうの一番のりはできなかったに違いない。メールが届いているランプも光っていたし、メールでのメッセージも出遅れていた事だろう。
一番におめでとうって言えた。そんなことが、すごくすごく嬉しい。
思わずにこにこと晃を見ていると、晃もにこにこと一太を見ていた。
「起きたよ」
「うん。早く起こしてごめんね」
「ううん。一緒に降りなくてごめん。余韻に浸ってた」
「余韻?」
晃が一太の耳に口を近付けて、ごくごく小さい声で言う。
「キスの」
キスの余韻……。
一太は、気持ち良かった晃とのキスを思い出して真っ赤になった。
「なになに?」
「内緒」
「うわー、やだわー。目の前の内緒話、やだわー」
「母さん」
「はいはい」
誠が、荷物を持って玄関へ向かって行くのを陽子が立ち上がって追いかけていく。一太も、首を傾げつつ立ち上がった。
「どうしたの?」
「ん? 何かお仕事あるのかな、と思って」
「見送りするだけだよ」
「見送り」
「うん。見送り」
出かける人の見送り。そういえば陽子は、晃と一太がちょっとそこまでと出かける時も、二人の家に帰る時も、必ず見送りをしてくれていた。一太はそんなことを考えながらなんとなく付いていって、玄関先で誠の車を陽子と一緒に見送った。
いってきます、と手を振って誠は出かけて行った。
「一緒に見送りしてくれたの? ありがとう」
と、陽子に言われて、一太はなんとなくくすぐったい気持ちになる。
朝食の続きを、晃も加わって食べていたら光里も起きてきて、わいわいととても賑やかな朝食の席になった。お腹いっぱいになった。
よし、お皿を洗おうか、と腕まくりをすれば、後で食洗機にセットするから置いておいていいよーと言われ、洗濯物、と洗面所を覗いた時にはもう、洗濯物は乾燥機に放り込まれていた。
「あの、陽子さん?」
「はいはーい」
そう言った陽子はもう、お風呂を洗っている。早い。
「食洗機、やります!」
「ありがとう、いっちゃん。じゃあそれは甘えるわ」
そうして、手早い陽子は、八時半にはあらかたの家事を終えて、いってくるねと玄関に向かった。光里も同じ時間だった。
「いってらっしゃい」
玄関で、一太が晃と共に見送りをすれば、陽子は嬉しそうに、いってきますと笑った。
「お見送りしてもらえるなんて嬉しい。家事は適当に置いておいていいからね。たまにはゆっくりしてて」
「あ、でも、俺、夜ご飯作ります。今日、晃くんの誕生日だから、いつもの」
「ああー。じゃ、いっちゃんがしんどくなければお願いしようかな。しんどくなければ、よ? 材料費は晃が立て替えておいてね。おやつにケーキ買ってきて食べなさい。誕生日だから」
「あ、私、夜ご飯いらない。クリスマスだからデート」
「え? 今、あんた彼氏いたの?」
「内緒ー」
「もう。今日はそればっかり」
「は? なに?」
「なんでもない。いってらっしゃい。いってきます」
「いってらっしゃい」
最後まで、わいわいと話しながら二人も出かけて行った。陽子は、何度も振り返って手を振ってくれた。
お見送りっていいな、と一太は思った。見送るのも見送られるのも、なんだか好きだ。
「今日は、何して遊ぼうか」
そう言って笑う晃と二人の留守番も、とても好きだ。
晃が降りてきた。パジャマに上着を羽織っただけの格好だ。
「あら、晃、早い。おはよう。誕生日おめでとう!」
「早いな。誕生日おめでとう」
「あ、うん。ありがとう」
「二十歳からは早起き? 大人になったのねえ。お母さん、嬉しいわ」
「あー。ええっと、いっちゃんが起きる時に起こしてくれた。でも、早くてさ。もう一回寝そうだった」
「なんだ。やっぱりか」
出勤間際の誠も、座って一太と朝食を食べていた陽子も、晃の早起きに驚きながら、流れるように誕生日おめでとうと言った。
わ、と一太は胸を撫で下ろした。
二階で、晃を起こして挨拶をしてきて良かった。晃が起きたら言おうと思っていたなら、きっとおめでとうの一番のりはできなかったに違いない。メールが届いているランプも光っていたし、メールでのメッセージも出遅れていた事だろう。
一番におめでとうって言えた。そんなことが、すごくすごく嬉しい。
思わずにこにこと晃を見ていると、晃もにこにこと一太を見ていた。
「起きたよ」
「うん。早く起こしてごめんね」
「ううん。一緒に降りなくてごめん。余韻に浸ってた」
「余韻?」
晃が一太の耳に口を近付けて、ごくごく小さい声で言う。
「キスの」
キスの余韻……。
一太は、気持ち良かった晃とのキスを思い出して真っ赤になった。
「なになに?」
「内緒」
「うわー、やだわー。目の前の内緒話、やだわー」
「母さん」
「はいはい」
誠が、荷物を持って玄関へ向かって行くのを陽子が立ち上がって追いかけていく。一太も、首を傾げつつ立ち上がった。
「どうしたの?」
「ん? 何かお仕事あるのかな、と思って」
「見送りするだけだよ」
「見送り」
「うん。見送り」
出かける人の見送り。そういえば陽子は、晃と一太がちょっとそこまでと出かける時も、二人の家に帰る時も、必ず見送りをしてくれていた。一太はそんなことを考えながらなんとなく付いていって、玄関先で誠の車を陽子と一緒に見送った。
いってきます、と手を振って誠は出かけて行った。
「一緒に見送りしてくれたの? ありがとう」
と、陽子に言われて、一太はなんとなくくすぐったい気持ちになる。
朝食の続きを、晃も加わって食べていたら光里も起きてきて、わいわいととても賑やかな朝食の席になった。お腹いっぱいになった。
よし、お皿を洗おうか、と腕まくりをすれば、後で食洗機にセットするから置いておいていいよーと言われ、洗濯物、と洗面所を覗いた時にはもう、洗濯物は乾燥機に放り込まれていた。
「あの、陽子さん?」
「はいはーい」
そう言った陽子はもう、お風呂を洗っている。早い。
「食洗機、やります!」
「ありがとう、いっちゃん。じゃあそれは甘えるわ」
そうして、手早い陽子は、八時半にはあらかたの家事を終えて、いってくるねと玄関に向かった。光里も同じ時間だった。
「いってらっしゃい」
玄関で、一太が晃と共に見送りをすれば、陽子は嬉しそうに、いってきますと笑った。
「お見送りしてもらえるなんて嬉しい。家事は適当に置いておいていいからね。たまにはゆっくりしてて」
「あ、でも、俺、夜ご飯作ります。今日、晃くんの誕生日だから、いつもの」
「ああー。じゃ、いっちゃんがしんどくなければお願いしようかな。しんどくなければ、よ? 材料費は晃が立て替えておいてね。おやつにケーキ買ってきて食べなさい。誕生日だから」
「あ、私、夜ご飯いらない。クリスマスだからデート」
「え? 今、あんた彼氏いたの?」
「内緒ー」
「もう。今日はそればっかり」
「は? なに?」
「なんでもない。いってらっしゃい。いってきます」
「いってらっしゃい」
最後まで、わいわいと話しながら二人も出かけて行った。陽子は、何度も振り返って手を振ってくれた。
お見送りっていいな、と一太は思った。見送るのも見送られるのも、なんだか好きだ。
「今日は、何して遊ぼうか」
そう言って笑う晃と二人の留守番も、とても好きだ。
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