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326 渡された朝食
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「おはようございます」
「おはよう。今日も早いわね」
「おはよう。一太は偉いな」
「いえ。遅くなってすみません」
早くないのだ。申し訳ないな、と一太は思う。一太は、六時半に起きてくるつもりだったのだ。お誕生日おめでとう、と言いたくて起こした晃に捕まって、ぎゅうと抱きしめられキスをしていたら、だいぶ時間が過ぎてしまった。晃くんは誕生日だしやりたいことをさせてあげよう、俺も気持ち良いし、と一太もうっとりしたのが運の尽きだ。そのまま晃に布団に引き込まれそうになって、これはいけないと振り切って起きてきたのが今だ。たっぷり十五分は過ぎていた。何とか手早く着替えも済ませて降りてきたが、すっかり遅くなってしまった。
「あの。俺もう元気です。何でもするので言ってください」
「うーん。じゃあ顔を洗ってきて」
「え? あ、はい」
陽子はすでに、台所で目玉焼きを焼いたりパンを焼いたり紅茶を作ったりしている。野菜スープも鍋にある。
今日もすっかり出遅れてしまった、と申し訳なさに身をすくめながら一太は洗面所へ向かった。洗面所ではもちろん、洗濯機が回っている。顔を洗いながら、この後にできることはなんだろう、と一太は考えた。寒い季節には特に苦手だけれど、お風呂洗いと食事の後の皿洗いを引き受けよう。それに掃除機。洗濯物は乾燥機に放り込むのかお風呂場に吊るして乾燥させるのか聞いて、それから……。
そんなことを考えながらキッチンへ戻ると、はいこれ、と陽子にお盆を渡された。
「え?」
「いっちゃんの朝食。座って食べてて。机の上に、パンに付けるバターとジャムとアーモンドクリームが置いてあるから、好きなの付けてね」
「へ? え?」
「あ。パンは、足りなかったらまた焼くから。何枚でもおかわりして」
「…………」
一太が呆然とお盆を持って立っていると、陽子も同じメニューを乗せたお盆を持つ。陽子の分らしい。どちらにも、ミルクティーが乗っていた。
「ほら。冷める前に行こ」
手伝うどころか、朝食を準備されてしまった。顔を洗っている間に。元気になったのに。
「あの。俺もう元気になったんですけど」
「うん。良かった。でも油断禁物よ。ああいうのは、治ったと思ってすぐに普段通りに動いたりしたら、ぶり返すからねえ。寒いなって感じるようなところには行かず、暖かくしてるのよ。あ、いっちゃん、パンには何付ける? 私は最近アーモンドクリームが好きでお勧め」
「最初からアーモンドクリームやジャムは付けない方がいいぞ、一太。甘いのは、スープや目玉焼きに合わない。それらを食べてから最後に少しだけなら美味しいと思うが」
コーヒーを飲み干して、誠が言う。読んでいた新聞を畳んで机に置くと、立ち上がった。食事が済んで出勤準備のようだ。
「全然そんな事ないよ。合うって」
陽子は、アーモンドクリームをパンにたっぷり付けながら反論する。
「いや。おかずと一緒に食べるならバターが一番だよ」
「あ、あの……」
家事について陽子と話をする間もなく、美味しい朝食を温かいうちに堪能することになった。少しずつ味見したが、バターも甘いのも全部美味しくて選べず、困ってしまう。
「いっちゃん。手伝いは嬉しいけど、まだ病み上がりだから無理はしないで」
ふと告げられた陽子の真剣な顔のお願いに、一太は、はいと返事をしてしまった。
「おはよう。今日も早いわね」
「おはよう。一太は偉いな」
「いえ。遅くなってすみません」
早くないのだ。申し訳ないな、と一太は思う。一太は、六時半に起きてくるつもりだったのだ。お誕生日おめでとう、と言いたくて起こした晃に捕まって、ぎゅうと抱きしめられキスをしていたら、だいぶ時間が過ぎてしまった。晃くんは誕生日だしやりたいことをさせてあげよう、俺も気持ち良いし、と一太もうっとりしたのが運の尽きだ。そのまま晃に布団に引き込まれそうになって、これはいけないと振り切って起きてきたのが今だ。たっぷり十五分は過ぎていた。何とか手早く着替えも済ませて降りてきたが、すっかり遅くなってしまった。
「あの。俺もう元気です。何でもするので言ってください」
「うーん。じゃあ顔を洗ってきて」
「え? あ、はい」
陽子はすでに、台所で目玉焼きを焼いたりパンを焼いたり紅茶を作ったりしている。野菜スープも鍋にある。
今日もすっかり出遅れてしまった、と申し訳なさに身をすくめながら一太は洗面所へ向かった。洗面所ではもちろん、洗濯機が回っている。顔を洗いながら、この後にできることはなんだろう、と一太は考えた。寒い季節には特に苦手だけれど、お風呂洗いと食事の後の皿洗いを引き受けよう。それに掃除機。洗濯物は乾燥機に放り込むのかお風呂場に吊るして乾燥させるのか聞いて、それから……。
そんなことを考えながらキッチンへ戻ると、はいこれ、と陽子にお盆を渡された。
「え?」
「いっちゃんの朝食。座って食べてて。机の上に、パンに付けるバターとジャムとアーモンドクリームが置いてあるから、好きなの付けてね」
「へ? え?」
「あ。パンは、足りなかったらまた焼くから。何枚でもおかわりして」
「…………」
一太が呆然とお盆を持って立っていると、陽子も同じメニューを乗せたお盆を持つ。陽子の分らしい。どちらにも、ミルクティーが乗っていた。
「ほら。冷める前に行こ」
手伝うどころか、朝食を準備されてしまった。顔を洗っている間に。元気になったのに。
「あの。俺もう元気になったんですけど」
「うん。良かった。でも油断禁物よ。ああいうのは、治ったと思ってすぐに普段通りに動いたりしたら、ぶり返すからねえ。寒いなって感じるようなところには行かず、暖かくしてるのよ。あ、いっちゃん、パンには何付ける? 私は最近アーモンドクリームが好きでお勧め」
「最初からアーモンドクリームやジャムは付けない方がいいぞ、一太。甘いのは、スープや目玉焼きに合わない。それらを食べてから最後に少しだけなら美味しいと思うが」
コーヒーを飲み干して、誠が言う。読んでいた新聞を畳んで机に置くと、立ち上がった。食事が済んで出勤準備のようだ。
「全然そんな事ないよ。合うって」
陽子は、アーモンドクリームをパンにたっぷり付けながら反論する。
「いや。おかずと一緒に食べるならバターが一番だよ」
「あ、あの……」
家事について陽子と話をする間もなく、美味しい朝食を温かいうちに堪能することになった。少しずつ味見したが、バターも甘いのも全部美味しくて選べず、困ってしまう。
「いっちゃん。手伝いは嬉しいけど、まだ病み上がりだから無理はしないで」
ふと告げられた陽子の真剣な顔のお願いに、一太は、はいと返事をしてしまった。
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