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323 ◇何の予定もない一日
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何もしないでいることに耐えられない一太のことは分かっているから、食事の準備はお任せした。一太と共に暮らし始めてからは、晃もちょくちょく手伝ってはいるのだが、どうにも料理の腕は上達しない。人には得手不得手というものがあるのだろう、と晃は少々諦めの境地にいる。父も料理は苦手としていたから、きっと父に似たのだろう。
昔、一度だけ父に作ってもらった炒飯は、何をどれだけ入れたのか、とんでもなくしょっぱかった。光里と二人で、しょっぱいしょっぱいと騒いで、出来上がった炒飯に白米を混ぜて何とか食べた。母と明里はいなくて、三人だった。晃が心臓の手術を終えて、何でも食べられるようになった直後だったような気がする。その頃の晃は、様々な制限が少しずつ解除されて食べていいものが増え、濃い味のものが美味しくて堪らなかった頃だった。ほどほどにしなさいよ、と取り上げられるくらい、濃い味のお菓子やハンバーガー屋のハンバーガーやポテトに虜になっていた頃に、そのままでは食べられないくらいしょっぱかったのだから、相当な味付けだ。それ以来、父が何か料理しているのを見たことはない。
晃の一人調理は、以前、一太が体調を崩した時に雑炊の素を使って作った雑炊だ。箱に書いてある通りに作ったはずが、自分の覚えている雑炊とかけ離れた品ができてしまった。なんというか、最後に入れた卵が、ぼろぼろと固まってダマのようになっていたのだ。
一太は、美味しいよと笑って食べてくれたが、味見した晃がどうにも納得いかなかった。母に聞いたら、卵を入れてすぐにぐるぐると混ぜたのがいけなかったらしい。鍋に流した卵がふわりと浮いてくるのを、じっと待たなければいけなかったようだ。それについては、覚えた。覚えたけれど、あの簡単な雑炊でこれでは、どうにも上手くできる気がしない。
父と同じで、自分が料理を準備しなければいけなくなった時には、何か買いに出るか届けてもらうことになりそうだ。
「フレンチトースト作っていいかな」
「食べたい!」
「私もー」
重なった声に晃が、は? と振り向けば、起きたばかりの光里が欠伸をしながら手を挙げていた。
「あ、はい。じゃ三つ」
「んー。私、二枚食べようかなあ。晃もでしょ?」
「あ、うん。ええっと……」
「はい。じゃ五つ作りますね」
「ありがとー」
「じゃないだろ、光里姉ちゃん。自分の分は自分で作れよ」
「え? いいよ。何枚でも手間は一緒だし。晃くん、光里さん、座って待ってて」
「ありがとー」
光里は、気にした風もなく洗面所に行ってしまう。
「ごめん、いっちゃん。光里姉ちゃんが今日休みなの忘れてた。いつもああやって、すぐに何か用事を頼んでくるんだ」
「え? いいよ?」
「こき使われるんだよ」
「え? ご飯くらい作るよ」
一太にいい笑顔で言われると、何が駄目だったか晃には分からなくなってくる。こうして人のご飯を作ることで一太が自分もしっかりご飯を食べるのなら、それでいい気もしてきた。
そうして、朝ご飯を食べて、昨日、明里夫婦と四人でしたボードゲームを今日は光里と三人でやった。カードゲームも出してきてやり、昼ご飯も当然のように一太が作ってくれた豚肉の丼を三人で食べてまた遊んで、一日が過ぎた。一太は、すっかり熱は下がったようで、食欲も戻り、きちんと一人前食べていた。
一太と二人で洗濯物を畳んでおいたら、母に大げさに感謝された。当たり前の事をしただけなのに、と母に頭を撫でられた一太はひどく驚いていた。同じように頭を撫でられた晃は、こんな簡単なことで、母はこんなに喜んでくれるのか、と驚いた。
そんな一日だった。
昔、一度だけ父に作ってもらった炒飯は、何をどれだけ入れたのか、とんでもなくしょっぱかった。光里と二人で、しょっぱいしょっぱいと騒いで、出来上がった炒飯に白米を混ぜて何とか食べた。母と明里はいなくて、三人だった。晃が心臓の手術を終えて、何でも食べられるようになった直後だったような気がする。その頃の晃は、様々な制限が少しずつ解除されて食べていいものが増え、濃い味のものが美味しくて堪らなかった頃だった。ほどほどにしなさいよ、と取り上げられるくらい、濃い味のお菓子やハンバーガー屋のハンバーガーやポテトに虜になっていた頃に、そのままでは食べられないくらいしょっぱかったのだから、相当な味付けだ。それ以来、父が何か料理しているのを見たことはない。
晃の一人調理は、以前、一太が体調を崩した時に雑炊の素を使って作った雑炊だ。箱に書いてある通りに作ったはずが、自分の覚えている雑炊とかけ離れた品ができてしまった。なんというか、最後に入れた卵が、ぼろぼろと固まってダマのようになっていたのだ。
一太は、美味しいよと笑って食べてくれたが、味見した晃がどうにも納得いかなかった。母に聞いたら、卵を入れてすぐにぐるぐると混ぜたのがいけなかったらしい。鍋に流した卵がふわりと浮いてくるのを、じっと待たなければいけなかったようだ。それについては、覚えた。覚えたけれど、あの簡単な雑炊でこれでは、どうにも上手くできる気がしない。
父と同じで、自分が料理を準備しなければいけなくなった時には、何か買いに出るか届けてもらうことになりそうだ。
「フレンチトースト作っていいかな」
「食べたい!」
「私もー」
重なった声に晃が、は? と振り向けば、起きたばかりの光里が欠伸をしながら手を挙げていた。
「あ、はい。じゃ三つ」
「んー。私、二枚食べようかなあ。晃もでしょ?」
「あ、うん。ええっと……」
「はい。じゃ五つ作りますね」
「ありがとー」
「じゃないだろ、光里姉ちゃん。自分の分は自分で作れよ」
「え? いいよ。何枚でも手間は一緒だし。晃くん、光里さん、座って待ってて」
「ありがとー」
光里は、気にした風もなく洗面所に行ってしまう。
「ごめん、いっちゃん。光里姉ちゃんが今日休みなの忘れてた。いつもああやって、すぐに何か用事を頼んでくるんだ」
「え? いいよ?」
「こき使われるんだよ」
「え? ご飯くらい作るよ」
一太にいい笑顔で言われると、何が駄目だったか晃には分からなくなってくる。こうして人のご飯を作ることで一太が自分もしっかりご飯を食べるのなら、それでいい気もしてきた。
そうして、朝ご飯を食べて、昨日、明里夫婦と四人でしたボードゲームを今日は光里と三人でやった。カードゲームも出してきてやり、昼ご飯も当然のように一太が作ってくれた豚肉の丼を三人で食べてまた遊んで、一日が過ぎた。一太は、すっかり熱は下がったようで、食欲も戻り、きちんと一人前食べていた。
一太と二人で洗濯物を畳んでおいたら、母に大げさに感謝された。当たり前の事をしただけなのに、と母に頭を撫でられた一太はひどく驚いていた。同じように頭を撫でられた晃は、こんな簡単なことで、母はこんなに喜んでくれるのか、と驚いた。
そんな一日だった。
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