上 下
314 / 398

314 離れたくない

しおりを挟む
「あれ?」

 起きたら、また汗だくだ。
 起きたら……?
 一太は、寝てしまったことにも気付いていなかった。
 がばっと起き上がると、頭がくらりとする。

「あ。いっちゃん、起き」

 すぐ近くで晃の声がした。頭を押さえて動きを止めた一太は、その頭を晃に抱え込まれてびっくりとした。

「もう。なんでいっつも、そうやって焦って起きるの?」
「だって……」

 寝てしまうと、時間が足りなくなる。寝てしまうと、やらなくてはいけないことができなくなる。寝ている自分は、色んなことをさぼっているようで罪悪感がある。……本当に小さい頃は、空腹を誤魔化すために寝たりもしたけれど、寝たからといって何にも解決はしなかった。やらなければいけないことが、増えただけだった。

「また汗かいた? 着替えようか。着替え、持ってくるよ」

 一太の頭を抱えた晃が、一太の汗で濡れた頭をぽんぽんと優しく撫でて、離れようとする。一太は、咄嗟にその晃の服を掴んでいた。

「ん?」

 掴まれた晃が動きを止めて、一太はやっと自分のした事に気付く。

「どうかした?」
「あ、ううん。なんでも無い」
「そう?」
 
 うん、と頷いたのに、手が晃の服を離さない。いや、離さないのは自分なのだから、自分が手を開けばいいだけなのだが、どうしても離したくないのだ。くっついていたい。こうして、このまま。
 だが、そんなことをしていては、晃も一太も動けない。動けなければ、何もできない。何も。そう、仕事が進まないとそこまで考えて、ようやく一太は手を開いた。非常に、非常に名残惜しいが、仕事が進まないのは駄目だ。仕事をしないと、人は生きていけない。

「体がつらくないなら、一緒に着替えを取りに行く?」
「うん」

 一太は、勢いよく頷いてしまってまた、首を傾げた。自分でなかなか歯止めが効かないくらい、なんというか、その。
 晃は、そんな風に悩む一太に気付いていないようだ。一人でいるのが嫌なんだな、とでも思っているのかもしれない。まあ、そういう事なんだが。
 晃は、閉めていたカーテンを開けて部屋を明るくすると、一太が寝ていた布団のシーツや枕カバーをまとめた。

「あ、ごめん」
「え? なにが?」
「また洗い物を増やしてしまって」
「洗濯機が洗ってくれるんだから気にしなくていいよ、って母さんは言うだろうね」
「…………」

 確かに、陽子はそう言うだろう。けれど、水道代も電気代も、こうしてシーツをはがしたりつけ直したりする手間もかかる。それを誰かにさせてしまっていることが、一太には申し訳なく、また慣れなかった。
 
「ほら、行こう」
「ん」

 立ち上がった晃の服の裾を掴む。くす、と晃が笑った気配がした。
 恥ずかしい。小さな子どもみたいだ。恥ずかしい。
 けれど、一太はその手を離せなかった。晃と、離れたくなかった。

しおりを挟む
感想 657

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...