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299 ◇二人で決めた

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 熱くて目が覚めた。
 冬なのに? と、晃は半分寝ぼけたまま熱い原因から手を離しかけ、はっと気付く。熱い?
 腕に抱え込んで寝たのは……。
 晃は、飛び起きた。こんなに素早い寝起きだったことは、今まで一度もないというくらいの早さで目が覚めた。

「いっちゃん?」

 寝ている一太から、荒い息が聞こえる。隣で寝ていた晃が布団をめくっても、一太は起きなかった。いつも物音に敏感で、先に寝ている部屋に晃がそっと入っても気付かれて起こしてしまうことが多いのに。
 けれど昨日は、

「いっちゃん。ベッドで一緒に寝る? 狭いけど」

 という晃の冗談めかした台詞に、一太は、うんと頷いたのだ。小さな子どもみたいに、こっくりと頷いた。笑いもせず、驚きもせず、ただ頷いた。
 晃は、寝相の悪い方ではない。一太は、いつも晃より先に起きているから、はっきりとは分からないが、体調を崩して寝ていた時、心配になるほど動いていなかった気がする。だから、一人用のベッドで二人で寝ても、落ちたり布団をはだけてしまったりすることは無いだろう、と考えて、晃は喜んでベッドに並んで寝転んだのだった。
 寒がりの一太は、冬は布団に潜り込むらしい。少しずつ体を縮めて潜り込んでくる一太を、晃は、いつの間にか抱きかかえる形になっていた。
 その一太が、足先や指先が何となく冷えているな、と思いつつ抱え込んだ一太が……熱い。
 暗い中、晃は、携帯電話の明かりで一太の顔の位置を確認する。一太が、目を覚まさないようにと、携帯電話の明かりを消してから一太の額に手を当てると、ものすごく熱かった。
 晃は、悩んだ末に布団を一太の体にかけ直し、慌てて階段を下りる。真っ暗な居間や台所に下りて電気を付け……。そして、何をしたらいいのか分からずに立ち尽くした。
 熱。熱を出したら。
 自分は、何をしてもらっていただろうか。
 熱が上がりきる前は、寒い。寒いから、体を温めようとする。もしかして一太が、晃の布団の中に、きゅっと体を丸めてきていたのは、熱が上がる前の悪寒を感じていたからだったのだろうか。
 全然気付かなかった……。
 一太は、しんどいとか辛いとか、そういうことをなかなか教えてはくれないから、なるべく気付いてあげなければいけないのに。
 今はどうだった? 今の一太は、布団をめくってもその布団を追いかけはしなかった。もう寒くはないのかもしれない。
 熱そうにしていた。息も荒かった。熱は上がりきったのだ。そういう時は、どうしてもらうと気分が良くなったんだったか。晃は、一生懸命考えた。
 冷やした方が良かった? 確か、母のかけ直す布団が熱くて、いらいらと蹴り飛ばしていた気がする。ひんやりと冷たいシートを、おでこに貼ってもらうと気持ち良かったんではなかったか?
 シートを探して、ごそごそと薬箱をあさりながら、晃はふと思う。
 自分は、今までにしてもらった親の看病を思い出して対処できるが、一太にはきっとこういう思い出は無いんだろう、と。
 目の当たりにした、一太によく似た女の、一太を拒絶する声が思い出されて、晃は首を横に振った。
 ひどく腹が立った。  
 どうして、一太が傷付く方法をわざわざ選んで、拒絶するのだろう。呼んでおいて、来たことを嘲笑うかのように。
 腹が立つ。大事な人が傷付けられて、ひどく腹が立っている。
 でも、もう、流石にあの担当者や看護士は、それでも家族なんだから面倒を見にこいと、一太には言わないだろう。一太を捨てたのは、拒絶したのは、あの女だ。
 晃は思う。
 あんたが要らないんなら、僕がもらう。いっちゃんは、僕のだ。僕の大切な人だ。ずっと一緒にいると、二人で決めたんだ。
 返せと言われても、絶対に返さない。
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