【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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285 酒飲みの歌のように

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 十一月、安倍の誕生日会もとても楽しかった。一太と岸田の二人で作ったチーズケーキに、ろうそくを二十本立ててひと息で吹き消すチャレンジは、大成功した。

「来年も成功させてやるから見てろよ」
「え? 来年もここで誕生日会するの?」
「するだろ」
「いいけど。来るの?」
「おう」

 安倍は当たり前のように笑って、チーズケーキを切らずに食べた。丸い大きなケーキに、皆でフォークを直に突き刺して食べるのは、ちょっと良くないことをしているみたいでドキドキした。いつもより美味しいような気がした。
 あっという間に十二月になった。四人とも、就職先が内定しており、卒業に必要な単位や論文は着々と準備できている。日々は淡々と過ぎていった。もうすぐ、安倍くんと岸田さんに簡単には会えなくなるんだなあ、と思うと一太は寂しかった。
 色んなことを一緒にした。勉強も遊びも買い物も。一太には、晃が一番大切だけれど、安倍と岸田のこともものすごく大切で、ずっとこんな風に一緒にいたかったなあ、と思ってしまう。人生で初めてできた友だちだ。
 いつも、次の約束は当然してあって、約束がなくても、ひょいと美味しいものを食べに行こう、とか買い物に行こう、という予定が入ったりする。この先も、十二月には晃の誕生日会、一月には、皆でお酒を飲もうという約束がある。全員が二十歳はたちを超えた記念。誰がどのくらい飲めるのか全く分からないので、おうちで試してみることになった。おうちなら、うっかり酔い潰れてもそのまま寝ることができるので安心だ。
 一太は、お酒を飲んでいる大人にいい思い出がないので、積極的に飲みたいとは思えない。けれど、誰が酒に強いか弱いか、どんな種類のお酒を味見しようか、と楽しそうに話す三人を見ていると、この人たちとなら飲んでみてもいいなあ、と思えた。
 二月には、卒業旅行をするらしい。とにかくどこかへ行こう、と安倍が張り切っていて、一太も楽しみで仕方ない。行ってみたい所あるか、と聞かれて、その言葉にもわくわくした。動物園とか、水族館とか、何かの工場、なんてものが思い浮かんだけれど、子どもの時に行けなかった遠足の場所に行きたい、というのは子どもっぽいかもしれない、と思って、まだ安倍には伝えられてはいない。
 三月は、卒業パーティ。この家で集まって、卒業を祝うのだそうだ。一月に飲んでみたお酒が美味しかったら、またお酒ありでご馳走を食べる。
 なんて楽しい学生生活。
 一太は、思う。
 大学へ行こうと思った俺へ、俺は一生感謝しよう。

 
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