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279 誰かと共にいるということ
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「岸田さんと安倍くんと一緒に出かけてきていい?」
二人が、安倍の指輪を買いに行くらしい。
インターネットで指輪のことを色々調べたが、値段に幅がありすぎ、材質や形などが豊富すぎて訳が分からなくなっていた一太は、渡りに船と同行を願い出た。
本物を見てみたい。
二人からは、いいよ、と了承をもらっている。そんなに上等じゃない、と安倍が言っていたし、インターネットで調べた時に出てきた、目が飛び出るような値段の品が置いてある店ではないだろう。
一太は、わくわくしていた。何かを買おうと思ってこんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。何か買わなければならない時は、いつも怯えていた。晃と一緒に暮らし始めて、生活に少し余裕ができてからも、無駄な買い物じゃないか、これを今買って、この先の生活は大丈夫か、という不安がどこか付き纏う。美容院で髪を切ってもらう時も、自分で切ればお金がかからないんだけどな、と思ってしまったりする。格好良い、と晃に言ってもらえるのが嬉しくて、みっともなくならないように通っているが、そういった出費にも、これは使ってよかったのかな、という不安は抜けない。
だというのに、晃に渡したい、と強く思った指輪のことを考えると、わくわくする。調べるだけで楽しい。買い物って楽しいのかもしれない、と初めて思った。
安倍と岸田も、親元を離れ、アルバイトをして奨学金を借りて、節約しながら生活している。あの二人が上等なものでない、と言うなら、一太にも手が出ないことは無い値段じゃないか、と思うから、店へ行くのが楽しみだった。
「それは、三人で行くってこと?」
「うん、そう」
以前、岸田と二人で出かけるのは駄目だと言われたことがある。ちょうど一年前だ。一年前の、安倍の誕生日の前。安倍の誕生日プレゼントを買いに行くという岸田と一緒に、一太のエプロンも買い足しに行こうとしたら、恋人がいる人が恋人以外の人と二人で出かけるのは、浮気だと誤解されるから駄目だと、晃に教えてもらったのだ。
実際、二人で仲良く話していただけで、浮気? と声をかけられたから、止めてもらって正解だった。
だが、今回は三人。三人なら浮気じゃない。
「一人だけ置いていかれるのは、寂しいんだけど」
「え? あ……」
一太は、晃のその言葉を聞くまで、三人で出かけるということは晃を一人置いていく事なのだ、と気付いていなかった。浮気じゃない、とそればかり。
「ご、ごめん」
もし自分がそれをされたら、と考えて、一太は胸がきゅっと痛くなった。
ああ。自分で動く時、一太はいつも一人だった。側には誰もいなかった。だから、ついうっかりしてしまったのだ。
「あの。晃くんも……」
「一緒に行きたい。駄目かな?」
「も、もちろん」
晃に内緒で調べようと考えていたこともすっかり忘れて、一太は慌てて返事をしていた。
二人が、安倍の指輪を買いに行くらしい。
インターネットで指輪のことを色々調べたが、値段に幅がありすぎ、材質や形などが豊富すぎて訳が分からなくなっていた一太は、渡りに船と同行を願い出た。
本物を見てみたい。
二人からは、いいよ、と了承をもらっている。そんなに上等じゃない、と安倍が言っていたし、インターネットで調べた時に出てきた、目が飛び出るような値段の品が置いてある店ではないだろう。
一太は、わくわくしていた。何かを買おうと思ってこんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。何か買わなければならない時は、いつも怯えていた。晃と一緒に暮らし始めて、生活に少し余裕ができてからも、無駄な買い物じゃないか、これを今買って、この先の生活は大丈夫か、という不安がどこか付き纏う。美容院で髪を切ってもらう時も、自分で切ればお金がかからないんだけどな、と思ってしまったりする。格好良い、と晃に言ってもらえるのが嬉しくて、みっともなくならないように通っているが、そういった出費にも、これは使ってよかったのかな、という不安は抜けない。
だというのに、晃に渡したい、と強く思った指輪のことを考えると、わくわくする。調べるだけで楽しい。買い物って楽しいのかもしれない、と初めて思った。
安倍と岸田も、親元を離れ、アルバイトをして奨学金を借りて、節約しながら生活している。あの二人が上等なものでない、と言うなら、一太にも手が出ないことは無い値段じゃないか、と思うから、店へ行くのが楽しみだった。
「それは、三人で行くってこと?」
「うん、そう」
以前、岸田と二人で出かけるのは駄目だと言われたことがある。ちょうど一年前だ。一年前の、安倍の誕生日の前。安倍の誕生日プレゼントを買いに行くという岸田と一緒に、一太のエプロンも買い足しに行こうとしたら、恋人がいる人が恋人以外の人と二人で出かけるのは、浮気だと誤解されるから駄目だと、晃に教えてもらったのだ。
実際、二人で仲良く話していただけで、浮気? と声をかけられたから、止めてもらって正解だった。
だが、今回は三人。三人なら浮気じゃない。
「一人だけ置いていかれるのは、寂しいんだけど」
「え? あ……」
一太は、晃のその言葉を聞くまで、三人で出かけるということは晃を一人置いていく事なのだ、と気付いていなかった。浮気じゃない、とそればかり。
「ご、ごめん」
もし自分がそれをされたら、と考えて、一太は胸がきゅっと痛くなった。
ああ。自分で動く時、一太はいつも一人だった。側には誰もいなかった。だから、ついうっかりしてしまったのだ。
「あの。晃くんも……」
「一緒に行きたい。駄目かな?」
「も、もちろん」
晃に内緒で調べようと考えていたこともすっかり忘れて、一太は慌てて返事をしていた。
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