【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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275 二回目の夏休み

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 夏休みは、去年と同じだった。去年と同じ夏休みを送れたことが、一太はとても嬉しかった。
 週に一度、託児室の手伝いをして、他の日はせっせとアルバイトをした。引っ越しで減ったお金は、夏休みに頑張ることでまた、ほんの少し余裕を持たせることができた。ほっとした。
 もし、本当に一太の手持ちがすっからかんになったら、誠と陽子が貸してくれると申し出てくれている。たくさん繰り返した、なんで、どうして、という一太の疑問に、根気強く返事をくれた誠と陽子に、一太はついに折れた。いっちゃんはもう、うちの子、と陽子の結論が出て、それをとても嬉しいと一太が思ってしまったから。
 お金を貸してくれる約束は、決して無理をしないという約束でもあった。なんて優しい約束なんだろう。
 頼ろうなんて、一太はこれっぽっちも思っていない。絶対に、自分で頑張ろうと思っている。今までもそうだったし、これからもそれは変わらない。
 けれど何だろう。こう、力が抜けた。頼る気はない。本当に。自分で頑張ることは変わらない。ずっとそうしてきた当たり前のこと。一太は変わらない。なのに何故だろう。安心……。そう安心したのだ。
 これが、保護者というものか。保護者がいるということなのか。
 松島家への帰省は今回もとても楽しくて、一太の誕生日パーティは、もちろん盛大に行われた。一年で何歳も歳をとってしまいそうだ、と一太は嬉しい悲鳴を上げた。陽子はしっとりチョコレートのケーキと、一太がご馳走だと思っているすき焼きを作ってくれた。夏は、ケーキに挟みやすい果物がなかなか無いのが不満だ、と陽子は言った。
 晃の定期検診も、問題なしだった。二人とも、元気になったねえ、ではまた来年、と晃の主治医は言った。

「なんで元気になったのに、また来年、なんだよ。なあ?」

 と、晃が一太に向かって言って、診察室で皆で笑った。
 また来年、俺は晃くんとここに来るのかあ、と一太は思った。一年後の約束が当たり前にあることが、不思議で嬉しかった。

「就職は、どうするか決めたのか?」
「帰ってこないの?」

 夏休み明けには、いよいよ本格的に就職先を決めなくてはならない。一太は、どこでもよかった。晃と一緒にいられさえすれば。
 
「ええっと。俺は、資格が生かせるならどこでも……」

 できれば、少しは道を覚えた今の町で就職できればいいな、と思っている。のぞむに、住んでいる町を知られていることは恐ろしいが、一太は今暮らしている町も住んでいる部屋も気に入っていた。

「僕は、今の部屋が気に入ってるから、あそこから通えるとこに就職しようかな、と思っている。田舎で暮らすより、いっちゃんと二人で暮らしやすいし」

 晃も、これからも一緒にいたいと思ってくれたことが、とても嬉しかった。
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