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273 誕生日ってすごい
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「ケーキ入刀だ」
「言い方!」
「わはは。共同作業じゃなくて残念だな、松島。早織、俺の誕生日ん時、一緒に切ろっか」
「もう。剛くん、何言ってんの!」
「うち、実家が寺だから、結婚式の時ケーキ入刀できねえじゃん。だから、誕生日の時にしとこうかと」
「え、あ、そうか……。ん? いや、なんでやねん」
「夫婦漫才かな?」
友人たちの楽しい会話を聞きながら、一太はケーキに慎重にパン切り包丁を当てる。パンやケーキが断然切りやすいから、と陽子から渡されたパン切り包丁は本当に使いやすくて、サンドイッチを作る時や、切れていないお徳用食パンを買ってきて切る時に、大変重宝していた。安売りしているレトルトのピザを買ってきて家で焼いて食べる時も、ざくざくとよく切れて最高だ。今日の出番はケーキ。
丸い大きなケーキを切るのは、誕生日の人の特権、という松島家のルールが発動されて、一太は真剣な顔でケーキに入刀していた。
かなり均等に切り終えて、ふうと満足して顔を上げると、すぐに安倍の声が飛んでくる。
「すっげえ綺麗に切るじゃん。自分用に大きいサイズのを作っちゃえばいいのに。その為の、誕生日の人が切るルールだろ? うちは廃止されたけど」
「剛くんがおかしな切り方するから、廃止されたんじゃないの?」
「そうとも言う」
「あれ? でもケーキ甘いよ?」
安倍は、甘すぎるものはそんなに好みじゃない。
「うん。そんなにたくさんはいらない」
「でも大きいサイズ作るの?」
「包丁を渡されたら、やらねばなるまい」
「意味分かんない」
「そういうもんなんだよ」
そういうものなのか、と一太は笑ってしまう。安倍の話は、どこまで本当か分からない。でも、聞いてて楽しい。
「いっちゃん、どれにする? 一番に選んでいいよ。誕生日だから」
ケーキを真剣に切る一太の姿を、こちらも真剣に写真に撮っていた晃が、にこにこと言う。選ぶほどのサイズの違いはないが、大きさを見比べるのも楽しいものだ。
「誕生日ってすごいね。なんでも、誕生日の人が一番なの?」
「そうだよ、誕生日だから」
「誕生日は、何でも我儘言っていいんだぞ。食べたいものとか、して欲しいこととか何でも言えよ」
ほわあ、と一太が驚くと、安倍がにやっと笑う。
「松島が、全部叶えてくれるからな」
「いや、剛くんがしてあげるんじゃないの?」
「あ、俺はちょっと、できないこともある」
「ええ? 私の誕生日の時は?」
「できる範囲で頑張るよ」
「僕は何でも叶えてあげるから言ってね、いっちゃん」
晃が、一太に笑顔を向けた。
「おお。言うねえ」
「これがスパダリ?」
スパダリって何だろ、と思いながら一太は満面の笑みを返す。
「俺、もう充分だよ。もう全部叶っちゃってて、幸せすぎて怖いくらいだ」
本当に、こんなに幸せでいいんだろうか。
楽しいな。
「言い方!」
「わはは。共同作業じゃなくて残念だな、松島。早織、俺の誕生日ん時、一緒に切ろっか」
「もう。剛くん、何言ってんの!」
「うち、実家が寺だから、結婚式の時ケーキ入刀できねえじゃん。だから、誕生日の時にしとこうかと」
「え、あ、そうか……。ん? いや、なんでやねん」
「夫婦漫才かな?」
友人たちの楽しい会話を聞きながら、一太はケーキに慎重にパン切り包丁を当てる。パンやケーキが断然切りやすいから、と陽子から渡されたパン切り包丁は本当に使いやすくて、サンドイッチを作る時や、切れていないお徳用食パンを買ってきて切る時に、大変重宝していた。安売りしているレトルトのピザを買ってきて家で焼いて食べる時も、ざくざくとよく切れて最高だ。今日の出番はケーキ。
丸い大きなケーキを切るのは、誕生日の人の特権、という松島家のルールが発動されて、一太は真剣な顔でケーキに入刀していた。
かなり均等に切り終えて、ふうと満足して顔を上げると、すぐに安倍の声が飛んでくる。
「すっげえ綺麗に切るじゃん。自分用に大きいサイズのを作っちゃえばいいのに。その為の、誕生日の人が切るルールだろ? うちは廃止されたけど」
「剛くんがおかしな切り方するから、廃止されたんじゃないの?」
「そうとも言う」
「あれ? でもケーキ甘いよ?」
安倍は、甘すぎるものはそんなに好みじゃない。
「うん。そんなにたくさんはいらない」
「でも大きいサイズ作るの?」
「包丁を渡されたら、やらねばなるまい」
「意味分かんない」
「そういうもんなんだよ」
そういうものなのか、と一太は笑ってしまう。安倍の話は、どこまで本当か分からない。でも、聞いてて楽しい。
「いっちゃん、どれにする? 一番に選んでいいよ。誕生日だから」
ケーキを真剣に切る一太の姿を、こちらも真剣に写真に撮っていた晃が、にこにこと言う。選ぶほどのサイズの違いはないが、大きさを見比べるのも楽しいものだ。
「誕生日ってすごいね。なんでも、誕生日の人が一番なの?」
「そうだよ、誕生日だから」
「誕生日は、何でも我儘言っていいんだぞ。食べたいものとか、して欲しいこととか何でも言えよ」
ほわあ、と一太が驚くと、安倍がにやっと笑う。
「松島が、全部叶えてくれるからな」
「いや、剛くんがしてあげるんじゃないの?」
「あ、俺はちょっと、できないこともある」
「ええ? 私の誕生日の時は?」
「できる範囲で頑張るよ」
「僕は何でも叶えてあげるから言ってね、いっちゃん」
晃が、一太に笑顔を向けた。
「おお。言うねえ」
「これがスパダリ?」
スパダリって何だろ、と思いながら一太は満面の笑みを返す。
「俺、もう充分だよ。もう全部叶っちゃってて、幸せすぎて怖いくらいだ」
本当に、こんなに幸せでいいんだろうか。
楽しいな。
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