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270 間違いなく人生最高の一日
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「おはよう」
「おはようー、村瀬くん。誕生日おめでとう」
「あ、ありがと。メッセージも、ありがとう」
朝。大学はいつも通り。仲良し四人で固まって座る。岸田と安倍と一太と晃。遠巻きに見ている人たちは、気にしない事にした。こちらは何とも思っていないんだから、気にしなければいい、とは岸田の弁だ。
「ふふん。私、早かったでしょ? 一番だった?」
「あ、ううん。一番は晃くんで、岸田さんは二番目だった」
「えええー。ええー。日付変わってすぐに送ったつもりだったのに」
「あ、あ、うん?」
「あ、危ない……。カウントダウンしてて良かったよ」
「カ、カウントダウン?」
そんなに? と一太が驚いているのに、岸田はとても悔しがっている。
「次は私も、しっかりカウントダウンしよう」
「いや、早織、何でそんなにガチなんだよ? 別に、彼氏が一番でいいじゃん。むしろ、譲ってやれよ」
「あは。なんか、負けたのが悔しくて、つい」
「ったく、もう。あ、村瀬、誕生日おめでとうな」
「あ、ありがとう。あの、俺、もう寝ててごめん」
「いいの、いいの。あんなのは送る方の自己満足なんだから」
「うん。でも、ら、来年は起きて待ってようかな。その、初めてあんなメッセージとかもらって、こんな風に口でも言ってもらって、俺、すごい、すごい嬉しくって。誕生日って、こんな嬉しいって知らなくってさ……。もう、もうさ。たくさん言ってもらってさ。いっぺんにたくさん歳とった気分」
にこっと一太が笑うと、安倍は、ん? と首を傾げた。
「初めて? え? 何が? メッセージ? あ、大学入るまで携帯電話持ってなかった感じ?」
「あ、ええっと。持ってたけど、隠してて。あ、その、友達とかいなかったし、メッセージのやり取りとかしたことなかったし。あ、ええっと。誕生日をお祝いとか、してもらうのが初めて……あ、いや」
安倍の顔が複雑な表情になっていくのをみて、慌てて一太は口を噤んだ。しまった。油断した。この面子でいると、ついうっかりしてしまう。たぶん、かなり普通でないことを言ったのだ。
「じゃ、じゃあ、やっぱり早織はカウントダウンしなくて正解だったんだ」
安倍は、口ごもった一太に気付いて、あっという顔をしてから笑顔を作った。すぐに明るい声を張り上げる。一太が申し訳ない気持ちで俯きそうになると、その目の前に、可愛い包装紙に包まれた何かが差し出された。
「生まれて初めてのメッセージは、松島からもらって正解だろ? な?」
と、言っている安倍の横から、岸田の手が一太の方へ伸びている。
「プレゼントは、一番のりだったりして?」
「お、ま、え、はあ! 俺のフォローを何だと思ってんの」
「え? プレゼント?」
「うん。誕生日プレゼント。どうぞ」
「え、えええ。な、なんで?」
「なんでって。友達だから」
「え。友達にはあげるの? 誕生日プレゼント? え。どうしよう。俺、誰にもあげたことない」
「去年、僕にケーキとご馳走作って、歌ってくれたじゃん」
晃が、ふふんと嬉しそうに言う。
「でも。でもそれだけ……。あ、エプロン。去年、晃くんにエプロンもらったのに」
「あー、つまり。初めての誕生日プレゼントはもう、去年受け取ってるってことだな。早織、残念だったなー」
何故か安倍は、わははと楽しそうに笑っている。
「む。いいのよ。今年の一番は私。それとも、朝、松島くんにもらっちゃった?」
「え? ええっと、今日の朝は……」
二十一歳最初のちゅーとハグをもらいました、という言葉はさすがに飲み込んだ。
「今日渡すか、明日の誕生日パーティの時に渡すか悩んで、まだ渡してない」
晃が憮然と言って、岸田はにっこり満面の笑みを見せた。
「明日は、ケーキ買っていくね。新居も楽しみ」
「うん。あの、ありがとう」
受け取ったプレゼントは、促されて早速開ける。一太の大好きな絵本のキャラクターであるあおむしの絵がカラフルに描いてあるペンケースだった。
「わ。可愛い」
「いいでしょー」
「うん!」
一太の好きなキャラクターを覚えてくれていたことも、百円で買って使っていたペンケースの限界が近いことに気付いてくれていたことも嬉しい。一太のことを考えて買ってくれた贈り物。
「じゃ、俺のも」
同じ包装紙の袋が、安倍からも差し出された。同じくあおむしのシャーペンや赤青黒の三色ボールペン、定規が入っていた。
「ありがとう!」
絶対、二人にお返ししよう。友達には、誕生日プレゼントを渡すもの。なら、一太から二人へも渡したい。
今日も、たくさんのことを知ることができた。それだけで一太は嬉しかった。
誕生日という最高の一日は、まだまだ終わらないらしい。
「おはようー、村瀬くん。誕生日おめでとう」
「あ、ありがと。メッセージも、ありがとう」
朝。大学はいつも通り。仲良し四人で固まって座る。岸田と安倍と一太と晃。遠巻きに見ている人たちは、気にしない事にした。こちらは何とも思っていないんだから、気にしなければいい、とは岸田の弁だ。
「ふふん。私、早かったでしょ? 一番だった?」
「あ、ううん。一番は晃くんで、岸田さんは二番目だった」
「えええー。ええー。日付変わってすぐに送ったつもりだったのに」
「あ、あ、うん?」
「あ、危ない……。カウントダウンしてて良かったよ」
「カ、カウントダウン?」
そんなに? と一太が驚いているのに、岸田はとても悔しがっている。
「次は私も、しっかりカウントダウンしよう」
「いや、早織、何でそんなにガチなんだよ? 別に、彼氏が一番でいいじゃん。むしろ、譲ってやれよ」
「あは。なんか、負けたのが悔しくて、つい」
「ったく、もう。あ、村瀬、誕生日おめでとうな」
「あ、ありがとう。あの、俺、もう寝ててごめん」
「いいの、いいの。あんなのは送る方の自己満足なんだから」
「うん。でも、ら、来年は起きて待ってようかな。その、初めてあんなメッセージとかもらって、こんな風に口でも言ってもらって、俺、すごい、すごい嬉しくって。誕生日って、こんな嬉しいって知らなくってさ……。もう、もうさ。たくさん言ってもらってさ。いっぺんにたくさん歳とった気分」
にこっと一太が笑うと、安倍は、ん? と首を傾げた。
「初めて? え? 何が? メッセージ? あ、大学入るまで携帯電話持ってなかった感じ?」
「あ、ええっと。持ってたけど、隠してて。あ、その、友達とかいなかったし、メッセージのやり取りとかしたことなかったし。あ、ええっと。誕生日をお祝いとか、してもらうのが初めて……あ、いや」
安倍の顔が複雑な表情になっていくのをみて、慌てて一太は口を噤んだ。しまった。油断した。この面子でいると、ついうっかりしてしまう。たぶん、かなり普通でないことを言ったのだ。
「じゃ、じゃあ、やっぱり早織はカウントダウンしなくて正解だったんだ」
安倍は、口ごもった一太に気付いて、あっという顔をしてから笑顔を作った。すぐに明るい声を張り上げる。一太が申し訳ない気持ちで俯きそうになると、その目の前に、可愛い包装紙に包まれた何かが差し出された。
「生まれて初めてのメッセージは、松島からもらって正解だろ? な?」
と、言っている安倍の横から、岸田の手が一太の方へ伸びている。
「プレゼントは、一番のりだったりして?」
「お、ま、え、はあ! 俺のフォローを何だと思ってんの」
「え? プレゼント?」
「うん。誕生日プレゼント。どうぞ」
「え、えええ。な、なんで?」
「なんでって。友達だから」
「え。友達にはあげるの? 誕生日プレゼント? え。どうしよう。俺、誰にもあげたことない」
「去年、僕にケーキとご馳走作って、歌ってくれたじゃん」
晃が、ふふんと嬉しそうに言う。
「でも。でもそれだけ……。あ、エプロン。去年、晃くんにエプロンもらったのに」
「あー、つまり。初めての誕生日プレゼントはもう、去年受け取ってるってことだな。早織、残念だったなー」
何故か安倍は、わははと楽しそうに笑っている。
「む。いいのよ。今年の一番は私。それとも、朝、松島くんにもらっちゃった?」
「え? ええっと、今日の朝は……」
二十一歳最初のちゅーとハグをもらいました、という言葉はさすがに飲み込んだ。
「今日渡すか、明日の誕生日パーティの時に渡すか悩んで、まだ渡してない」
晃が憮然と言って、岸田はにっこり満面の笑みを見せた。
「明日は、ケーキ買っていくね。新居も楽しみ」
「うん。あの、ありがとう」
受け取ったプレゼントは、促されて早速開ける。一太の大好きな絵本のキャラクターであるあおむしの絵がカラフルに描いてあるペンケースだった。
「わ。可愛い」
「いいでしょー」
「うん!」
一太の好きなキャラクターを覚えてくれていたことも、百円で買って使っていたペンケースの限界が近いことに気付いてくれていたことも嬉しい。一太のことを考えて買ってくれた贈り物。
「じゃ、俺のも」
同じ包装紙の袋が、安倍からも差し出された。同じくあおむしのシャーペンや赤青黒の三色ボールペン、定規が入っていた。
「ありがとう!」
絶対、二人にお返ししよう。友達には、誕生日プレゼントを渡すもの。なら、一太から二人へも渡したい。
今日も、たくさんのことを知ることができた。それだけで一太は嬉しかった。
誕生日という最高の一日は、まだまだ終わらないらしい。
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