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266 ◇内見
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「あ、この形……」
内見三つ目のこの部屋は、ここまでの二つより築年数が少し新しく、キッチンがオープンタイプだった。
「陽子さんのとこと一緒だ」
案内の不動産屋、部屋の間取りに興味津々の母、窓から外を覗いて家の周辺の状況を確かめている父の後を、二人でついて歩いていた。今、住んでいる部屋を決めた時もこんな感じだったな、と思いながら、晃は一太の様子を伺う。
一太は、内見は初めての経験らしく、案内される部屋を、へええと口を開けてはきょろきょろと見ていた。
「いっちゃん、どう?」
母に聞かれて、うんうんと悩む様子が可愛い。よく分からないんだろう。よく分からない、という気持ちがよく分かる。晃も、今回もそうだ。今回は、寝室を一つにしたい、という希望だけ通ればそれでいいかな、と思っている。父は、それぞれの部屋があるタイプを勧めてきているから、そこは強く言わねばならない。後は、家事リーダーの一太が使いやすい間取りになっていればいい。今、候補に上がっている部屋は全部、一人暮らし用と違ってキッチンが広いから、コンロ二つの希望は必ず叶いそうだ。
「ひ、広いですね」
一軒目。一太のひねり出した感想はそれだった。確かに広かった。築年数が古く、晃の感覚では昔風の間取りに見える。和室が二つと台所、洗面、トイレ。ベランダは、洗濯物を干せるようにはしてあるが狭かった。
二軒目も似たような感じで、和室一つと洋室一つに台所、洗面、トイレ。洗面とトイレは改築したらしく新しくて、浴室乾燥機が付いていた。
「色々あるんですね」
浴室乾燥機を見ての、一太の二軒目の感想だ。どちらも、陽子に聞かれるまで口は開いていなかった。
そして三軒目。一太は中に入るなりオープンキッチンに食いつき、晃から離れて自分でキッチンへ入っていった。
水場やコンロが壁側でなく、リビングダイニングの方を向いているなんて、こんな賃貸アパートでは珍しい。
一太の言う通り、松島家のキッチンとよく似ていた。皆の様子が見えるし、カウンターに物を置けるし、すごく気に入っている、と母がいつも言っている形だ。
「いいわね。コンロもIHだわ」
「これも、陽子さんちと一緒ですね」
部屋は、リビングダイニングの隣に和室が一つだけ。ベランダは広めで、屋根がしっかりとベランダを覆っている。
これまで内見した二軒より狭いが、今、二人で暮らしている一人暮らし用の部屋のことを思えば、格段に広い。
「父さん。僕、ここがいいな」
「悪くないが、寝室が一つしかないぞ」
それがいいんじゃないか、というのは心の中でだけ言った。
「布団を二つ並べて寝るからいいよ」
「うーん。確かに、周辺も静かでいいが」
一軒家の建つ並びに、ぽつんと建っていて、一階と二階の二軒だけのアパートの二階。
晃の言葉を聞いて、不動産屋が詳しい説明を始めた。一階には、まだ子どものいない共働きの新婚夫婦が住んでいるらしい。大きい通りから一本中に入った通りだから、家の前の道路は基本的に周辺の住人しか通らない。隣の一軒家が大家さんの家。子どもも独立して仕事も定年退職した、老夫婦の二人暮らしだそうだ。
「悪くないな……。一太くんはどうだろう」
慎重な父は、すぐにこれだと決めたりはしない。けれど、先ほどまでの二軒とうってかわって、母と二人、うろうろと自主的に部屋を見て回っている一太の様子を見れば、聞くまでもない気がする、と晃は思う。
「いっちゃん。僕、ここ気に入ったんだけど、いっちゃんはどう?」
内見三つ目のこの部屋は、ここまでの二つより築年数が少し新しく、キッチンがオープンタイプだった。
「陽子さんのとこと一緒だ」
案内の不動産屋、部屋の間取りに興味津々の母、窓から外を覗いて家の周辺の状況を確かめている父の後を、二人でついて歩いていた。今、住んでいる部屋を決めた時もこんな感じだったな、と思いながら、晃は一太の様子を伺う。
一太は、内見は初めての経験らしく、案内される部屋を、へええと口を開けてはきょろきょろと見ていた。
「いっちゃん、どう?」
母に聞かれて、うんうんと悩む様子が可愛い。よく分からないんだろう。よく分からない、という気持ちがよく分かる。晃も、今回もそうだ。今回は、寝室を一つにしたい、という希望だけ通ればそれでいいかな、と思っている。父は、それぞれの部屋があるタイプを勧めてきているから、そこは強く言わねばならない。後は、家事リーダーの一太が使いやすい間取りになっていればいい。今、候補に上がっている部屋は全部、一人暮らし用と違ってキッチンが広いから、コンロ二つの希望は必ず叶いそうだ。
「ひ、広いですね」
一軒目。一太のひねり出した感想はそれだった。確かに広かった。築年数が古く、晃の感覚では昔風の間取りに見える。和室が二つと台所、洗面、トイレ。ベランダは、洗濯物を干せるようにはしてあるが狭かった。
二軒目も似たような感じで、和室一つと洋室一つに台所、洗面、トイレ。洗面とトイレは改築したらしく新しくて、浴室乾燥機が付いていた。
「色々あるんですね」
浴室乾燥機を見ての、一太の二軒目の感想だ。どちらも、陽子に聞かれるまで口は開いていなかった。
そして三軒目。一太は中に入るなりオープンキッチンに食いつき、晃から離れて自分でキッチンへ入っていった。
水場やコンロが壁側でなく、リビングダイニングの方を向いているなんて、こんな賃貸アパートでは珍しい。
一太の言う通り、松島家のキッチンとよく似ていた。皆の様子が見えるし、カウンターに物を置けるし、すごく気に入っている、と母がいつも言っている形だ。
「いいわね。コンロもIHだわ」
「これも、陽子さんちと一緒ですね」
部屋は、リビングダイニングの隣に和室が一つだけ。ベランダは広めで、屋根がしっかりとベランダを覆っている。
これまで内見した二軒より狭いが、今、二人で暮らしている一人暮らし用の部屋のことを思えば、格段に広い。
「父さん。僕、ここがいいな」
「悪くないが、寝室が一つしかないぞ」
それがいいんじゃないか、というのは心の中でだけ言った。
「布団を二つ並べて寝るからいいよ」
「うーん。確かに、周辺も静かでいいが」
一軒家の建つ並びに、ぽつんと建っていて、一階と二階の二軒だけのアパートの二階。
晃の言葉を聞いて、不動産屋が詳しい説明を始めた。一階には、まだ子どものいない共働きの新婚夫婦が住んでいるらしい。大きい通りから一本中に入った通りだから、家の前の道路は基本的に周辺の住人しか通らない。隣の一軒家が大家さんの家。子どもも独立して仕事も定年退職した、老夫婦の二人暮らしだそうだ。
「悪くないな……。一太くんはどうだろう」
慎重な父は、すぐにこれだと決めたりはしない。けれど、先ほどまでの二軒とうってかわって、母と二人、うろうろと自主的に部屋を見て回っている一太の様子を見れば、聞くまでもない気がする、と晃は思う。
「いっちゃん。僕、ここ気に入ったんだけど、いっちゃんはどう?」
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