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262 怪談話を聞いた夜は、皆で一緒に寝るらしい

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「一緒に……って、え、と。え? ど、どこ、で?」

 一太は、びっくりと目を見開く。ちまと一つ、お箸で摘んだポテトが、箸からぽろりと落ちた。

「ロフトに、布団を二つ敷こうよ」
「え? え? し、敷ける、かな……」
「敷ける敷ける。上の荷物、全部下ろして、母さんの布団をいっちゃんの布団の横に敷こう」

 にこにこ笑う晃の笑顔が眩しい。

「でも」

 いいのかな、という言葉は飲み込んだ。ここは晃の部屋なんだから、晃は晃のしたい事をすればいい。いいのかな、と一太が言うのはおかしい。

「もちろん、いっちゃんが嫌ならやめておくけど。ほら、僕も何となく怖いなって思ってさ」
「え、あ。ごめんね……」

 一太の血縁のことで、晃に多大な迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない。一太は、小さな体を更にきゅっと縮めた。

「あ、いや。違うよ? いっちゃんは何にも悪くないよ? そうじゃなくて。うーん。そうだなあ。こんな時はさ、ほら、誰かと寝たくならない?」

 誰かと。
 誰かいれば、そうなのかもしれない。でも、一太は知らない。誰も、いなかったから。
 黙ってしまった一太に、箸を置いた晃が言葉を重ねる。

「怖いテレビを見た日の夜とか、怪談話を聞いた後とか、明里あかり姉ちゃんがさ、枕持って僕と父さん、母さんが寝てる部屋に来るんだよ」
「へえ」

 一太は、を思い浮かべて首を傾げる。ちゃきちゃきとした美人さんで、怪談話が苦手なようには見えなかった。

「で、狭いのに、母さんと僕の布団の隙間に入って来て一緒に寝るんだ。そしたら、もうその時点でだいぶ狭いのに、光里姉ちゃんも、私もって枕持って来てさ」
「ええ?」

 はっきり物を言う美人な光里姉ちゃんを思い浮かべて、一太は驚きの声を上げた。
 そんな甘えたことをするようには見えなかった。

「で、父さんが追い出されて、姉ちゃんたちの布団で寝ることになる」
「あはは」

 追い出されて、枕を持って移動する誠を思い浮かべ、思わず笑ってしまう。

「僕は、怖いテレビ見ても割と平気だから、僕もそこから抜け出して姉ちゃんの布団で寝たかったんだけど、捕まって、狭いーって言いながら一緒に寝るんだよ」
「へえ」

 晃くんを捕まえて寝ることで、明里お姉さんは怖くなくなったのかもしれない。

「だからさ。今日、怪談話を聞いた僕たちは、一緒に寝るべきだと思うんだ」

 晃に真面目な顔で言われると、笑っていいのかどうか一太は迷ってしまった。怪談話……? 確かに怖かったが。

「ええ、と。あの、では、よろしくお願いします」

 とりあえず、真面目な顔で頭を下げた。

「やった! よし、決まり! ご飯食べたら、急いでロフトを片付けようね!」

 やけにはしゃいでいる晃は、昔、家族で寝ていた時のことを思い出しているのかもしれない。きっと、楽しかったんだな。
 そう考えたら、一太もうきうきとしてきた。
 晃の家で同じ部屋で寝た時は、晃はベッドで一太は布団だから、高さが違った。誰かと隣に布団を並べて寝るなんて、物心ついてから初めてだ。
 それは、どんな感じなんだろう。
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