【完結】ぎゅって抱っこして

254 普通の当たり前の恋愛は、読み物として面白くない

　一太は、色々な物語を読んだ。恋愛の物語。人気のもの。図書館で借りるので、人気になってから少し時間が経っているが、それでも今でも借りている人がいるような人気の作品を選んで読んだ。
　悲しい結末が多くて、涙が込み上げてきてしまう。
　せっかく一度は恋人同士になっても、関係をずっと保つのは難しいらしい。例えば、病気が治らずに死に別れた物語。死に別れる前に両思いになれたのは幸せだったのだろうか、と思ったり、自分がもうすぐ死んでしまうと分かっていたら、好きな人を悲しませたくないから、俺なら告白しないなあ、と思ったりする。
　例えば、好き同士なのに離れることを選んだ物語。好き同士なら、何とか一緒にいられるように、もっと二人で考えられなかったのかなあ、と思う。でも、難しかったから離れたんだよなあ。
　どんどんすれ違っていく物語は、普通の恋愛をしているのになんだか違和感満載で、最後まで読んで謎が解けた後で、もう一度読み返してしまった。二回目は、この時相手側はこんなことを思っていたのか、とものすごく切なかった。小説としてとても面白かったが、ちっとも参考にならなかった。
　そう。
　一太は、付き合うということがどういうことか知りたいのだ。だから、今まで読んだことがなく、読む暇もなかった話題の恋愛小説を選んで、読んでみている。面白い。面白いのだが、これらは普通の恋愛、ではないんだろうなあ、というのは分かった。考えてみれば、当たり前ではある。普通の、当たり前のことを書いてある物語は、あまり面白い読み物にはならないかもしれない。
　一応、参考にはなった。
　恋人同士は、抱きしめ合ったり、キスをしたり手を繋ぐのは普通で、ただ座っているだけでもくっついていいのだ、と知った。良かった。晃と堂々とくっつくことができるのは嬉しい。そして、友達と恋人との違いは、キスができるかどうかだそうだ。キスができるなら、恋人。できないけど仲良しの人は友達。晃とはキスできる、いや、したいので恋人なのだ。
　なるほど……。
　それは、すごく分かりやすい説明で、一太の心にすとんと落ちた。
　手の繋ぎ方も、恋人同士と友達では違うらしい。今までは、友達の繋ぎ方だった。晃くんも知らなかったのかもしれないから、自分からやってみよう、と恋人繋ぎをしてみたら、晃はとても喜んで、ずっとにぎにぎしていた。一太は、どっちの繋ぎ方でも手を繋げていたら幸せだが、晃が喜ぶならこちらでいいかな、と思ってしまう。
　ただ、安倍が、一太と晃の恋人繋ぎを見て、うーん、それはどうなの？　いいの？　と言っていたので、もう少し勉強しよう、と思った。そういえば、安倍と岸田はあまり手も繋がない。
　普通の恋愛は、参考書を探すのも難しいようだ。