【完結】ぎゅって抱っこして

253 ◇幸せな日々

　いっちゃんが、積極的だ……！
　晃は内心、嬉しい悲鳴を上げていた。
　ここのところ、一太の方から抱きついてきたり、キスをしてくれたり、そばに居る時はとにかく触れていたい様子で、くっついてきてくれる。嬉しくてたまらない。それらの行動をぎこちなくやり始めて、晃の笑顔に力を抜くという一連の流れも、可愛くてとても好きだ。
　父や母と話し合いをした後から、一太はあきらかに変わった。一太を辛い目に合わせてきた家族との腐れ縁に、打てる手を全て打って安心したんだな、と始めは思っていた。
　けれど、どうやらそればかりではないらしい。心の中だけで嬉しい悲鳴を上げながら、晃はしっかり観察する。
　一太が学校の図書館で借りてくる本が、短編SF小説や実用書では無くなった。
　少し前に話題になって、映画化もしたようなお話の原作小説を、一生懸命読んでいるみたいだ。恋愛がメインテーマのもの。一太が読んでいる本の題名を盗み見て、晃は少し心配になった。
　晃は読んでいないので詳しい内容は知らないが、映画化の時の宣伝で聞いたあらすじではどれも、分かりやすいハッピーエンドではなかったと思う。バッドエンドとは言わないけれど、絵本や童話のように、二人は幸せに暮らしました、では終わらない物語。病気の彼女や彼氏と死に別れたり、一年間の限定の恋だったり、死んだ奥さんが戻ってきてまた一緒に暮らせた、という幸せに見える話も、結局は期間限定でもう一度お別れが待っている。目を潤ませながら読むのはやめてほしい。もう少し、分かりやすくハッピーエンドなお話を選んできてほしい。
　とはいえ、晃はあまりそういった小説に興味が無いので詳しくない。恋愛をえがいた話といえば、姉たちの集めていた少女漫画などを入院中にかなり読んだが、大して面白いとは思えなかった。異能力者が地球を救うために戦ったり、主人公が強くなりたくて修行しているうちに地球を救ったり、スポーツを題材にした青春物語の方が面白いと感じる。……僕の読んでる話では、地球って、かなりピンチになってるな？
　一太は、どうなのだろう。
　恋愛話を面白くて読んでいるのだろうか。急に興味が出て読み始めたのか？
　一太のことだから、勉強のつもりなのかもしれない。勉強……。そう、勉強だ。いっちゃんは恋愛のことも、勉強しちゃうのだ、きっと。
　でも、そうだとしたら、恋愛について知りたい、勉強したいと思ってくれたということだ。
　晃はそんな考えにたどり着いて、にやけてしまいそうになる。だってその相手は自分しかいなくて、一太は晃のために勉強しているということで。
　晃は毎日、幸せでいっぱいだった。