【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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238 安心をくれる人

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「本当はずっと居たいんだけど、今は面会時間じゃないし、一回帰るわね」
「あ、はい。あ、いえ、あの、もう大丈夫……」
「うんうん。大丈夫になって良かった。また後でね、いっちゃん」
「のんびりしなさい」

 にこにこと手を振って、陽子と誠は帰って行った。
 一太は、ぽけっとベッドの上に座る。病気になっても、怒られなかった。誰も、何やってるんだ、とか自己管理ができていないからそんな事になるんだ、とか言わなかった。
 医者も、陽子も誠も。治療が間に合って良かった、と喜んでくれた。晃もだ。
 今回のは本当に、誰もがいつ発症するか分からない病気で、一太がどんなに気をつけていたって防げるものではないんだ、ということだった。
 夏の入院はそうじゃなかった。主な原因だった熱中症とか栄養失調は、自分で気をつけていれば防げた病気だ。しっかりご飯を食べて、夜はよく寝て無理をしない、と夏の入院の時に診てくれた医者と約束した。いや、今もたまに病院で診察を受けて、その度に約束をさせられている。
 もちろん一太だって、入院したらものすごくお金がかかる上に仕事に行けないので、二度と倒れたくなかった。自分で気をつけられる約束は、しっかり守っている。食事をうっかり抜くことも、晃が一緒にいれば有り得ない。
 でも、今回の病気は、そうやって気をつけてどうにかなることでは無かった。それでも、迷惑をかけて申し訳ない、と一太は縮こまってしまう。そういう時に、仕方なかったんだよ、一太の所為じゃないよ、と言ってくれる人が、一太の周りには今までいなかったからだ。逆だ。たとえどうしようもなくても、一太の所為だった。
 生まれたこと、家族が仲良く暮らせなかったこと、最終的にはバラバラになってしまったこと、すべて一太の所為。
 どう気をつければ良かったのか、どうすれば良かったのかも分からない全てのことが、一太の所為だった。
 でも、違うと言ってもらえた。仕方ない、と皆言った。
 一太の肩の力が抜けて、もう一度横になる。ご飯が食べれなければ、本当にやることが無かった。
 陽子さんと誠さんの顔を見て安心して、眠たくなるなんて変なの。なんでかなあ、と思いながら目をつぶる。

 どれだけ寝てしまったのか、目を開けたらまた、にこにこ笑顔の陽子がいて驚くことになった。
 午後二時三十分、仕事終わりの晃が来て入れ替わるまで、一太は陽子と色んな話をした。子どもの頃の話、晃との生活の話。今、どんなに幸せかを、一太は何度も言った気がする。誠は、黙って二人の話を聞いていた。
 
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