【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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233 ◇不安

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 入院する病室へ運ばれる時にようやく姿を見ることのできた一太は、点滴に繋がれてぐったりと目を閉じていた。

「病室では、付き添ってもいいですか?」
「面会時間までなら大丈夫ですよ」

 その言葉に、晃はほっと息を吐く。

「二十時までですか?」
「ああ、ごめんなさい。年末年始は十八時までなのよ」
「そんな!」

 時計を確認すると、すでに十七時を回っていた。今日までバイトが休みで、晃にも一太にも特に予定はなかった。食べ物もたくさん持たされているので、買い出しもいらない。急いで帰らなければならない訳ではないから、早目の昼食を食べてから電車に乗って、二時間かけて帰ってきた。それから、家で片付けをしている時に一太が苦しんでいたのだから、そのくらいの時間にもなろうというものだ。

「え。でも、今、いっちゃ、村瀬くん寝てて、起きた時に誰もいなかったら、その……」
「看護師が巡回するから大丈夫よ」
「いや、でも」
「ごめんなさいね。決まりだから。村瀬さんは食事も、少なくとも三日間は取れないし、食事時間にも起こさなくていいから、寝かせておいてあげて」
「はい……」

 子どもの病棟でも、ある程度の年齢になれば親が付き添えない時間帯があった。本当に小さな赤ん坊以外は、皆家族と離されて病室でその時間を過ごす。ベッドでひとりぼっちの時間を。病院がそんな場所だってことは、晃はよく知っている。
 決して慣れることのない寂しさを知っている。
 晃は、十八時まで、ぐったりと目を閉じている一太のベッドの横にいて、その目が開かないことに後ろ髪を引かれながら病室を出た。病室は、お正月なので一時帰宅を許された患者がいるとのことで、六つのベッドのうち二ヶ所にしか人の気配は無かった。一太が入って三ヶ所目だ。カーテンの引かれた内側は、二ヶ所ともとても静かだった。
 貴重品は心配だから置いていけないけれど、それでも連絡を取りたかった晃は、引っ掴んできた一太の手提げ鞄からスマホだけ取り出した。音が鳴らない設定になっているのを確かめ、ベッド脇の机に置く。メモ用紙に、何時でもいいから不安な時はいつでも連絡してください、と書いた。晃、と署名も。
 いっちゃんはきっと我慢するだろう。それでも、いつでも連絡できる先があるんだと思うだけで、随分、気持ちは違うものだから。
 だから……。
 いつでも連絡を取れるようにと自分のスマホを手に持って家に帰る道すがら、晃は不安で泣きそうになってしまった。
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