228 / 398
228 百円の大吉おみくじは高いか安いか
しおりを挟む
その後は、普通にいつも正月にやっているのだという駅伝を皆でテレビで眺めた。いつも強い学校などがあるらしく、注目の○○大学、少し出遅れております、とか、△△大学、大健闘です、とかアナウンサーが言っていた。誠も陽子も晃も真剣に観るつもりではないらしく、それぞれの手にスマホや本があってテレビはただ、走る人を映している。
一太がぼんやり眺めていると、
「観たい番組があればチャンネル替えたらいいよ」
と、リモコンを渡された。
「え?」
「何となくつけてるだけだから」
「そうそう。何かお正月だなあって感じよね」
「へええ」
そんなことを言われても、テレビなんてよく分からない。小さい頃、弟の観ているテレビ番組にふと足を止めて見入ってしまったことがあった。何をさぼっているんだとひどく怒られた。それから一太は、テレビの内容を、意識して目に入れないようにしていた。
晃と共に暮らし始めてからも、テレビがついているなあ、という程度の認識だった。晃も、そんなにテレビをじっくり観ている印象はない。何となくつけている時も、ニュースやスポーツ中継だったように思う。朝のニュースは、天気や世の中の話題を知ることができてとても助かるので、食事をしながらつい見てしまっていたけれども。
一太がリモコンを持って困っていると、スマホを操作していた晃が無造作にボタンを押した。
途端に画面が切り替わって、混雑している場所の中継場面になった。すごい人出だな、と一太が観ていると、
「あ」
と、陽子が声を上げた。
「私たちも、初詣行っちゃいましょう」
「そうだな。早起きしたし時間あるし」
テレビの中は、有名な神社の初詣の混雑を映したものだった。
なんとお賽銭が、スマホのQRコード決済で払えるようになっております、なんてレポーターが言って、その中継を見ているスタジオの人が、その払い方で御利益あんのかあ? と突っ込んで笑いが起こっていた。
初詣、行ったことないなあ、と一太が思っている間に、あっという間に支度が整って、四人で車に乗る。光里は、帰省している友達と会う約束があるからと出かけていった。
「光里は外でご飯なのね。私たちも初詣の後、お昼ご飯食べて帰りましょ」
「そうだな。そうしたら、母さんも少し家事休みできるな」
「わ、嬉しい。今日は皆、のんびりしようね。ね、いっちゃん」
家事休み……! そんな言葉があったとは。一太は何だか呆然としてしまった。
正確には陽子は休んでいない。一太も手伝ったが、洗濯は当たり前にしていたし、お風呂も洗っていた。朝ご飯も、簡単におせち料理を食べようと言いつつ、お餅を焼いたり雑煮を温めたり。食べ終えた後は皿を洗った。温かいお茶が飲みたければ淹れて、淹れたら使った湯呑みを洗わなければならなくて。
掃除を、と言ったらお正月くらい休みましょ、と言われたから座っていたけれど、それでもご飯は作らなければなあ、とぼんやり考えていたのだ。
一太は、どこか呆然としたまま車で神社へ連れて行ってもらい、生まれて初めて神様に祈った。陽子に渡された五円玉を賽銭箱に入れて、鈴を鳴らし手を合わせた。何を祈ればいいのか分からず、はじめまして、と挨拶をした。
「おみくじを引こう」
と、また陽子に渡された百円玉でおみくじを買った。紙には「大吉」とあって、失せ物、探せば見つかる、とか、学問、やれば身になる、とか、そりゃそうでしょうよってことが書いてあった。
「あ。いっちゃん大吉。いいねいいね。大吉は、お財布に入れて一年持ってると良いらしいよ?」
「へええ」
そう言いながら、陽子は自分のは木に結んでいる。
「それは?」
と、聞くと、大吉以外は木に結ぶらしい。一太以外の三人は木に結びつけてしまった。
「晃くん、何だったの?」
「小吉。でも、恋愛がその人でよろしだったからいいんだ」
晃はどこか楽しげに言って一太の大吉を覗き込んだ。
「あ、いっちゃんもその人でよろし、だ。僕たち、神様にも認められたみたいよ?」
「そう?」
神様に認めてもらわなくても、とっくに二人は付き合っているんだけどね、なんて思って一太は笑う。
こんな物に百円……と思いつつ、大吉おみくじを大切に財布にしまって、陽子に百五円を返した。
その後はうどん屋に連れて行ってもらった。うどん屋なのに天ぷらがたくさんあった。うどんに、あんなに種類があるとは知らなかった。またたくさんの初めての経験をした。
何も知らない一太を、誰もおかしいと言わなかった。
一太がぼんやり眺めていると、
「観たい番組があればチャンネル替えたらいいよ」
と、リモコンを渡された。
「え?」
「何となくつけてるだけだから」
「そうそう。何かお正月だなあって感じよね」
「へええ」
そんなことを言われても、テレビなんてよく分からない。小さい頃、弟の観ているテレビ番組にふと足を止めて見入ってしまったことがあった。何をさぼっているんだとひどく怒られた。それから一太は、テレビの内容を、意識して目に入れないようにしていた。
晃と共に暮らし始めてからも、テレビがついているなあ、という程度の認識だった。晃も、そんなにテレビをじっくり観ている印象はない。何となくつけている時も、ニュースやスポーツ中継だったように思う。朝のニュースは、天気や世の中の話題を知ることができてとても助かるので、食事をしながらつい見てしまっていたけれども。
一太がリモコンを持って困っていると、スマホを操作していた晃が無造作にボタンを押した。
途端に画面が切り替わって、混雑している場所の中継場面になった。すごい人出だな、と一太が観ていると、
「あ」
と、陽子が声を上げた。
「私たちも、初詣行っちゃいましょう」
「そうだな。早起きしたし時間あるし」
テレビの中は、有名な神社の初詣の混雑を映したものだった。
なんとお賽銭が、スマホのQRコード決済で払えるようになっております、なんてレポーターが言って、その中継を見ているスタジオの人が、その払い方で御利益あんのかあ? と突っ込んで笑いが起こっていた。
初詣、行ったことないなあ、と一太が思っている間に、あっという間に支度が整って、四人で車に乗る。光里は、帰省している友達と会う約束があるからと出かけていった。
「光里は外でご飯なのね。私たちも初詣の後、お昼ご飯食べて帰りましょ」
「そうだな。そうしたら、母さんも少し家事休みできるな」
「わ、嬉しい。今日は皆、のんびりしようね。ね、いっちゃん」
家事休み……! そんな言葉があったとは。一太は何だか呆然としてしまった。
正確には陽子は休んでいない。一太も手伝ったが、洗濯は当たり前にしていたし、お風呂も洗っていた。朝ご飯も、簡単におせち料理を食べようと言いつつ、お餅を焼いたり雑煮を温めたり。食べ終えた後は皿を洗った。温かいお茶が飲みたければ淹れて、淹れたら使った湯呑みを洗わなければならなくて。
掃除を、と言ったらお正月くらい休みましょ、と言われたから座っていたけれど、それでもご飯は作らなければなあ、とぼんやり考えていたのだ。
一太は、どこか呆然としたまま車で神社へ連れて行ってもらい、生まれて初めて神様に祈った。陽子に渡された五円玉を賽銭箱に入れて、鈴を鳴らし手を合わせた。何を祈ればいいのか分からず、はじめまして、と挨拶をした。
「おみくじを引こう」
と、また陽子に渡された百円玉でおみくじを買った。紙には「大吉」とあって、失せ物、探せば見つかる、とか、学問、やれば身になる、とか、そりゃそうでしょうよってことが書いてあった。
「あ。いっちゃん大吉。いいねいいね。大吉は、お財布に入れて一年持ってると良いらしいよ?」
「へええ」
そう言いながら、陽子は自分のは木に結んでいる。
「それは?」
と、聞くと、大吉以外は木に結ぶらしい。一太以外の三人は木に結びつけてしまった。
「晃くん、何だったの?」
「小吉。でも、恋愛がその人でよろしだったからいいんだ」
晃はどこか楽しげに言って一太の大吉を覗き込んだ。
「あ、いっちゃんもその人でよろし、だ。僕たち、神様にも認められたみたいよ?」
「そう?」
神様に認めてもらわなくても、とっくに二人は付き合っているんだけどね、なんて思って一太は笑う。
こんな物に百円……と思いつつ、大吉おみくじを大切に財布にしまって、陽子に百五円を返した。
その後はうどん屋に連れて行ってもらった。うどん屋なのに天ぷらがたくさんあった。うどんに、あんなに種類があるとは知らなかった。またたくさんの初めての経験をした。
何も知らない一太を、誰もおかしいと言わなかった。
358
お気に入りに追加
2,212
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる