【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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228 百円の大吉おみくじは高いか安いか

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 その後は、にいつも正月にやっているのだという駅伝を皆でテレビで眺めた。いつも強い学校などがあるらしく、注目の○○大学、少し出遅れております、とか、△△大学、大健闘です、とかアナウンサーが言っていた。誠も陽子も晃も真剣に観るつもりではないらしく、それぞれの手にスマホや本があってテレビはただ、走る人を映している。
 一太がぼんやり眺めていると、

「観たい番組があればチャンネル替えたらいいよ」

 と、リモコンを渡された。

「え?」
「何となくつけてるだけだから」
「そうそう。何かお正月だなあって感じよね」
「へええ」

 そんなことを言われても、テレビなんてよく分からない。小さい頃、弟の観ているテレビ番組にふと足を止めて見入ってしまったことがあった。何をさぼっているんだとひどく怒られた。それから一太は、テレビの内容を、意識して目に入れないようにしていた。
 晃と共に暮らし始めてからも、テレビがついているなあ、という程度の認識だった。晃も、そんなにテレビをじっくり観ている印象はない。何となくつけている時も、ニュースやスポーツ中継だったように思う。朝のニュースは、天気や世の中の話題を知ることができてとても助かるので、食事をしながらつい見てしまっていたけれども。
 一太がリモコンを持って困っていると、スマホを操作していた晃が無造作にボタンを押した。
 途端に画面が切り替わって、混雑している場所の中継場面になった。すごい人出だな、と一太が観ていると、

「あ」

 と、陽子が声を上げた。

「私たちも、初詣行っちゃいましょう」
「そうだな。早起きしたし時間あるし」

 テレビの中は、有名な神社の初詣の混雑を映したものだった。
 なんとお賽銭が、スマホのQRコード決済で払えるようになっております、なんてレポーターが言って、その中継を見ているスタジオの人が、その払い方で御利益あんのかあ? と突っ込んで笑いが起こっていた。
 初詣、行ったことないなあ、と一太が思っている間に、あっという間に支度が整って、四人で車に乗る。光里は、帰省している友達と会う約束があるからと出かけていった。

「光里は外でご飯なのね。私たちも初詣の後、お昼ご飯食べて帰りましょ」
「そうだな。そうしたら、母さんも少し家事休みできるな」
「わ、嬉しい。今日は皆、のんびりしようね。ね、いっちゃん」

 家事休み……! そんな言葉があったとは。一太は何だか呆然としてしまった。
 正確には陽子は休んでいない。一太も手伝ったが、洗濯は当たり前にしていたし、お風呂も洗っていた。朝ご飯も、簡単におせち料理を食べようと言いつつ、お餅を焼いたり雑煮を温めたり。食べ終えた後は皿を洗った。温かいお茶が飲みたければ淹れて、淹れたら使った湯呑みを洗わなければならなくて。
 掃除を、と言ったらお正月くらい休みましょ、と言われたから座っていたけれど、それでもご飯は作らなければなあ、とぼんやり考えていたのだ。
 一太は、どこか呆然としたまま車で神社へ連れて行ってもらい、生まれて初めて神様に祈った。陽子に渡された五円玉を賽銭箱に入れて、鈴を鳴らし手を合わせた。何を祈ればいいのか分からず、はじめまして、と挨拶をした。
 
「おみくじを引こう」

 と、また陽子に渡された百円玉でおみくじを買った。紙には「大吉」とあって、失せ物、探せば見つかる、とか、学問、やれば身になる、とか、そりゃそうでしょうよってことが書いてあった。

「あ。いっちゃん大吉。いいねいいね。大吉は、お財布に入れて一年持ってると良いらしいよ?」
「へええ」

 そう言いながら、陽子は自分のは木に結んでいる。

「それは?」

 と、聞くと、大吉以外は木に結ぶらしい。一太以外の三人は木に結びつけてしまった。

「晃くん、何だったの?」
「小吉。でも、恋愛がその人でよろしだったからいいんだ」

 晃はどこか楽しげに言って一太の大吉を覗き込んだ。

「あ、いっちゃんもその人でよろし、だ。僕たち、神様にも認められたみたいよ?」
「そう?」

 神様に認めてもらわなくても、とっくに二人は付き合っているんだけどね、なんて思って一太は笑う。
 こんな物に百円……と思いつつ、大吉おみくじを大切に財布にしまって、陽子に百五円を返した。
 その後はうどん屋に連れて行ってもらった。うどん屋なのに天ぷらがたくさんあった。うどんに、あんなに種類があるとは知らなかった。またたくさんの初めての経験をした。
 何も知らない一太を、誰もおかしいと言わなかった。

 
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