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225 ◇恋情と親愛
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「晃、少し話をしよう」
「なに?」
朝食の後、テレビの前のソファに移動した。ソファに座る時に電源を入れたテレビでは、大学生の駅伝が始まっていた。正月だなあ、と感じる。座卓の上には昨日届いた年賀状。晃は新年の挨拶をメールで全て済ましてしまったが、知り合いからハガキで数枚届いていて驚いた。
そういえば一太は、正月に関する準備は何もしていなかったな、と思う。仕事が休みと聞いて呆然としていたから、仕事をする気しかなかったようだ。一太にとって正月は、普段と変わらぬ一日でしかなかったのだろう。年賀状一枚買うにもお金がかかるのだから。
「一太くんのお前への感情は、お前の一太くんへの感情と少々違うのではないか?」
テレビに目を向けたままの晃を気にすることなく、父が言う。
「違わないと思うけど」
晃は、父の言葉に少しカチンときたので、父の方を向いて目を合わせた。
「いや。お前は一太くんが男であっても、恋愛感情で好きなのだろう? そのことについて、おかしいとかやめろとか言うつもりは無い。理解できるかと言われると難しいが、感情など人に言われて変えられるものではないからな。一太くんへの同情が恋愛感情であると勘違いしているとしても、勘違いかどうかは後々にならないと分からないものだ。そんなことはいい。だが、一太くんの方の感情は、お前への恋情ではなく保護者への親愛なのではないだろうか」
保護者への親愛。
一太の、児童養護施設の女の先生への感情は、間違いなくそれだろう。その人だけが好きだった、と言った一太。育ててくれた人のことが好きになるのは当然だ。誰だってそうだ。
一太が、晃の母のことが好きなのも、母が甲斐甲斐しく世話を焼くからだろう。離れて暮らしてみて、離れていても世話は焼けるのだと知った。メールをマメに送ってきて、料理や家事のことなどを聞けばすぐに答えてくれて、荷物を送ってきて。
それは、晃相手だけでなく一太に対しても同じように、いや、最近は返事のない晃相手より頻繁に行われている。一太の名前を宛名に書いて送られてきた荷物に、一太がどれだけ喜んだか! 動画に撮って母に送ってやれば良かったと晃が思った程の、一太の感激の様子だった。
俺の? と三回、いや四回は聞いただろうか。そうだよ、ってその度に答えて。開けていいの? と、それも三回。震える手で荷物を開けて、中に入っている服を見てまた感動して止まって……。服を一枚づつ震える手で取り出す頃には、涙ぐんでいた。見えない振りをしたけれど、一太は嬉しくて泣いていた。
あんな感動を与えてくれる母を好きにならない訳がない。分かる。晃だって好きだ。世話焼きが過ぎて少々ウザいと感じることもあるが、それもまた甘えているから思えることだ。今は離れているから、ほどほどでちょうど良いのだろう。一太にとっても。
一太は、世話を焼かれると一度ぴたりと動きを止めて驚く。自分に、そんな事が起こるとは信じられない、というように。それを受けて良いのか迷うように。
けれど、晃に対してだけそれがない、と思う。ちゃんと甘えてくれる。
それだけで特別だ。その辺の人への好きと晃への好きは訳が違うのだ。一太が甘えてくるのなんて、本当に自分だけだと晃には自信がある。だから、はっきり言える。
「違う。いっちゃんは区別がついていないだけだと思う」
「なに?」
朝食の後、テレビの前のソファに移動した。ソファに座る時に電源を入れたテレビでは、大学生の駅伝が始まっていた。正月だなあ、と感じる。座卓の上には昨日届いた年賀状。晃は新年の挨拶をメールで全て済ましてしまったが、知り合いからハガキで数枚届いていて驚いた。
そういえば一太は、正月に関する準備は何もしていなかったな、と思う。仕事が休みと聞いて呆然としていたから、仕事をする気しかなかったようだ。一太にとって正月は、普段と変わらぬ一日でしかなかったのだろう。年賀状一枚買うにもお金がかかるのだから。
「一太くんのお前への感情は、お前の一太くんへの感情と少々違うのではないか?」
テレビに目を向けたままの晃を気にすることなく、父が言う。
「違わないと思うけど」
晃は、父の言葉に少しカチンときたので、父の方を向いて目を合わせた。
「いや。お前は一太くんが男であっても、恋愛感情で好きなのだろう? そのことについて、おかしいとかやめろとか言うつもりは無い。理解できるかと言われると難しいが、感情など人に言われて変えられるものではないからな。一太くんへの同情が恋愛感情であると勘違いしているとしても、勘違いかどうかは後々にならないと分からないものだ。そんなことはいい。だが、一太くんの方の感情は、お前への恋情ではなく保護者への親愛なのではないだろうか」
保護者への親愛。
一太の、児童養護施設の女の先生への感情は、間違いなくそれだろう。その人だけが好きだった、と言った一太。育ててくれた人のことが好きになるのは当然だ。誰だってそうだ。
一太が、晃の母のことが好きなのも、母が甲斐甲斐しく世話を焼くからだろう。離れて暮らしてみて、離れていても世話は焼けるのだと知った。メールをマメに送ってきて、料理や家事のことなどを聞けばすぐに答えてくれて、荷物を送ってきて。
それは、晃相手だけでなく一太に対しても同じように、いや、最近は返事のない晃相手より頻繁に行われている。一太の名前を宛名に書いて送られてきた荷物に、一太がどれだけ喜んだか! 動画に撮って母に送ってやれば良かったと晃が思った程の、一太の感激の様子だった。
俺の? と三回、いや四回は聞いただろうか。そうだよ、ってその度に答えて。開けていいの? と、それも三回。震える手で荷物を開けて、中に入っている服を見てまた感動して止まって……。服を一枚づつ震える手で取り出す頃には、涙ぐんでいた。見えない振りをしたけれど、一太は嬉しくて泣いていた。
あんな感動を与えてくれる母を好きにならない訳がない。分かる。晃だって好きだ。世話焼きが過ぎて少々ウザいと感じることもあるが、それもまた甘えているから思えることだ。今は離れているから、ほどほどでちょうど良いのだろう。一太にとっても。
一太は、世話を焼かれると一度ぴたりと動きを止めて驚く。自分に、そんな事が起こるとは信じられない、というように。それを受けて良いのか迷うように。
けれど、晃に対してだけそれがない、と思う。ちゃんと甘えてくれる。
それだけで特別だ。その辺の人への好きと晃への好きは訳が違うのだ。一太が甘えてくるのなんて、本当に自分だけだと晃には自信がある。だから、はっきり言える。
「違う。いっちゃんは区別がついていないだけだと思う」
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