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215 好きな人の顔をいつでも見たいので
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「じゃあ、誕生日パーティ始めましょ」
「へ? は? いや、ケーキ食べるだけで充分だよ。パーティって何だよ、パーティって」
「歌うのよ。そして写真撮るの」
「もういい歳なんだから、いらないよ!」
「いるわよ。光里、ピアノ弾いて」
陽子と晃が言い合いをしている。二人の時は、一太の下手くそなピアノと歌を喜んでくれたのに、晃くんは本当はああいうのはいらなかったのだろうか。一太は、間でおろおろと二人の顔を見ていた。
「え? いやだ。晃の前でピアノ弾きたくない」
「えええ。誕生日の歌を歌うだけなのに」
「自分よりはるかに上手な人の前で弾くのやだー。晃が自分で弾けばいいんじゃない?」
今度は陽子と光里の間で言い合いが始まる。俺、自分よりはるかに上手な晃くんの前で思い切り弾いてしまったな、と一太は更に困って縮こまった。
「とりあえず写真撮ろう。ほら、ケーキの前に座って」
誠が気にした様子もなくスマホを構える。晃が、はあ、とため息をつきながら席に着いた。
「私、髪の毛と顔を確認してくる」
光里がばたばたと洗面所へ駆けていく。
一太は慌てて自分のスマホを探してカメラを起動した。落ち込んでいる場合ではない。晃くんをカメラに納めるチャンスだ。二人の誕生日パーティが本当は嫌でなかったかどうかは後で確認しよう。とにかく、写真が撮りたい。
一太の写真フォルダは最近、晃の写真でいっぱいだった。大変に幸せな状態となっている。いつでも見たい時に晃くんの顔が見られるのは素晴らしい。
新しいスマホを買ってよかった、と一太はしみじみ思う。
「晃、撮るぞ」
誠の声に一太もスマホを構えた。見ると陽子も自分のスマホを構えている。
「ふは」
珍しく晃が笑い出した。カシャカシャカシャと三つのシャッター音に、ますます笑う。
「一人が撮って、メールで送ればいいだろ。何で三人で撮ってんだよ。どこ見たらいいか分かんないよ」
「あら。確かにそうね。あはは。記者会見みたいになっちゃった」
「いい写真が撮れた。よし。一太くん、入ってきなさい。晃の横に立って」
「へ?」
「ほら、早く」
「え? でも、俺関係ない……」
「いっちゃん、いいからこっち来て」
晃に呼ばれると弱い。隣に立って晃の方を向くと、笑っている顔と目が合って一太も釣られて笑う。カシャカシャと二つのシャッター音がした。
「え?」
と、前を向くとまた、カシャカシャと音がする。二つのレンズがこちらを向いていて、なるほど、どこを見ればよいのか分からない。
「あは」
と、笑ってもう一度晃の方を向くと、晃も一太の方を向いて笑っていた。またカシャカシャとシャッター音。思わず笑顔のまま、誠と陽子の方へ顔を向ける。また撮られたのが分かった。
「よし、ばっちり」
洗面所から出てきた光里の声がした。先ほどまでの顔や髪型との違いは一太には分からなかったが、ばっちりになったらしい。
光里は、当たり前のように座る晃の横、一太と反対側の位置に立った。誠と陽子は何枚か撮って満足してスマホを下ろす。
「よし、歌ってからケーキ食べよ」
「あの、陽子さんたちは?」
「え? 私たちは入らなくていいわよ」
「駄目です。俺、撮りますから、家族写真」
一太が抜けて四人で撮れば、お正月の家族写真が完成だ。生憎、一番上のお姉さん夫婦が今日はいないが、とりあえず家族写真として飾れるだろう。
一太が抜けようとすると、その前に誠が動いた。
「いや、三脚があるから、それで撮ろう。一太くんはそこにいなさい。お母さんも入ってて」
「はーい」
え? え? とまた一太が戸惑っていると、晃に腕を掴まれてその場に留められる。あっという間に、一太も存在する家族写真が出来上がってしまった。
誠からメールで写真を受け取った晃は、嬉しそうにスマホのフォルダに保存していた。
ちらりと見えたそのフォルダは、一太の写真でいっぱいだった。
まるで、一太のフォルダが晃の写真でいっぱいなのと同じように、一太の写真でいっぱいだった。
「へ? は? いや、ケーキ食べるだけで充分だよ。パーティって何だよ、パーティって」
「歌うのよ。そして写真撮るの」
「もういい歳なんだから、いらないよ!」
「いるわよ。光里、ピアノ弾いて」
陽子と晃が言い合いをしている。二人の時は、一太の下手くそなピアノと歌を喜んでくれたのに、晃くんは本当はああいうのはいらなかったのだろうか。一太は、間でおろおろと二人の顔を見ていた。
「え? いやだ。晃の前でピアノ弾きたくない」
「えええ。誕生日の歌を歌うだけなのに」
「自分よりはるかに上手な人の前で弾くのやだー。晃が自分で弾けばいいんじゃない?」
今度は陽子と光里の間で言い合いが始まる。俺、自分よりはるかに上手な晃くんの前で思い切り弾いてしまったな、と一太は更に困って縮こまった。
「とりあえず写真撮ろう。ほら、ケーキの前に座って」
誠が気にした様子もなくスマホを構える。晃が、はあ、とため息をつきながら席に着いた。
「私、髪の毛と顔を確認してくる」
光里がばたばたと洗面所へ駆けていく。
一太は慌てて自分のスマホを探してカメラを起動した。落ち込んでいる場合ではない。晃くんをカメラに納めるチャンスだ。二人の誕生日パーティが本当は嫌でなかったかどうかは後で確認しよう。とにかく、写真が撮りたい。
一太の写真フォルダは最近、晃の写真でいっぱいだった。大変に幸せな状態となっている。いつでも見たい時に晃くんの顔が見られるのは素晴らしい。
新しいスマホを買ってよかった、と一太はしみじみ思う。
「晃、撮るぞ」
誠の声に一太もスマホを構えた。見ると陽子も自分のスマホを構えている。
「ふは」
珍しく晃が笑い出した。カシャカシャカシャと三つのシャッター音に、ますます笑う。
「一人が撮って、メールで送ればいいだろ。何で三人で撮ってんだよ。どこ見たらいいか分かんないよ」
「あら。確かにそうね。あはは。記者会見みたいになっちゃった」
「いい写真が撮れた。よし。一太くん、入ってきなさい。晃の横に立って」
「へ?」
「ほら、早く」
「え? でも、俺関係ない……」
「いっちゃん、いいからこっち来て」
晃に呼ばれると弱い。隣に立って晃の方を向くと、笑っている顔と目が合って一太も釣られて笑う。カシャカシャと二つのシャッター音がした。
「え?」
と、前を向くとまた、カシャカシャと音がする。二つのレンズがこちらを向いていて、なるほど、どこを見ればよいのか分からない。
「あは」
と、笑ってもう一度晃の方を向くと、晃も一太の方を向いて笑っていた。またカシャカシャとシャッター音。思わず笑顔のまま、誠と陽子の方へ顔を向ける。また撮られたのが分かった。
「よし、ばっちり」
洗面所から出てきた光里の声がした。先ほどまでの顔や髪型との違いは一太には分からなかったが、ばっちりになったらしい。
光里は、当たり前のように座る晃の横、一太と反対側の位置に立った。誠と陽子は何枚か撮って満足してスマホを下ろす。
「よし、歌ってからケーキ食べよ」
「あの、陽子さんたちは?」
「え? 私たちは入らなくていいわよ」
「駄目です。俺、撮りますから、家族写真」
一太が抜けて四人で撮れば、お正月の家族写真が完成だ。生憎、一番上のお姉さん夫婦が今日はいないが、とりあえず家族写真として飾れるだろう。
一太が抜けようとすると、その前に誠が動いた。
「いや、三脚があるから、それで撮ろう。一太くんはそこにいなさい。お母さんも入ってて」
「はーい」
え? え? とまた一太が戸惑っていると、晃に腕を掴まれてその場に留められる。あっという間に、一太も存在する家族写真が出来上がってしまった。
誠からメールで写真を受け取った晃は、嬉しそうにスマホのフォルダに保存していた。
ちらりと見えたそのフォルダは、一太の写真でいっぱいだった。
まるで、一太のフォルダが晃の写真でいっぱいなのと同じように、一太の写真でいっぱいだった。
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