201 / 397
201 知ることができて良かった
しおりを挟む
世の中は、一太の知らないことで溢れていた。普通に生きていくことの、なんと難しいことか。やっと誕生日をクリアしたのに、次はクリスマスだ。どれも、存在は知っていた。
誕生日は生まれた日。一つづつ歳をとって、できる事が増えていく。しなくてはいけない事も増えていく。年金を支払ったり、保険料を支払ったり。学費や教科書代を支払ったり。
支払いばかりで困ってしまう……。
一太にとっては特別でも何でもなかった、ただ生まれた日というだけの日に、お祝いをすることを知った。なら、晃くんの誕生日のお祝いをしなくては、と思ったのは、プレゼントをもらったお返しの意味もあったけれど、普通はそうするものだから、という思いが強かった。普通はそうするのなら、しなくてはいけない、と。
けれど、準備のために色々と松島に内緒で考えたり調べたり作ったりして、その結果喜んでもらったことは、とても嬉しくて。こうして好きな人を祝うというのは、祝った方も嬉しい気持ちになるんだなあ、なんて思ったりして。自分のことを好きな人が今まで一人もいなかったから、俺は一度も祝われなかったのかな、なんて落ち込んだりもした。
けれど、一太が祝える人もいなかったことを思うと、お互い様だ。今回、松島が喜んでくれた事を、ただ一緒に喜ぼうと気を取り直して。
そうして、気持ちを整えて寝たというのに、起きたらクリスマスだ。プレゼントが枕元にあったのを見た時は、息が止まるかと思った。そんな事が、自分の身に起こるなんて夢にも思っていなかった。色々、色々聞いて知っているつもりだった。クリスマスの話は、子どもの頃は毎年必ず、学校で話題になるものだから。どんなプレゼントをお願いしたのか、何が欲しいのか、サンタはいるかいないか。一太はただ、聞いているだけだったけれど。それでも、そこで学んできたつもりだった。
恋人がサンタクロース? 確かに、バイト先のスーパーで流れていたクリスマスソングで、そんな歌詞を聞いたことはあるけれども。こうして、相手にプレゼントを贈るものだ、という意味だったとは知らなかった。
「俺ばかり、プレゼントをもらえない」
「僕は昨日、たくさんのプレゼントをもらったよ?」
一太が、松島の腕の中で丸まって言うと、すぐににこにこと返事が返ってくる。
「あれは、誕生日のプレゼントで、エプロンのお返しで……。クリスマスにもプレゼントがいるなんて、おれ……」
知らなかった、とばかり言っている気がして、一太は言葉を続けられなかった。
「クリスマスプレゼント、迷惑だった?」
とんでもない。
一太にとって、生まれて初めてのクリスマスプレゼントだ。まだ松島が起きていない時間だということも忘れて飛び起きるほど、嬉しかった。
一太は、首を横に振る。
「嬉しい?」
こくり、と頷く。
「初めてもらった。嬉しい……」
少しだけ、松島の動きが止まった。ん?と見上げると喉が上下に動いている。
「そ、そっか……。初めてか……」
「うん」
「……もらってくれて、喜んでくれると、サンタさんも嬉しいな」
少しおどけた調子で松島が言ってくれるから。
お返しはまた考えることにしよう、と一太はようやく松島の腕の中から起き上がった。一度起きてからまた寝てしまうというのも、珍しい体験だった。何だか、気持ち良かった。
一太は、座卓に置いていたプレゼントを手に取る。
松島がリモコンで電気をつけてくれたので、鮮やかなクリスマスカラーの包装紙をまじまじと眺めた。自然と、頬が緩んでくる。
「ありがとう、晃くん。……開けてもいい?」
誕生日は生まれた日。一つづつ歳をとって、できる事が増えていく。しなくてはいけない事も増えていく。年金を支払ったり、保険料を支払ったり。学費や教科書代を支払ったり。
支払いばかりで困ってしまう……。
一太にとっては特別でも何でもなかった、ただ生まれた日というだけの日に、お祝いをすることを知った。なら、晃くんの誕生日のお祝いをしなくては、と思ったのは、プレゼントをもらったお返しの意味もあったけれど、普通はそうするものだから、という思いが強かった。普通はそうするのなら、しなくてはいけない、と。
けれど、準備のために色々と松島に内緒で考えたり調べたり作ったりして、その結果喜んでもらったことは、とても嬉しくて。こうして好きな人を祝うというのは、祝った方も嬉しい気持ちになるんだなあ、なんて思ったりして。自分のことを好きな人が今まで一人もいなかったから、俺は一度も祝われなかったのかな、なんて落ち込んだりもした。
けれど、一太が祝える人もいなかったことを思うと、お互い様だ。今回、松島が喜んでくれた事を、ただ一緒に喜ぼうと気を取り直して。
そうして、気持ちを整えて寝たというのに、起きたらクリスマスだ。プレゼントが枕元にあったのを見た時は、息が止まるかと思った。そんな事が、自分の身に起こるなんて夢にも思っていなかった。色々、色々聞いて知っているつもりだった。クリスマスの話は、子どもの頃は毎年必ず、学校で話題になるものだから。どんなプレゼントをお願いしたのか、何が欲しいのか、サンタはいるかいないか。一太はただ、聞いているだけだったけれど。それでも、そこで学んできたつもりだった。
恋人がサンタクロース? 確かに、バイト先のスーパーで流れていたクリスマスソングで、そんな歌詞を聞いたことはあるけれども。こうして、相手にプレゼントを贈るものだ、という意味だったとは知らなかった。
「俺ばかり、プレゼントをもらえない」
「僕は昨日、たくさんのプレゼントをもらったよ?」
一太が、松島の腕の中で丸まって言うと、すぐににこにこと返事が返ってくる。
「あれは、誕生日のプレゼントで、エプロンのお返しで……。クリスマスにもプレゼントがいるなんて、おれ……」
知らなかった、とばかり言っている気がして、一太は言葉を続けられなかった。
「クリスマスプレゼント、迷惑だった?」
とんでもない。
一太にとって、生まれて初めてのクリスマスプレゼントだ。まだ松島が起きていない時間だということも忘れて飛び起きるほど、嬉しかった。
一太は、首を横に振る。
「嬉しい?」
こくり、と頷く。
「初めてもらった。嬉しい……」
少しだけ、松島の動きが止まった。ん?と見上げると喉が上下に動いている。
「そ、そっか……。初めてか……」
「うん」
「……もらってくれて、喜んでくれると、サンタさんも嬉しいな」
少しおどけた調子で松島が言ってくれるから。
お返しはまた考えることにしよう、と一太はようやく松島の腕の中から起き上がった。一度起きてからまた寝てしまうというのも、珍しい体験だった。何だか、気持ち良かった。
一太は、座卓に置いていたプレゼントを手に取る。
松島がリモコンで電気をつけてくれたので、鮮やかなクリスマスカラーの包装紙をまじまじと眺めた。自然と、頬が緩んでくる。
「ありがとう、晃くん。……開けてもいい?」
応援ありがとうございます!
82
お気に入りに追加
1,489
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる