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199 心の底から出た言葉
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松島はまだ、ぐっすり眠っていた。あ、と一太は時計を見る。五時過ぎだ。徐々にたくさん眠れるようにはなってきたが、どうしても六時前には目が覚めてしまう。体に染みついた習慣、というか、寝坊などしたらどんな目にあうか分からない、という強迫観念はなかなか一太から離れることが無かった。
物音で松島を起こしたら申し訳ない、と六時までは布団でじっとしていることが多い。特に最近は寒いので、布団から抜け出すのも一苦労だった。折角なので湯たんぽを抱えて、布団の温かさを堪能している。
湯たんぽと毛布は、松島の母、陽子から送られてきた物だ。家で余ってたから使ってね、とのことだったので、ありがたく受け取った。お陰で一太は、寒さに震えることなく、朝までぐっすりと眠ることができている。こんなにのんびりした毎日を送っているのに、寝つきはあっという間だった。
倒れ込んで意識をなくし、寒さに震えて起きていた日々が、嘘みたいだ。
とりあえず、プレゼントの箱を座卓に置いて、当然のように洗濯機の置いてある洗面室を開ける。寝る前まで暖房を付けていた居間よりもっと冷えた場所で、せっせと洗濯物を洗濯機の中に入れた。
上着も湯たんぽも、自分の部屋であるロフトに置いてきてしまったので、流石に寒い。松島のお古だというパジャマも、体操着に比べたら格段に暖かい素材の品だが、冬の朝にパジャマ一枚というのは良くなかった。
一太は、震える指先で風呂水ポンプを湯船の残り湯の中に入れ、洗濯機の電源を入れる。ピーと電子音が響くので、寝ている松島が煩くないように、洗面室の扉はぴったりと閉めた。洗剤と柔軟剤も、寒さに震えながら洗濯機の指示通り入れて、後はお任せだ。洗濯物を外に干せる季節でもなし、乾燥までしてしまうコースにしても良かったが、暖房の下に置いておけば乾くかも、というもったいない精神が顔を出して、洗濯だけのコースを選択した。
ほっとして居間へ入った途端に、くしょん、くしょん、とくしゃみが連続で出た。慌てて口を押さえたが、かなり大きく部屋に響いた。
後ろでは、まだ閉めていない扉の向こうで洗濯機が、ご、ご、ごと風呂水を吸い上げる音がする。
一太がしまった、と扉を閉めた時には、
「いっちゃん?」
と、松島の、寝起きの少し掠れた声がした。
「ご、ごめん、晃くん。うるさくして……。くしゃんっ」
「暖房……は……?」
「あ、まだ早い、から……。くしょん。ごめん」
「いっちゃん、こっち来て」
「ん……」
常夜灯を頼りに松島のベッドの方へ近寄ると、ぐいと手を引かれる。
「冷え冷えじゃん。風邪引いたらどうするの」
「ごめん」
そのまま、ベッドの中へ引きずり込まれた。
松島は一太を足で押さえて、布団から手を伸ばし、枕元に付いている小さな台の上のリモコンを一つ手に取った。暗い中でも分かるらしく、自動運転ボタンを押して暖房をつける。
「部屋が暖まるまで、布団から出るの禁止」
そうして松島は手を布団の中に戻すと、一太を抱きこんで寝直す体勢に入った。
ぎゅって抱っこして貰える形になって、あったかくて嬉しくて、一太はくふ、と声を漏らした。
「幸せ……」
物音で松島を起こしたら申し訳ない、と六時までは布団でじっとしていることが多い。特に最近は寒いので、布団から抜け出すのも一苦労だった。折角なので湯たんぽを抱えて、布団の温かさを堪能している。
湯たんぽと毛布は、松島の母、陽子から送られてきた物だ。家で余ってたから使ってね、とのことだったので、ありがたく受け取った。お陰で一太は、寒さに震えることなく、朝までぐっすりと眠ることができている。こんなにのんびりした毎日を送っているのに、寝つきはあっという間だった。
倒れ込んで意識をなくし、寒さに震えて起きていた日々が、嘘みたいだ。
とりあえず、プレゼントの箱を座卓に置いて、当然のように洗濯機の置いてある洗面室を開ける。寝る前まで暖房を付けていた居間よりもっと冷えた場所で、せっせと洗濯物を洗濯機の中に入れた。
上着も湯たんぽも、自分の部屋であるロフトに置いてきてしまったので、流石に寒い。松島のお古だというパジャマも、体操着に比べたら格段に暖かい素材の品だが、冬の朝にパジャマ一枚というのは良くなかった。
一太は、震える指先で風呂水ポンプを湯船の残り湯の中に入れ、洗濯機の電源を入れる。ピーと電子音が響くので、寝ている松島が煩くないように、洗面室の扉はぴったりと閉めた。洗剤と柔軟剤も、寒さに震えながら洗濯機の指示通り入れて、後はお任せだ。洗濯物を外に干せる季節でもなし、乾燥までしてしまうコースにしても良かったが、暖房の下に置いておけば乾くかも、というもったいない精神が顔を出して、洗濯だけのコースを選択した。
ほっとして居間へ入った途端に、くしょん、くしょん、とくしゃみが連続で出た。慌てて口を押さえたが、かなり大きく部屋に響いた。
後ろでは、まだ閉めていない扉の向こうで洗濯機が、ご、ご、ごと風呂水を吸い上げる音がする。
一太がしまった、と扉を閉めた時には、
「いっちゃん?」
と、松島の、寝起きの少し掠れた声がした。
「ご、ごめん、晃くん。うるさくして……。くしゃんっ」
「暖房……は……?」
「あ、まだ早い、から……。くしょん。ごめん」
「いっちゃん、こっち来て」
「ん……」
常夜灯を頼りに松島のベッドの方へ近寄ると、ぐいと手を引かれる。
「冷え冷えじゃん。風邪引いたらどうするの」
「ごめん」
そのまま、ベッドの中へ引きずり込まれた。
松島は一太を足で押さえて、布団から手を伸ばし、枕元に付いている小さな台の上のリモコンを一つ手に取った。暗い中でも分かるらしく、自動運転ボタンを押して暖房をつける。
「部屋が暖まるまで、布団から出るの禁止」
そうして松島は手を布団の中に戻すと、一太を抱きこんで寝直す体勢に入った。
ぎゅって抱っこして貰える形になって、あったかくて嬉しくて、一太はくふ、と声を漏らした。
「幸せ……」
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